ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2026年03月 > 二光子バブルプリント法の開発と描画メカニズム解明 ~超広域材料対応型レーザーマイクロ描画プロセスの実現~

二光子バブルプリント法の開発と描画メカニズム解明 ~超広域材料対応型レーザーマイクロ描画プロセスの実現~

掲載日:2026.03.26

本件のポイント

  • 超広域材料対応型レーザーマイクロ描画プロセスである二光子バブルプリント法を開発し、その描画メカニズムを世界で初めて明らかにした。
  • 二光子反応1)で生成された金属核が、その直上で生じた蒸気バブルに非対称な温度勾配を与えることで、超広域材料選択性と途切れの無い連続的パターン描画特性の両立が可能となることを明らかにした。
  • 極めて広い材料適用性と連続的パターニングの両立に成功し,先進的な光製造技術による低環境負荷かつスマートなものづくりへの貢献が期待できる。

リリースペーパーはこちら

概要

 山形大学の西山教授の研究グループは、超広域材料選択性を持つ新しいレーザー描画プロセス「二光子バブルプリント法」を開発するとともに、その描画メカニズムを世界で初めて明らかにしました。
 レーザー直接描画プロセスは、マイクロ空間において光照射のみで機能性パターンを形成できるシンプルな加工技術として、エレクトロニクスやフォトニクス分野を中心に応用が進められています。しかし、光加工であるため、長年その適用は感光性材料に限定されてきました。同グループでは、2016年にこの課題を解決し得る溶液中のレーザー描画現象を発見していました。今回の研究では、描画用の光源であるフェムト秒レーザー2)の集光部において二光子反応により金属核が生成され、この核が非対称な温度分布を持つ微小な蒸気バブルを生成していることが分かりました。この独特の温度分布により異方的なマランゴニ対流3)が誘起され、集光部のバブル位置を不安定化させることなくターゲットとする機能性粒子を連続的に集積固化していることが明らかとなりました。本レーザー技術は、従来困難であった、極めて広い材料選択性と途切れのない連続的パターン形成の両立を可能とすることから、スマートで低環境負荷な次世代ものづくりへの貢献が期待できます。本研究成果は、Wiley社が刊行する国際学術誌Smallの最新号に掲載されBack coverにも選ばれました。

背景

 将来の製造技術においては、設計から加工、評価に至るまでをデジタル情報で統合し、AI やデータ解析技術を活用して加工条件や材料選択を柔軟に切り替えるスマート製造への移行が進むと考えられている。このような製造概念のもとでは、特定の材料や反応系に強く依存しない、高い汎用性を備えた加工プロセスが基盤技術として重要となる。こうした要請に応える加工手法として、レーザー加工技術は、非接触性、デジタルデータとの高い親和性、ならびにビーム特性を精密に制御できる点から、スマートかつ柔軟な製造プロセスとして注目されている。とりわけ、微小領域における高精度な構造形成やオンデマンドでのパターン生成が可能である点は大きな強みである。
 マイクロ・ナノスケールで材料を局所的に積み上げる微細付加製造は、従来の除去加工では困難であった高い構造自由度や機能集積を可能にしてきた。中でもレーザー直接描画(Direct Laser Writing, DLW)は、集光レーザーによって微小空間で反応を誘起し、その集光部を走査することで材料の合成反応を連続的につなぐ付加製造プロセスである。しかし、従来の DLW は光化学反応による「その場材料合成」を前提とするため、適用可能な材料や反応系が限られ、感光性材料に事実上限定されてきた。この材料制約は、レーザー加工が本来持つ自由度やデジタル親和性を十分に活かしきれていない要因の一つであり、スマート製造の観点からも克服すべき本質的課題である。そのため、従来の「その場材料合成」型 DLWの枠組みを超え、材料選択性の制約を原理的に受けにくい新しいレーザー描画プロセスの確立が強く求められている。

研究成果・研究手法

 金属イオンが溶け込んだ溶液にナノ粒子を分散させて、低出力のフェムト秒レーザーを照射すると、集光部において、金属コア上にナノ粒子凝集体が層状に堆積した階層的構造が形成され、なおかつ、集光部を走査すると、走査方向に沿ってこの階層的構造が途切れることなく連続的に形成される現象を2016年に発見した。この現象は、幅広い種類のナノ粒子に適用でき、ナノ粒子をターゲット材料としておけば、結果として従来のDLWでは原理的に困難であった非感光性材料でのマイクロ配線化を可能とした。本研究では、この描画メカニズム解明のため、集光部の高速度カメラで観察を行ったところ、集光部では歪んだ微小バブルが存在し、走査方向に対し後方から前方に向かう強力な流れが生じていることが分かった。詳細な観察と解析から、このバブルは、非線形光学現象の一つである二光子還元反応4)で生じた金属核が後続レーザー光に対して光熱変換源として機能することで生じており、金属核との部分的な接触によってバブルの歪みと非対称な温度勾配を生み出したことが分かった。強力な前後流はこのバブル表面温度勾配で生じた異方的なマランゴニ対流であり、この流れがバブル後方部にのみ液中の粒子を集積固化したと考えられた。
 光吸収薄膜などへの集光で生成した微小な蒸気バブルを用いて溶液中の粒子を集積するという現象は2010年頃には報告があるが、走査下では断線が多く、工学的な意味での連続的なパターン描画は容易ではなかった。これは、光吸収膜とバブル下部全面が接触することで、バブル表面の温度分布が対称的となり、その結果、バブル周囲に等方的な粒子凝集体が形成されることで、バブル位置が激しく変動することが主因である。一方、本手法では、二光子反応を介するため、金属核は集光部の一部でのみ形成され、走査下においては金属核がバブル後方部に限定して接触する。この空間的非対称性により、非対称な温度分布を有するバブル表面が形成され、バブル前方および側方でのナノ粒子凝集体形成が抑制される一方、後方部では粒子の優先的な堆積が進行する。その結果、この非対称な粒子集積過程が、途切れのない連続的な粒子堆積を可能にしたと結論付けられた。
 二光子バブルプリント法は、非線形光学現象と熱流体現象の協調的現象であり、非対称なバブル駆動粒子集積によって粒子凝集体の途切れの無い連続的な描画を可能とし、従来のDLWでは困難であった超広域材料選択性5)を備えたDLWを実現した。

図1 二光子バブルプリント法の模式図。(a)集光部で二光子反応による金属核の形成、(b)後続レーザーパルスが金属核を加熱し微小な蒸気バブルが発生、(c)バブル表面の非対称な温度分布が周囲に対流を駆動し、ターゲット粒子を集光部に集積固化する。の画像
図1 二光子バブルプリント法の模式図。(a)集光部で二光子反応による金属核の形成、(b)後続レーザーパルスが金属核を加熱し微小な蒸気バブルが発生、(c)バブル表面の非対称な温度分布が周囲に対流を駆動し、ターゲット粒子を集光部に集積固化する。

図2 集光部で観察された歪んだ微小バブルの光学顕微鏡像。下方からガラス基板越しに照射を行い、集光部は画面の左から右方向へとしている。周囲には強力な前後流が生じている。の画像
図2 集光部で観察された歪んだ微小バブルの光学顕微鏡像。下方からガラス基板越しに照射を行い、集光部は画面の左から右方向へとしている。周囲には強力な前後流が生じている。

今後の展望

 二光子バブルプリント法は、従来のDLWでは困難であった極めて広い材料選択性を備えた微細付加製造プロセスとして、スマート製造における柔軟かつ高効率な加工技術への展開が期待される。材料種への依存性が小さく、非接触・局所加工は、プロセス簡素化や材料ロス低減につながり、低環境負荷・低炭素型ものづくりへの貢献となる。今後は、AIベースのレーザー制御を導入することで、非線形光学現象と熱流体現象の協調効果をさらに高度化し、材料多様性を持つ次世代のスマートレーザー加工技術へと発展させることを目指す。

論文情報

・論文タイトル Two-Photon Microbubble Printing: Asymmetric Assembly for Continuous Laser Writing 

・著者名Masaharu Aoyama, Shogo Nara, Hiroshi Numata, Kaito Kimura, Sawa Suzuki, Hiroaki Nishiyama*

・雑誌名Small
 DOI 10.1002/smll.202505445 

謝辞

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金 基盤研究(B)19H02474、 挑戦的研究(萌芽)22K18746、基盤研究(B) 23K26416およびYUCOE(C)の支援を受けて行われました。

用語解説

1)二光子反応:極めて高い強度の光照射で生じる非線形光学現象の一つ。

2)フェムト秒レーザー:10-13秒ほどの非常に短いパルス幅を持つレーザー光。極めて高いピーク強度のレーザー光が放出される。

3)マランゴニ対流:液体界面に生じた温度や濃度の不均一によって表面張力に勾配が生じ、その差を駆動力として液体が流動する現象。

4)二光子還元反応:上記の二光子反応の一種で、高強度レーザー照射などにより、2つの光子がほぼ同時に吸収されることでイオンの還元反応が進行する化学反応。

5)超広域材料選択性:従来レーザー描画法では感光性材料にしか適用困難であったことに対して、金属や絶縁体、半導体、量子材料など非常に幅広い種類の材料を対象材料として選択し得ることを指す。

参考リンク

  • シェア
  • 送る

プレスリリース一覧へ