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ジョモ・ケニヤッタ農工大学駐在記7(4)

  JKUATの日本語クラス受講生に対して気付いたことがある.それは,彼らの日本語を学ぶ動機が,より純粋な知的好奇心に基づいていることだ.

  「より純粋」とは,「他の本学海外拠点校における日本語クラスと比較して」という意味合いで述べている.ケニアの受講生と話していると,「日本語を活かして・・・」の「・・・」の部分に,功利的,手段的なものがほとんど感じられないのだ.例えば,ベトナム,インドネシア及び中国においては,日本企業(特に製造業)の進出度がケニアより高いため,日本語能力が受講生のキャリアアップにつながる可能性が相対的に高い.そのためか,程度の差はあっても,日本語学習と自分のキャリアプランを結びつけて考えている受講生が見受けられる.また,それらの国々では,日本のアニメ,マンガなど日本文化の浸透度もケニアより高く,より日本文化を「楽しむ」ために日本語に触れる受講生が多い.そこでは,「ドラえもん」を知らない学生を探すのが困難だ.さらに,モンゴル拠点校では,主に日本への留学のため,日本留学試験のスコアを高めようと日本語に取り組む学生が複数いて,よりそれぞれのキャリアに直結した思いを感じる.それらが悪いと言いたいわけではない.動機付け如何によらず,外国人が日本の文化や言語に関心を抱いてくれることは喜ぶべきことである.

  JKUATの日本語クラスの中で,受講生に日本語を学ぶ動機を聞いてみた.すると,「工業技術が優れている日本に,将来のエンジニアとして関心を持たざるを得ない」,「遠く離れた国のことだから関心がある」,「広い見識を持つために日本語にも触れてみたい」などの,素直な知的好奇心が伝わってくる回答がほとんどだった.

意外なことに,日本のアニメやマンガの話は,動機付けとして15人中1人からも出なかった.「ドラえもん」などの存在は,何人かが知っていた上でのことである.他の本学海外拠点校と対象的である.授業中の質問であっただけに,受講生が「模範解答」を意識したのかもしれないと,質問した直後は考えてしまうほど意外だった.

しかし,その考えを改めたのは,教師に発音を直されながらも,習ったばかりの構文を応用して発話する自分自身に感激している表情,眼の輝きから,学ぶこと自体の喜びが伝わってきたからである.それは,自分が忘れかけていたことだった.彼らは,教師が使う日本語テキストを持たない.そのため,教師の板書内容や説明を懸命にメモする.必要な関連知識は,インターネットから補充する.教師が質問を求めると,受講生は的確で,内容のある質問をする.その応答では,他の学生の質問にもクラス全員が耳を傾け,積極的な者は,教師が答える前に,横から解答案を口にする.習得した日本語のアウトプット自体に,素直な喜びを感じているからである.その場面は,日本で九九の新しい段を覚えた小学生が,そのことが何ら当面の効用をもたらさなくても,何かを習得した喜びに眼を輝かせる様子を思い起こさせた.

もちろん,JKUATの学生は大学生であるから,小学生とは異なり,常に自分を高める意識を持って臨んでいる.しかし,双方に共通した,触れる者に感動を誘うものがある.純粋な知的好奇心を伴う学びは,何か爽やかなものだった.この姿には,本学学生も触れるべきだと思う.

「学生大使」を経験した山大生は,それを機に語学力を高めようと決意することが多い.その決意は,外国人との対話をより深めたいという思いと,外国人の学ぶ姿勢に感化されたことから生じるようだ.後者において,JKUATを訪れる学生は,ひと味違う感化を受けるはずである.

日付の読み方を日本語教師が板書の画像
日付の読み方を日本語教師が板書

日本語を学び始めて3週間の学生が、懸命に「ひらがな」でノートをとるの画像
日本語を学び始めて3週間の学生が、懸命に「ひらがな」でノートをとる