チョーむずい授業は今?

工学部 神谷 淳(数値解析学,シミュレーション科学)

 平成13年前期の或る日,数値解析の講義を終えた直後に筆者は2人の受講生の訪問を受けた.

学生A「先生,スプライン補間ってのが全く分かりません.」
筆者 「スプライン補間は実験データの当てはめ曲線を求めるだけで
    なく,シミュレーションの基礎理論をなす領域ですから,しっかり
    勉強しておいた方がいいでしょう.ところで,スプライン補間の何
    処が分からないのかな?」
学生A「何の役に立つのかも良くわかんねーし,大体,説明がチョーむ
    ずいでしょ.」
学生B「それに,授業が教科書の内容と全然違うから,自習も出来な
    いし…」

 その当時,筑波大学から数値解析の集中講義を依頼されていたこともあり,筆者は講義内容にはかなりの自信をもっていた.ああそれなのに,それなのにである.ひょっとすると,筆者が想定している学生の能力レベルと受講生のレベルの間に大きなギャップがあるのではないか?それまで,殆ど省みたことも無かった「学生による授業アンケート」を筆者は1枚1枚読み返してみた:板書が早すぎてノートに写すのが一杯一杯っす.習ったことがないδ関数やら双曲線関数やらが飛び出してきて何のことやら分からない……そこには,学生達の悲鳴にも似た本音が綴られていたのである.

 実際、医学部のカリキュラムもクリニカルクラークシップという形で体験型の学習形態を大幅に取り入れることになっている。来年から本格実施される全国共通の共用試験でもいわゆるペーパー患者での模擬実地試験(臨床推論形式の問題)や臨床技能試験が取り入れられる。これから大学は競争の世界に入るとのこと、私もささやかながらFDで学んだことを生かして効率のよい、体験型の講義を工夫したいと考えている。

 斯くして筆者の授業改善が始まった.この2年間に行った改善内容は次の4つに大別できる:1)講義内容の整理,2)教科書の再選定,3)ミニテストの実施,4)定期試験の内容予告.先ず,1)では,講義内容を取捨選択して,本筋に大きく影響を与えない項目を思い切って削除した.特に,学生達の多くが興味を示さない証明を出来るだけ削除し,難解な理論は筆者なりに咀嚼して理解しやすい特例のみを解説するという形態に変更したのである.2)では,学生が健康上の理由で授業を欠席しても,ノートのコピーと併用すれば自習できるような書物を教科書に再選定した.3)では,一コマ90分の講義時間を60分の講義と30分のミニテストの時間に分割し,後半のミニテストではその日の講義で説明した内容を使って,演習問題を解く練習をさせた.その際,テキストやノートの参照,他人との相談も可とし,筆者への質問もどしどし受け付けることにした.さらに,4)では,10数回のミニテストの類題を定期試験に出すと予告した.上記4つの授業改善の結果,学生の欠席率は著しく減少し,やる気も引き出すことができたという印象を筆者は持っている.実際,平成16年前期の数値解析の単位取得率は84.6%にまで到達した.しかしながら,喜んでばかりもいられない.

 平成16年6月某日,数値解析の授業の直後,一人の学生がまたしても筆者に所にやって来た.「先生,講義内容が何げに難解すぎません?それに,高校の時の先生と比べると板書の早さがヤバイっすヨ!」 果たして,どのレベルの学生を対象として講義を再構成すればよいのだろう?筆者の悩みは永遠に続くのである.

 次は農学部の小沢 亙さんお願いします。

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