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大崎教授の海外駐在記「ナイロビ駐在記(3)」

 ジョモ・ケニヤッタ農工大学(JKUAT)は、創立時は農学部と工学部からなる大学でしたが、現在は、法学部、経済学・人文学を含む人的資源開発学部、及び、理学部、医学部、をも併せ持つ総合大学です。

 最も新しいのは医学部で、2013年11月に開設されました。前身はJKUATの熱帯医学感染症研究所で、附属病院も以前からありました。医学部と書きましたが、正しくは健康科学部で、コースとして、内科医や外科医を養成する臨床医学コースもありますが、HIVエイズ管理学、公衆衛生学、地域保健と開発学、健康情報管理学、看護学、薬学、医療検査学、作業療法学、理学療法学、の10のコースが用意されています。校舎は平屋の旧研究所をそのまま利用しています。

 特に、重きを置かれているのがHIVエイズ管理学です。ケニアは人口3400万人に対し、エイズ患者は250万人いると言われ、毎年、約10万人がエイズで死んでいきます。背景として、未婚の母に対する社会的偏見が全くないこと。部族によっては一夫多妻で、兄弟の寡婦を引き取る習慣があること。これらがエイズ患者を容易に増やしています。

 したがって、1999年にエイズは国家的大災害と認定され、大統領府直轄の国家エイズ対策評議会が設立されました。さらに、2005年には国家HIVエイズ対策戦略計画が立てられ、治療のみでなく、予防と感染者の社会的支援を含む総合的対策が練られました。この時、JKUATにも医療微生物学コースと医療研究科学コースが設立されています。

 エイズは沢山の孤児を生み出しました。その孤児も母子感染により多くは学齢期前に死んでいきます。そのため、外国の多くのNGO、NPOの孤児支援機関が存在しています。欧米の大学の夏休みの季節には、個々の大学生たちがエイズに罹った数人の孤児の里親になり、アパートの一室で、日常の生活を共にする、というプログラムがあります。それに参加したオランダ人の女子学生の話だと、引き取った子供たちがどんどんと死んでいくので、つらく悲しい経験だったが、その子たちにひと時でも親子での生活の雰囲気を味わってもらえたと思うので、意義はあったと思うし、慰められる、ということでした。

 エイズに限らず、幼児死亡率は高く、人口1000人当たりにつき、日本は4人ですが、ケニアは128人です。主な死亡要因は、肺炎、下痢、マラリアなどです。また、出産時の妊婦の死亡は、日本の1万1600人に1人に対し、ケニアは39人に1人です。いずれも、高度の医療技術はなくとも、基礎的な衛生知識や医療技術があれば、防げるものです。

 したがって、基礎的な衛生知識、医療技術を持ったコミュニティーの医療ワーカーや、健康医療機関のワーカー、それらを管理指導する人材がいれば、子供や妊産婦の死亡は、多くの場合、防げるものと思います。そのためには、公衆衛生学、地域保健と開発学、健康管理情報学などのコースを卒業した医療ワーカーの養成がとても重要なのです。

ケニアには、国立ナイロビ大学と、2代目大統領の名を戴く国立モイ大学に、医師養成のための医学部があります。しかし、ジョモ・ケニヤッタ農工大学に新設された保健科学部は、臨床医学コースも含め、社会医学従事者を養成するのが主な目的のようです。

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新設の健康科学学部

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付属病院