これ、卑怯な仇討ち?教育学部 豊田 東雄(量子化学) 教養教育の担当者として、授業改善リレーエッセイを一週間で書くようにとの依頼であったが、趣旨に沿わない文章で申し訳ない。一服の清涼剤となればと念願し、引き受けた責務を果たしたことにして貰いたい。 さて、政界の話を持ち出すつもりはないが、"ハチの一刺し"という寸言を覚えていますか。以前、永田町界隈で話題になり、その筋に関わった方々は大変な痛手を被った事件のことである。ところで、本物のハチに刺された経験がありますか。春や秋の行楽の季節になると、例年、ハチに刺されたという事故が数多く報道される。困ったことに、今年の夏のような猛暑になると、スズメバチが猛威を振るうとか。もしこれが本当であれば、異常気象が予想される昨今では、スズメバチによる事故は死を招くので、深刻な問題となろう。 最近、スズメバチ毒液に関する研究によって、"警戒信号フェロモン"はどんな化学物質であるのか、分光化学的な手法によって突き止められた。これらは、有機化学で馴染み深い2-ペンタノールや3-メチル-1-ブタノールというアルコール類で、スズメバチ同志が互いに餌の存在を知らせたり、別のハチからの襲撃を知らせて防御するための情報伝達物質であることが判明した。驚いたことに、これらの化学物質は私たちの身近な所にある。例えば、リンゴ、バナナなどの果物や女性用の化粧品に含まれている。里山に出掛けるときは、不慮の災難を回避するために、"素顔"のままであることを勧めます。さもないと、ごく微量な化学物質の拡散によって、敵の襲来かと誤認され、不意に襲撃されます! では、家の周辺でハチの巣を見かけたとき、どう対処しますか。不幸にして、ハチに刺されたとき、仇討ちをしたいと思いませんか。私自身、"清明寮"近辺の畑で作業中、知らずながら、アシナガバチの一斉攻撃に遭遇してしまい、慌てて地面に身を伏せてみたものの、時既に遅く、数個所を刺されるという手痛い経験をした。大人げなく、"仇討ちしたい"、と考えた末に閃いたことは、"雨天のとき、ハチは飛び回ることなく、じっとしている"、という習性であった。そこで、如雨露を用いて、ハチの巣の上部から少しずつ水を掛けた。果たして、ハチは天水だと勘違いして、一斉に巣の下側に上向きにしがみつき、濡れないように身を寄せ合った。しめたと思い、ハチの羽に水が充分掛かったことを確認して、ハチともども巣を一気に叩き落とし、足で踏みつけるという反撃にでた。なんら攻撃を受けることなく、本懐を遂げることができた。意気揚々と帰る道すがら、習性を逆手にとり、弱みに付け込むとは卑怯千万であったか、との思いが頭をよぎった。しかし、こちらもかなりの痛手を被ったのだから、と勝手な屁理屈を立て、その思いを断ち切った。 最後に、ここで紹介した駆除法を"実験"される方に一言。如雨露での水掛けが不十分だと、少々危険を伴う恐れがあります。また、スズメバチの駆除には、この方法を断じて採用しないで下さい。なお、アシナガバチでの"実習"を希望される方、お気軽にお知らせ下さい。本当に役に立つ"集中講義(含演習)"を開講しましょう。 次は理学部の日野 修次さんお願いします。 |