大学の看護学教育雑感

医学部 小林 淳子(地域看護学)

 山形大学における看護学教育は,医学部看護学科として平成5年にスタートした。看護系大学として全国では21番目,東北地方で最も早い設置であった。その後,看護系大学は急激に増加し,平成15年度に学士課程は119校となり,修士・博士課程を設置する看護系大学も増加した。

 この背景には,保健・医療・福祉をとりまく社会情勢の変化と,安全・確実で,かつ思いやりと倫理観を兼ね備えた保健医療に対する国民のニーズの高まりがある...といわれている。看護系大学には,このニーズに応えられる資質の高い看護職者を育成することが求められており,本学科においても第一義的な教育目標である。日本看護系大学協議会という機関が,看護サービス利用者や組織の看護管理者など多様な立場からの意見を受けて,平成13年から大学における看護学教育のあり方の検討を開始し,平成14年(第一次),16年(第二次)に報告書を出したが,看護系大学が社会のニーズに応えているかに関する教育目標の経過評価ともいえる。そして,2回の報告書のキーワードは「看護実践能力の育成」であった。

 実は,本学科でも,時を同じくしてカリキュラムを見直し,平成15年度から新カリキュラムを開始した。教育は大学の主体的取組において行われ発展するものであり,本学科のカリキュラム改正は日本看護系大学協議会の動きとは別個であった。しかし,専門科目を1年次から開講した点や,看護学臨地実習までの教科目の単位と整合性の見直しなど,「看護実践能力の育成」という方向性が重なりタイムリーな改正であった。しかし一方では,新カリキュラムの学年進行中に第二次報告が提示される経緯となった。現在,教務委員会が中心となって,全国的な動向との整合性と本学科の独自性を明らかにするために,第二次報告で提示された「看護実践能力の育成」のための到達目標,教育内容,評価方法と,本学科の新カリキュラムとを比較検討中である。

 最後に,筆者が担当する授業から1つ(恐縮しつつ述べる)。地域の健康上のニーズを看護の視点から把握する方法として地域看護診断があり,講義と演習を行っている。平成14年度までの演習は,山形県の健康指標に関する既存の統計資料の収集と加工・分析を中心に進めていたが,量的なデータに質的なデータを加える必要性と,学生が「分かる」授業の模索から,平成15年度は,より地域実態に即した体験型の学習形態を取り入れた。具体的には,平成15年5月施行の健康増進法第25条で規制された受動喫煙対策を取り上げた。学生を小グループ編成し,受動喫煙対策に関する既存資料の収集に加えて,人々が利用する山形市内の施設を選択し,その施設および周辺地域の地区踏査(地区視診),施設の担当者ならびに利用者へのインタビューにより情報を収集し,解釈分析して受動喫煙対策に関する課題を導き出した。学生は,お膝元の飯田キャンパス・小白川キャンパスや,医学部附属病院を含めた市内総合病院,大型スーパーなどに出向いてフィールドワークを行い,初歩的ではあるが重要な要素を組み入れた地域看護診断を体験学習した。さらに,人々の健康が個人責任だけでなく,政策などの社会ルールと環境によって大きくかつ基本的な影響を受けること,看護職者に求められる視野の広がりを理解する一助となったのではと考える。自分自身の防煙や禁煙への動機付けにもなったようである。

 しかし,この体験型学習は初回ということもあって,かなりのエネルギーを要し疲労した。今年度はカリキュラム進行の関係で10名の編入学生のみの授業であったが,来年度70名の学生にどのように展開するか,さらに悩みながら模索中である。

 次は工学部の佐藤 慎吾さんお願いします。

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