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だだちゃ®豆のおいしさを決める遺伝子を発見 ~早生化遺伝子tof11は枝豆の高遊離アミノ酸化をもたらし食味を向上させる~

掲載日:2026.04.01

山形大学
岩手大学
東京農工大学

本件のポイント

  • だだちゃ®豆とダイズの交雑集団のDNAと種子成分を調べることで、開花を早める遺伝子tof11が枝豆の食味を向上させることを発見
  • 枝豆の食味成分を高蓄積させる遺伝子の発見は、世界で初めて
  • 山形県鶴岡市で栽培されるだだちゃ豆のおいしい理由を遺伝子レベルで証明することに成功しだだちゃ豆ブランド力のさらなる向上に期待


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概要

 山形県鶴岡市で栽培されるだだちゃ®豆は、旨みと甘味が強く香りが良い、おいしい枝豆として広く知られています。だだちゃ豆のおいしさは、一般的な枝豆と比べて遊離アミノ酸やショ糖などが豊富に含まれることが要因とされてきました。しかしながら、だだちゃ豆では、なぜこれらの良食味な成分が種子に多く蓄積するかについては、本研究以前まで全く不明でした。
 岩手大学大学院連合農学研究科(山形大学配属、元山形大学大学院農学研究科)の塩谷直弘さんと山形大学農学部の星野友紀教授、東京農工大学大学院農学研究院国際環境農学部門の小木曽映里准教授らは、ダイズとだだちゃ豆を交配し自殖させた344系統にも及ぶ大規模な交雑集団を独自に育成し、系統ごとのDNAと遊離アミノ酸含量を調査したところ、ダイズにおいて開花と登熟を制御する遺伝子として知られていたTime of Flowering 11TOF11)の機能欠損型tof11は、枝豆中の遊離アミノ酸含量を増大し、枝豆の食味を向上させることを見出しました。だだちゃ豆のおいしい理由を遺伝子レベルで証明することに世界で初めて成功したことによって、だだちゃ豆ブランド力のさらなる向上が期待できるだけでなく、だだちゃ豆をさらにおいしく改良できる可能性を示しました。
 本研究の成果は、国際学術誌Theoretical and Applied Geneticsに掲載(2026年3月24日)されました。

背景

 山形県鶴岡市で栽培されている在来枝豆系統のだだちゃ®豆は、独特のコクや甘味を持ち、香り豊かなおいしい枝豆として知られ、ユネスコ食文化創造都市鶴岡の貴重な遺伝資源の1つです。これまでに、だだちゃ豆を含む良食味な枝豆を用いて様々な研究が行われてきた結果、枝豆のおいしさは、種子中の遊離アミノ酸やショ糖の高蓄積に起因すると説明されてきました。しかしながら、だだちゃ豆ではなぜこれらの良食味な成分が一般的な枝豆よりも多く蓄積するかについては、本研究以前まで全く不明でした。

研究手法・研究成果

 我々はだだちゃ®豆のおいしさを決める遺伝子を見つけ出すために、分子遺伝学的なアプローチを採用しました。具体的には、日本で広く栽培されている一般的なダイズ品種の「エンレイ」と、だだちゃ豆系統の中で最も有名な「白山」を研究材料に、両者を交配させた後、8世代の自殖を繰り返した新規な交雑自殖集団(ES_RIL)を育成しました。このES_RILを3年間に渡り、山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センターの圃場で大規模に栽培して、系統別に枝豆を収穫しました。その後、収穫した枝豆の種子に含まれる遊離アミノ酸含量を測定しました。それと同時にES_RILの種子から我々が独自に開発した方法(IMP Boom法)でDNAを抽出し、次世代シーケンサー(NGS)を用いて系統別のDNAを調査しました(図1)。得られた結果を統合し、量的形質遺伝子座(QTL)解析と呼ばれる方法で遊離アミノ酸を高蓄積させるQTLが、染色体のどこに存在するのかを調べました。

図1 NGSを用いたエンレイと白山のDNAの比較
外側(青)と内側(橙)円内の棒グラフは、Williams 82を基準に、それぞれ白山とエンレイのDNAの違いを表すの画像
図1 NGSを用いたエンレイと白山のDNAの比較
外側(青)と内側(橙)円内の棒グラフは、Williams 82を基準に、それぞれ白山とエンレイのDNAの違いを表す

図2 ES_RILにおいて検出された開花(上段)と遊離アミノ酸(下段)のQTL
上段:開花のQTLは、3年間ともに第4と第11番染色体に検出された
下段:遊離アミノ酸のQTLは、3年間ともに第11番染色体に検出された
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図2 ES_RILにおいて検出された開花(上段)と遊離アミノ酸(下段)のQTL
上段:開花のQTLは、3年間ともに第4と第11番染色体に検出された
下段:遊離アミノ酸のQTLは、3年間ともに第11番染色体に検出された

 その結果、遊離アミノ酸を高蓄積させるQTL for free Amino acid Accumulation in Dadachamame11_1qAAD11_1)を染色体上に位置付けることに成功しました(図2下段)。興味深いことに、このqAAD11_1は、開花日を決定するQTL for Days to Flowering in Dadachamame11qDFD11)と同じ染色体領域に位置しました(図2上段)。NGSを用いてエンレイと白山の全ゲノムリシーケンスを行い、qAAD11_1のDNAをエンレイと白山の間で比較したところ、qAAD11_1の候補遺伝子として、ダイズにおいて開花と登熟を制御する遺伝子として知られていたTime of Flowering 11TOF11を見出しました。驚くべきことに、正常型のTOF11を保有するエンレイと比べて、突然変異したtof11を保有するエンレイ変異体は、開花や枝豆期が早まるだけでなく、枝豆中の遊離アミノ酸含量が有意に高いことを発見しました(図3)。これらの結果から、qAAD11_1の責任遺伝子は、TOF11であることが証明され、だだちゃ豆である白山は、機能欠損型tof11を保有し、枝豆中の遊離アミノ酸含量を増大し、その食味を向上させることを見出しました。エンレイと白山の種子を用いたRNA-Seqの結果より、白山におけるTOF11の機能喪失は、擬似的に光ストレスに似た転写状態を引き起こし、そのストレスを回避するための浸透圧調整にアミノ酸代謝を活性化させることで、種子において遊離アミノ酸を増加させることが予想され、この分子メカニズムの詳細を明らかにすることは、今後の興味深い課題です。

図3 A:野生型と変異体の播種から開花期、莢形成期、枝豆期までの日数の比較、
   B:野生型と変異体の遊離アミノ酸含量の比較、図中の異なるアルファベットは有意な差を示す
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図3 A:野生型と変異体の播種から開花期、莢形成期、枝豆期までの日数の比較、
   B:野生型と変異体の遊離アミノ酸含量の比較、図中の異なるアルファベットは有意な差を示す

今後の展望

 本研究によってだだちゃ®豆のおいしさを決める遺伝子が明らかとなり、だだちゃ豆がおいしくなる分子メカニズムの一端を遺伝子レベルで証明することに成功しました。この結果より、だだちゃ豆のブランド力の強化による地元地域の貢献が期待できます。さらに本研究では、だだちゃ豆である白山は、遊離アミノ酸を高蓄積させるqAAD11_1の近傍に、逆に遊離アミノ酸を低下させるqAAD11_2も保有することが分かりました。このqAAD11_2を改良することで、白山をさらにおいしくさせることが可能であることが分かり、だだちゃ豆のさらなる良食味化も期待できます。本研究では、おいしさの主要因として遊離アミノ酸のみに着目しましたが、おいしさに関わる要因は多岐に渡ります。現在、それらおいしさに関わる様々な要因についても同様の解析を継続しており、今後はだだちゃ豆のおいしさを決める分子メカニズムの包括的な理解を目指しています。

用語解説

1.独自に開発した方法(IMP Boom法):簡易的でありながらも、NGSのロングリード解析にも利用可能な高品質かつ高濃度なDNAの抽出法。Shioya et al. (2023) Plants 12:1297, DOI: 10.3390/plants12162971

2.次世代シーケンサー(NGS):従来のシーケンス技術とは異なり、数百万ものDNAの小さな断片を同時にシーケンスできる技術で、ゲノム研究の規模も解析力も拡大することができる画期的な技術。

3.量的形質遺伝子座(QTL)解析:交雑集団を材料に、DNAマーカーと表現型(今回は開花日と遊離アミノ酸)の間に関係があるのかを調べて、表現型と関係する染色体領域の位置と遺伝効果を推定する方法。

4.全ゲノムリシーケンス:ゲノム配列が既知の生物種を対象とし、NGSにより取得した配列をリファレンス(今回はダイズ栽培品種Williams 82)にマッピングすることで、 ゲノムワイドな変異箇所を検出する手法。

5.Time of Flowering 11TOF11):ダイズの栽培化過程において開花と成熟を制御する遺伝子として発見されたダイズの体内時計遺伝子。Lu et al. (2020) Nat. Genet. 52: 428-436, DOI: 10.1038/s41588-020-0604-7

6.RNA-Seq:NGSを用いて、サンプル中に存在する全てのmRNAの塩基配列を決定しサンプル間で比較することで、発現している遺伝子を網羅的に定量することができる技術。

論文の詳細

表題:Loss-of-function allele of the soybean flowering/maturation gene TOF11 increases free amino acid content at the edamame stage and improves eating quality

著者:塩谷直弘1、安部遥希2宮城敦子1,2,3村山秀樹1,2,3、飛田結衣4、川口喜暉4、安達俊輔5、加賀秋人6
   小木曽映里7*、星野友紀1,2,3* *責任著者

1:岩手大学大学院連合農学研究科、2:山形大学大学院農学研究科、3:山形大学農学部、
4:東京農工大学大学院農学府農学専攻、5:東京農工大学大学院農学研究院生物生産科学部門、
6:農研機構作物研究所、7:東京農工大学大学院農学研究院国際環境農学部門

雑誌:Theoretical and Applied Genetics (2026) 139:106
DOI:10.1007/s00122-026-05205-w
URL:https://doi.org/10.1007/s00122-026-05205-w

本成果と関連する受賞歴

塩谷直弘 (修士課程1年次) 第17回東北育種研究集会 優秀ポスター賞(令和4年11月26日)
塩谷直弘 (修士課程1年次) 山形大学農学部長賞(令和5年3月17日)
塩谷直弘 (修士課程2年次) 東北植物学会第13回大会 優秀発表賞(令和5年12月10日)
塩谷直弘 (修士課程2年次) 山形大学校友会長賞 (令和6年2月20日)
塩谷直弘ら(博士課程1年次) 第145回講演会日本育種学会 優秀発表賞(令和6年4月25日)
塩谷直弘 (博士課程1年次) 第64回生命科学夏の学校 優秀賞(令和6年9月1日)
塩谷直弘 (博士課程1年次) 第42回種子生理生化学研究会年会 優秀発表賞(令和6年11月22日)
塩谷直弘 (博士課程1年次) 第19回東北育種研究集会 優秀ポスター賞(令和6年11月30日)
塩谷直弘 (博士課程1年次) 東北植物学会第14回大会 優秀発表賞 (令和6年12月8日)
塩谷直弘 (博士課程1年次) 日本育種学会 石原(志方)守一奨学金受賞 (令和7年3月20日)
塩谷直弘 (博士課程2年次) 東北植物学会第15回大会 優秀発表賞 (令和7年12月13日)
塩谷直弘 (博士課程2年次) 岩手大学学生表彰 奨励賞 (令和8年3月10日)

研究支援

 本研究では、鶴岡市農業協同組合(JA鶴岡)によって商標登録されている「殿様のだだちゃ®」の種子を分与いただき、研究を実施しました。
 本研究は、科学研究費補助金(JP25K09057、JP24KJ0334、JP18K05584)、山形大学アグリフードシステム先端研究センター(YAAS)、鶴岡ガストロノミックイノベーション計画(TGI)、公益財団法人高橋産業経済研究財団、公益財団法人ヤンマー資源循環支援機構、公益財団法人マエタテクノロジーリサーチファンド、一般財団法人キーコーヒー柴田裕記念財団、公益財団法人山口育英奨学会、公益財団法人飯島藤十郎記念食品科学振興財団、公益財団法人不二たん白質研究振興財団の支援を受けて実施されました。

山形大学農学部記者懇談会

下記の日時に開催される山形大学農学部記者懇談会において、本研究成果の詳細を紹介します。
日時:令和 8年 4月  7日 (火曜日) 11時〜12時 
場所:山形大学農学部1号館2階 大会議室
担当:山形大学農学部総務課総務担当
Tel: 0235-28-2911/Email: yu-nosyomujm.kj.yamagata-u.ac.jp

参考リンク

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