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注目の研究農学

鳴声によりシカの侵入を検知する新手法を開発

掲載日:2017.07.07

准教授 江成広斗(森林保全管理学)

シカは農業被害をもたらすと同時に、森林を消失させることもある生態系改変者としても知られています。野生動物がもたらす農業被害の中で、シカによるものが最も深刻で被害額は年間60~70億円に達しています。また、森林における大規模な植生消失をもたらすことも知られており、生態系のバランス改変が危惧されています。近年、多雪帯においてもシカの侵入は確認されはじめ、喫緊の対応が求められています。シカの個体数増加は極めて顕著で、急増段階(増加相)に入ったシカ個体群を減少させることは容易ではありません。そのため、侵入初期段階の予防的対応が不可欠なのですが、低密度状態のシカは従来手法(スポットライト・カウント、センサーカメラ法など)では効率的に検知できないという課題があり、侵入初期のシカを検知する効果的な手法はこれまで存在しませんでした。そこで、江成広斗准教授(森林動物管理学)はオスジカが秋に発する鳴声を指標とした2種類のモニタリング手法を開発しました。

高性能集音器(Song Meter SM2<sup>+</sup>)の画像
高性能集音器(Song Meter SM2+

シカの分布周縁部にはオスジカのみが集まる傾向があるため、オスジカが秋に発する鳴声(howlという咆哮)を利用した以下の方法を開発しました。

(1)PAM法(Passive Acoustic Monitoring):
高感度集音器を用いて、オスジカが発する鳴声を録音し、その録音頻度を個体数指標とするもの。一台の集音器の検知範囲は約6haで、センサーカメラの200倍以上の検知面積に達します。

(2)AAM法(Active Acoustic Monitoring):
10種に分類される鳴声の中で、howlという咆哮に対しては、他のオスジカの鳴き返しがあることを発見しました。そこで、録音したhowlを拡声器で再生して、他個体の応答を記録するシカの鳴き返し法を考案しました。

これらの手法の利点として、①低密度のシカ個体群にも利用可能、②従来用いられてきたセンサーカメラより200倍の検知範囲、③シカ検知の自動化が可能で利用者の専門的知識が不要、が挙げられます。拡大するシカ個体群の効率的なモニタリングに役立つこれらの技術により、シカの分布拡大予測、さらには自然植生や社会産業への影響予測に貢献可能であると考えられます。

この研究は、山形大学YU-COE(C)「人口減少社会適合型野生動物管理システム創成拠点」の支援を受け実施されたもので、国際誌 Ecological Indicators 8月号に掲載されました。

白神山地に侵入するニホンジカの画像
白神山地に侵入するニホンジカ

飯豊連峰に侵入するニホンジカの画像
飯豊連峰に侵入するニホンジカ

朝日山地に侵入するニホンジカの画像
朝日山地に侵入するニホンジカ

論文公表情報

Ecological Indicators
Volume 79, August 2017, Pages 155-162
Hiroto Enari, Haruka Enari, Kei Okuda, Miho Yoshida, Takuya Kuno, Kana Okuda
Feasibility assessment of active and passive acoustic monitoring of sika deer populations.
https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2017.04.004

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