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注目の研究化学

自然界の模様の謎を解き明かす、新たな化学的モデルを発見

掲載日:2017.06.02

教授 並河英紀(物理化学)

自然界には、メノウなど宝飾品の模様や太陽系惑星の配列など、ある法則に従った類似の周期構造があります。並河教授(物理化学)らは、自然界の模様の類似性の謎に迫ることを可能にした、重合反応(1)を用いた新しい化学的モデルを発見しました。

本モデルは1896年に発見されたリーゼガング現象を説明するモデルですが、既存のモデルの問題点であった特定の化学反応へしか適用できない制限を取り除き、自然界の多様な類似構造の共通性の謎の解明を可能とする、革新的な化学的モデルです。

        図1. 各モデルの関係を示した図の画像
        図1. 各モデルの関係を示した図

リーゼガング現象とは「一定規則で間隔が変化する縞模様(周期構造)」を形成する現象で、1896年、水に溶けにくい化学物質(難溶性塩)を用い、発見されました。この様な周期構造は化学反応のみならず自然界でも見られます。そこで、自然界のリーゼガング型周期構造の類似性の謎を紐解くことを目的に、様々なモデルが提案されてきました。しかし、これら旧モデル(2閾値モデル)からの統一的な理解は達成されていません。その要因は、旧モデルには周期構造形成のために満たすべき二つの化学的制約 (2)があり、これが特定の化学反応(難溶性塩形成反応)以外への拡張を困難にしているものと考えられています。例えば、生物学的なリーゼガング型構造(疾患組織)は細胞間の反応などで形成するものと思われていますが、細胞間の反応には旧モデルに課せられている化学的制約はないからです。そのため、化学反応にて発見されたリーゼガング現象を自然・社会科学の多様性へ拡張するためには、旧モデルに特有の二つの化学的制約を取り除いた包括的モデルの発見が必要不可欠でした。

そのような中、2014年、同研究グループは水に溶けにくい難溶性塩でしか発現させることが困難であったリーゼガング現象を、難溶性塩以外の化学反応生成物(金属ナノ粒子)で発現させることに成功し、二つの制約のうち一つを取り除いたモデル(1閾値モデル)を発表しました。今回は、2014年の発表以降、様々な実験を行った結果、残りの一つの化学的制約をも緩和し、旧モデルが持つ二つの化学的制約を排除した新モデル(無閾値モデル)を構築するための化学反応系を発見しました。

        図2. 本実験の模式図の画像
        図2. 本実験の模式図

具体的には、図2に示した実験により行われました。ガラス試験管の中に重合開始剤(3)を含むゲルを封入し、その上にモノマー(4)水溶液を注ぎます。その後、ゲル中へ拡散したモノマーが重合開始剤との間で重合反応を進行させます。この重合反応は、旧モデルの二つの化学的制約は満たしていないため、旧モデルに従えば周期構造は形成しないと予想されます。しかしながら、この予想に反し、一定の濃度条件を満たしたとき、図2の写真の様に反応生成物が周期的に析出しました。この周期構造を解析した結果、化学反応型リーゼガング構造と同様の構造であることが確認されました。つまり、旧モデルに必要な二つの化学的制約を満たしていないにも関わらず、リーゼガング現象を発現させる化学反応系があることを発見したのです。

これは100年以上悩まされていた旧モデルの化学的制約を排除した革新的モデルを提案し、リーゼガング現象を説明するモデルとしては最も包括的・上位に位置するものとなります。自然界の多様なリーゼガング型構造の統一的理解に大きく近づき、化学反応(分子間の反応)のみならず、生物学的反応(細胞間)・地質学的反応(結晶間)・宇宙物理学的反応(分子間、微惑星間)・社会学的反応(ヒト間)など、自然・社会科学の多様な周期構造の発生原理の謎を解き明かす統一的モデルの構築につながり、基礎・応用の両面において重要な知見が次々に得られると期待されます。また、本成果は2017年度より理学部が始めた制度である理学部研究クラスター「非平衡科学とトポロジー」(クラスター代表:並河教授)発足の基盤的成果にもなりました。

論文公表情報

"Liesegang Mechanism with a Gradual Phase Transition"
Y. Shimizu, J. Matsui, K. Unoura, H. Nabika
J. Phys. Chem. B 121 (11), 2495–2501 (2017)
doi:10.1021/acs.jpcb.7b01275

用語説明

  • 重合反応:
    モノマーを鎖のように連結させ長い分子(ポリマー)を生成する化学反応
  • 二つの化学的制約:
    1896年に提案されたリーゼガング現象は、
    ①水に溶けにくい物質でしか観察されない
    ②分子からの結晶析出を伴う反応でしか観察されない
    という二つの制約があったため、主に難溶性塩のみを対象としたモデルの研究が進められてきました。この制約は、他の化学反応、生物学的反応、地質学的反応などへ拡張するための大きな問題となっていました。
  • モノマー:
    重合反応の原料となる分子
  • 重合開始剤:
    重合反応を始めるための分子

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