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大崎教授の海外駐在記「ラトビア大学駐在記(6)」

 ラトビア大学本館の最寄りの路面電車の停留所は、徒歩4分の「国立オペラハウス前」です。大学本館は新市街にあり、オペラハウスは旧市街にあって、間に運河が流れ、それに沿う広い緑地帯があります。旧市街は運河と川幅約500mのダウガヴァ川に囲まれた、煉瓦と石でできた街で、曲線を描く石畳の道の両側に、13世紀に原型のできた装飾を凝らした5階建て程度の建物が、ひしめくように並んでいます。旧市街の周囲からは新市街の郊外に向け、9路線の路面電車、19路線のトロリーバス、48路線のバスが走っています。

 新市街と言っても、街並みは19世紀後半の建築物が主体で、文翔館や旧米沢高等工業学校本館のような建物が、特に東の新市街を形成しています。「国立オペラハウス前」で水色の2両編成の路面電車に乗り、ダウガヴァ川を渡って、東ではなく西の郊外へ15分ほど行くと、10個目の停留所の前に「ラトビア大学植物園」があります。植物園は16ヘクタールありますが、周囲には、その何十倍もの広さの疎林の緑地公園が幾つも散らばっていて、古い緑の木柵越に見える植物園は、狭く小さく感じられました。

 植物園は、植物分類学や生態学の面から良く整理された美しい庭園で、幾つもの標本林や花壇、プロムナードからできています。例えば、4か所に分かれて112種で構成されているシャクナゲの林。2か所に分かれた14種のモクレンの林。124種のツツジ・サツキの園。300種のダリア園、等々。以上に挙げた数字は種数であって個体数ではありません。植物の総種数は約8300だそうで、薬草が2600種を占めているそうです。植物園は入場料約300円で市民にも開放され、造園指導を行っており、観賞植物や、ナシやスモモなどの果樹の即売もしていました。園内には主体となる研究棟がありますが、カフェもあり、見学者用のトイレも2か所にありました。ラトビア大学の学生教職員は無料で入園できます。

 ラトビアはカムチャッカ半島と同じ緯度にあります。したがって、日本の植物園では絶対に展示不能な極北性の植物もあります。しかし、圧巻は巨大な温室群で、ヤシの木だけでも47種もあり、熱帯スイレンなどの水生植物21種、サボテンなどの多肉植物350種などなどの間を縫って歩くと、東南アジアの海岸地帯や、アフリカの熱帯降雨林、あるいはアリゾナ砂漠の情景を思い起こさせます。

 思いがけない展示物は、自由に飛び回る熱帯のチョウでした。南米コスタリカから蛹を輸入して羽化させ、バタフライ・ハウスに、常時15種~20種のチョウ約150匹を放っていました。展示は3月~10月までで、別途約600円の入場料を取っていました。

 私はチョウを材料にした進化生態学の研究者で、実験のために伊丹市昆虫館のバタフライ・ハウスを良くお借りしました。西ケニアのカカメガの森に、展示を兼ねた研究用のバタフライ・ハウスをつくることを企画し、東日本大震災の前年には予備調査費もついて、アフリカ東海岸のアラブコ・ソコケの森にあるバタフライ・ハウスを見に行きました。

 ラトビア大学植物園のバタフライ・ハウスは、実験室程度の小さなガラス室で、アロワナなどの熱帯魚の泳ぐ池を掘り、橋を渡し、池の周囲に熱帯の樹木や草花を配していました。頭上を小鳥も飛び回っており、北の国に出現したドリトル先生の世界のようでした。

ラトビア大学植物園。大きな温室内はヤシの木の林の画像
ラトビア大学植物園。大きな温室内はヤシの木の林

バタフライ・ハウスの画像
バタフライ・ハウス