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大崎教授の海外駐在記「ペルー駐在記(5)」

 5月の第3週は、ペルーの大学は中間テストの季節で、カトリカ大学で開講した日本語クラスには誰も来ないだろうと、様々な人に忠告され、休みとしました。ところが、受講生の中から、試験期間は受講生が減り、個人レッスンを受けられるチャンスだから、ぜひ開講してくれ、という要望があり、開講したところ、3人の参加がありました。参加者の一人のマルヴィン君は、午前2時まで試験勉強をし、日本語クラスの前に英語クラスにも出席するため、5時40分に家を出たそうで、眠い眠いと言いながら、参加していました。

 ペルーの大学が、今まで私が経験した国々の大学と際立って異なる特徴は、男女学生間の率直な愛情表現です。中国の延辺大学でも、肩寄せ合い腕を組んで歩く男女をよく見かけました。そういう学生たちを見ながら朝鮮族の先生が、「あのような学生は漢族ですよ。朝鮮族はシャイで、人前であのようなことはしません」と言っていました。

 ペルーの大学生は、人前とか、場所柄とか、時間とか、そんなものは全然気にせず、抱き合ったまま寝そべり、2人だけの世界に浸っています。木陰の芝生、ベンチの上、校舎の廊下の隅、そんな彼らを見ていると、1人で芝生に寝転んでいる学生や、同性だけでたむろしている学生は、どうなっているのだろうかと、心配になってきます。そのような、異性の影を感じられない学生が、日本語クラスに多く参加しています。

 文学部のロドルフォ君は、日本文学に興味があり、初心者とあまりにも日本語の実力に差があるので、時々、私が付き合います。私が現代作家は読んでないからダメだ、というと、太宰治、芥川龍之介、川端康成、阿部公房、などを話題にしました。私は驚いて、「それを日本語で読んだのか」と尋ねると、「いいえ、スペイン語です。漢字を800語ぐらいしか知らないので、日本語で読み通すのは無理です」と答えました。

 彼に彼女の存在を問うてみると「いません」と言い、問わず語りに話し出したのは、「女性は様々な仮面を持っている。心もそうだ。その中に、私の好きな仮面や心はある。しかし、好きな仮面と好きな心を同時に持続して持つ女性がいないのです」と言うことでした。この話は、日本語で聞きました。

 ロドルフォ君と話をしていると、工学部のアンソニー君がやって来ました。彼は日本語クラスの出席率が最も高い学生ですが、「忙しい、忙しい」といつも終了30分前に現れ、さらに30分は粘るそうです。彼は私に会って、開口、「基礎科学って面白いですね」と言いました。彼は、私が先日、カトリカ大学で行った講演を聞いたそうです。

 私の研究が面白い、というコメントは、カトリカ大学では数人からありました。各国のサテライト・オフィスを巡り歩いて、そう言われたのはカトリカ大学が初めてでした。私の英語講演に対して、非英語圏の学生教員からコメントや質問が出ることはほとんどありません。英語圏の大学でも、「その研究は応用的にどう役立つのか」という類の質問が出るだけでした。しかし、カトリカ大学では、分野の異なる学生達からも活発な質問が出て、「面白いですね」というコメントが出てきました。カトリカ大学が他と異なる別の特徴は、非英語圏なのに英語が良く通じ、文学や基礎科学に興味を持つ学生がいることです。

右奥にカトリカ大学本部ビルが見えているの画像
右奥にカトリカ大学本部ビルが見えている

カトリカ大学における講演会の画像
カトリカ大学における講演会