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地域教育文化学部 伊東 淳

留学報告

留学先:アメリカ合衆国・コロラド州立大学
期間:2012年8月〜2013年5月

 僕は、世間が想像するような留学生ではありませんでした。まず、今回留学をするまで海外に出たことがありませんでした。親元を離れるのも初めてでした。とりわけ外向的でもなく、自分の部屋で何時間も一人で過ごすような人間でした。そんなある意味「箱入り息子」の僕の留学生活は新鮮な体験とそれによる人間としての成長に溢れていたように思います。
 山形の小さな「箱」からいきなり海の向こうに飛び出した僕の留学初日は、案の定絶望的なものでした。初めて一人で飛行機に乗った僕は、空港で右も左も分からないまま入国するが否や、乗継便を逃してしまいました。知らない土地の知らない空港、知らない人たちの中で立ち往生です。自分自身が何故そこにいるのかすら分からなくなるほど頭が真っ白になりました。それでも、どうしたらいいのか拙い英語でとにかく聞き回り、何とか次の便に乗せてもらうことができました。しかし、疲労困憊・4時間遅れで辿り着いたのは、まるで生活感のない殺風景な部屋でした。まさに刑務所にでもやって来たかのようでした。今思い返すと、今回の留学の中ではやはり初日が一番堪えました。ただ、このような試練の数々があったからこそ、僕は一つも二つも大きく成長できたのです。僕には良い洗礼となりました。
 授業が始まってからは、だんだんと友達も増えていき、少しずつ現地での生活リズムが出来ていきました。もちろん最初は、日本で体験済みであっても、現地で行われる英語の授業はレベルが段違いで付いていくのがやっとでした。授業によっては、予習を完璧にこなしてやっとギリギリといった感じでした。ところが、3ヶ月目を機にリラックスしながら授業を受けることができるようになりました。日本語で授業受けるのと何も変わらない感覚でした。そして、人と会話をする時もそれは同じでした。その時にはホームシックや緊張というものは完全に払拭していたように思います。知らず知らずに自分の英語が流暢になったのを感じて自信も付いていきました。
 自信が付いてからの僕は些か大胆な人間になりました。僕はアメリカの学生はとにかくよく質問や発言をすると聞いていましたが、それは全く本当でした。小さなことでも授業を遮って質問をし、授業で扱わないような高度な理論を引き合いに意見を述べる学生さえいました。その時の教室はさながら議会中の国会議事堂のように見えました。そんな中、ある日僕は授業中に「いつの間にか」手を挙げていました。凄まじい緊張・焦燥感、それと不思議な高揚感ので、その時のことはよく覚えていません。しかし、その時に初めて「授業に参加している」という実感を得ました。その日からは枷が外れたように右腕が軽く、挙手する回数が増えていきました。また、毎日腰の帯をギュッと締める気持ちで教室に向かうようになり、僕の留学生活は一層やりがいのあるものになっていきました。
 冬口になると僕は運命的な出会いをしました。いつものように食堂で昼食を取っていると、ある人が僕に話しかけてきました。彼はクリスチャンでした。僕はワクワクした気持ちと同時に少し不穏な気持ちがありました。日本で育った僕は宗教というものにほとんど関心がなく、宗教というと暴動やテロが連想されたからです。それでも、新しい友達ができたことが僕は嬉しくて、連絡を取って何度も会い、教会にもよく連れて行ってもらいました。そうしながら宗教というものの全体像が僕にも見えていったように思います。その友達はよくイエス・キリストに対する熱い想いを語っていましたが、彼らにとって宗教というのは単なる教義ではなく、生きる目的そのものだということがよく伝わってきました。そして、いつしか日本の「仏教」にはどんな意味があるのだろうかと思うようにさえなりました。僕は僕自身がこれほど宗教に興味を持つことになるとは予想だにしていませんでした。これも留学中の成長の一つでした。
 一つの出会いからは新しい出会いも生まれました。僕はとある家族に出会いました。僕は彼らのことをホストファミリーと呼んでいますが、偶然出会っただけの家族でした。しかし、僕は彼らと非常に多くの貴重な経験をし、人生において大切なことを学びました。感謝祭の連休に友達の紹介で突然転がり込んできた僕を、その家族はとても優しく迎えてくれました。休みという休みは僕を家に招待し、いつも僕を息子のように可愛がってくれました。その家族は一見笑ってばかりで少々落ち着きのない家族でしたが、僕の目にはとても羨ましく映っていました。彼らは家族のことを心底大切にし、家族愛に溢れていて、何よりいつも幸せそうでした。彼らはそうして僕に人を愛することの素晴らしさ・家族への感謝を教えてくれました。ここでは語りきれないたくさんの愛に感謝です。
 去年の八月、僕は「あと9ヶ月」と思っていました。しかし、今年の五月、帰国前にはそれが「もう9ヶ月」に変わっていました。思い出と成長、そして新しい発見がギッシリと詰まった9ヶ月でした。僕は卒業後アメリカで興味を持った言語学を学ぶために大学院に進むつもりです。今回の留学で学んだことを活かしながら、これからも懸命に、しかし楽しく、愛と感謝を忘れずしっかりと歩みを進めていきたいと思います。

地域教育文化学部 伊東 淳