授業改善リレーエッセイ

医学部 北中 千史(腫瘍分子医科学分野)

 授業改善リレーエッセイを、とのご依頼をいただきました。実は昨年6月に山形大学に赴任するまで臨床・研究とも大学の教官としての経験が全くありません。従って授業に関しては「超」のつく若葉マークであり(マス講義歴半年)、改善どころではなくいかに授業を組み立てるかという極めて初歩的なレベルにあります。ということで以下、今回初めて授業を行う(準備する)にあたって考えたことをそのまま記してみます。

1)設定レベル
 まず初めて大人数を相手に講義をやる立場になり困ったのが講義内容のレベル設定でした。学生さん100人いれば自ずとレベルも異なります。やるからにはみんなに興味をもって聴講してもらえる講義をしたいわけですが、聞き流し可の講演ならともかく、内容を「身につけてもらわなければいけない」講義ではそれは不可能と考えられます。自分は医学部教育(研究は逆ですが)とはトップではなくボトムを上げることと考えています(いやしくも他人様の命を預かる医者となり世に出る人達については「最低の品質」を保証する必要があります)。従って授業内容はなるべく易しくしました(必須基礎知識を復習を含めて丁寧にやる)。この点、普段からよく勉強している学生さんにとっては時間の割に自分が欲しい新規情報の密度が薄くなってしまったかも知れません。

2)自分のして欲しい授業
 臨床医をしていた頃、患者さんの治療方針で迷ったとき「自分ならどうしてほしいか、家族ならどうして欲しいか」と考えることで悔いのない治療選択ができてきたように思います。以来相手に対してどうactionすべきかで迷ったときは必ずこの原点に帰るようにしています。つまりどんな授業をすればよいか、ということはどんな授業を受けたいか、という問いに変わるわけですね。
i) 私は新しい物事を理解するときにはまずその概略を知りたいと思います。初めての道をドライブするのに詳細地図をたくさんもっているよりはスタートとゴールが一枚におさまった広域地図が欲しいのです。なので授業で使う各スライド(プリントにして授業に先立って配布)にはタイトルを入れ、タイトルを並べると目次になるようにします(因みに市販のテキストは使用していません)。そして授業中折りにふれて今自分たちが全体の中のどこを勉強しているか確認するようにしています。
ii) 私は授業中にノートを取るのがキライでした。書くと覚えるという考えもありますが、よほどゆっくりした授業でないかぎり耳・目からの情報は大脳皮質に登ることなく反射的に手の運動神経に直行します。おまけに私の字はとても読みにくいので、私の書いた板書など写したくないです。なのでパワーポイントによる授業にしています。学生さんにはあらかじめノート取りに気を取られず聞いて理解することに集中してくださいと伝えます。本当に大事なポイントは話の中で強調してスライドのプリントに書き込んでもらいます。
iii) 私は一度聞いただけで内容を全部理解して覚えることはできません。なので授業の最後にその授業のポイントをピックアップして再度簡単に解説を加えるようにしています。
iv) 私は教科書に書いてあることそのものは教科書を読めば覚えられます。でもなぜそうなるのか説明のないことが多いし、それを知りたい。だからなるべく教科書的な記載の「裏」を説明して「なるほど」を引き出せるように心がけています。
v) もちろん、自分と学生さんのしてほしい授業が必ずしも一致するとは限りません。なので、月並みですが、授業後アンケートをとりました。授業内容の改善に有用な情報が得られるのは勿論ですが、つたない授業にもかかわらずこちらの授業にかける熱意と努力が学生さんにちゃんと伝わっていることがわかったのが大きな収穫でした。

3)時間配分
 これが最も難しいです。理解を高めるためには授業に「間」が必要なのは十分わかっているつもりです。しかし、講義初心者としては「もし授業が早く終わってしまうと準備で手抜きしていると思われないか?」という半ば脅迫観念めいたものがあります。結果的に多少盛りだくさんの内容を準備し、早口で喋ってしまって、あとから反省・反省となります。今後は授業の中間ないし最後に「閑話休題」的な内容を適宜折り込んで時間調節をうまく行い、必要十分な「間」をとった授業を実践できるようになりたいと考えています。「笑い」と同じで、同じネタでも話し方次第で全然おもしろさが変わってくるのが授業の恐いところでもあり、またartとしての魅力を感じるところでもあります。

 以上本当に思いつくままに書きつづってしまいました。テクニカルなことを中心に書きましたが、やはりよい授業をするには教える側がその内容を十二分に理解していることが大切です。授業の対象とする範囲が広汎かつ日進月歩の分野であるため、日々の勉強の大切さを痛感している今日この頃です。

 次は農学部の堀口 健一さんお願いします。

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