【卒業生寄稿】山形大学卒業生唯一の落語家になるまでと、なってから思うこと

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プロフィール

片桐悠吾(東京都町田市出身)
平成27年人文学部卒業
平成28年3月立川志らくに入門、「立川志らぴー」を名乗る。

山形大学卒業生唯一の落語家になるまでと、なってから思うこと

さて、私は人文45回卒業生の片桐悠吾であり、志らく門下17番弟子の落語家立川志らぴーで、山形大学出身者では唯一の落語家です。

生まれと育ちは東京都町田市。「じゃあ、なんで山形大学に?」と思うでしょう。私の母方の祖父母が山形県南陽市に住んでいて、大学進学で東京を出てみたいと考えた時に祖父母の家に居候することに思いついたのです。

落語の方には居候のことを指して「ジッカイの身の上」という言葉があります。これが何かというと「二階(ニカイ)に厄介(ヤッカイ)」になっているから足して「ジッカイ」という洒落。相手は他人ではないとはいえ、現代では居候を経験した人も中々いないだろうから、居候経験者であるというのは落語家として少しだけ自慢にしています。もっとも、落語に出てくる「ジッカイ」の人間は大抵迷惑がられているのですが。

話がそれました。

居候先があるということ以外にも私は高校生の時から憲法に興味があったので、憲法を学ぶことが出来て東京を出ることが出来て、という条件では山形大学はぴったりでした。そんなわけで東京からひょいひょいと山形にやってきた私は、山形で運命的な出会いをすることになります。それこそが私の人生を決定づけることになる「落語」という芸能です。

大学に入学して「せっかくならもう少し見聞や教養を身に着けたいな」と考えていた私は大学の2年の終わりに落語を聞いてみることを思いつきます。しかし、山形には気軽に行けるような落語会や寄席ありません。仕方なく私は山形の遊学館に併設されている図書館に赴いて、落語のCDを借りてきました。初めて借りたCDで覚えているのは三代目三遊亭金馬のCDで、これがなんと昭和戦前戦後のSPレコード音源をまとめたCD! ご通家の方はご存知でしょうが、三代目金馬のSPレコードというと戦前戦後の日本を大いに笑わせた『孝行糖』や『居酒屋』といった音源が収録されており、古(いにしえ)の落語界では名盤中の名盤なんですが、現代ではあんまり顧みられていないレコード。これに手を付けてしまった私、こんな古いもので落語の魅力がわかるわけがないと思いきや案に相違、聞いてみるとこれが結構面白いのです。落語なのにイントロでジャズがかかったり、コミカルな効果音が入ったりとちょっと変わった音源なのですが、三代目金馬の歯切れよく明るい話し方に私はまず魅力を感じました。きっと戦前戦後の日本人も同じような気持ちだったのじゃないでしょうか。

他にも三遊亭圓生や古今亭志ん生、もちろん三代目の柳好の音源を聞き込みながら私は段々と落語にのめり込んでいきます。それでも、私を決定的に夢中にさせたのは立川談志です。ダイナミックな落語に切れ味鋭い毒舌、なにより落語に対する深い愛情に裏打ちされた(当時としては斬新な)落語の解釈の仕方が、戦前戦後の伝統的な落語に親しんでいた私には衝撃的で、一辺に夢中になりました。

「落語家になろう」

単に東京を出て憲法の勉強をしてみたい、という気持ちだけで山形大学に来て、特に将来の夢があったわけではない私は、自分の衝動のままに落語家になる決意をしました。

そして、卒業後1年間のバイト貯金生活を経て、2016年に現在の師匠立川志らくに入門。アッ、と言う間に7年の前座修業の歳月が経ち、2023年1月に二ツ目昇進をすることになりました。

またたく間に過ぎていった7年の修行時代、普通に生きてきたら経験しないようなこと、良いことも悪いことも、理不尽なことも……「まさか自分がこんなことになるなんて!」という日々の連続でした。思えば、寅さんの映画にも出演しました。エキストラですけどね。

いやはや、考えてみれば、私は山形大学に出てきて落語を聞き始めなければ落語家にはならなかったでしょう。東京にいたら、音楽が大好きなので「ラッパーになる」って言い出していたかもしれません。人生というのは常にわからないことの連続なのです。

しかし、落語家になって落語家として生活していく中でわかったこともいくつもあります。それは「人は人とつながることで成長する」ということです。例えば、この寄稿文もそうです。私は在学中は校友会との関わりは全くありませんでした。どちらかというと1人でいるのが好きな方だったので、正直存在すら知らなかったです。それが、落語家になって「山形で活動したい!」と思い、協力者を探し始めた時にこんなどこの馬の骨ともしれない山形生まれでもない男を暖かく迎え入れてくれたのは、やはり山形大学の諸先輩方でした。1人ではとても届かない場所にまで私のことを伝えて落語会の宣伝の協力をしてくださっています。そして、この寄稿文を書いています。

「人は人とつながることで成長する」というのは、当たり前の話のようですが、私たちはどうも「自分は1人でもそこそこやれる」と思い込みがちです。実際は──特に私のようなたくさんの人が助けてくれないと成り立たないような商売(もしかしたら、どの商売もそうかも知れませんが)をやっている人間は──1人で行けるステージにはどうしても限界があります。もし、学生さんでこれを読んでいる方がいらっしゃたら、ぜひ周りの人とのつながりを大切にしてみてください。周りの人は思っている以上にあなたを助けてくれます。もっとも、世の中には悪い人間もいるので、その見極めには注意しなければいけません。それでも、とりあえず山形大学の諸先輩方は頼れば助けてくれる、と思います。

さて、最後に宣伝をちょこっと。

今度、5月27日に山形市遊学館のホールで私の二ツ目昇進披露落語会が開催されます。私が落語に出会ったのは山形、そして私が落語を聞くためにあしげく通ったのは寄席ではなく遊学館併設の図書館。私にとっては人生のターニングポイントである場所で二ツ目昇進のお祝いをしたいという私の想いで開催することになった会です。

山形では落語を聞く機会はあまりないので、馴染みがないかもしれませんが一度聞いてみればきっとその面白さがわかると思います。ちょっと背伸びをして落語の世界を覗く、私の会をそんな世界を広げるきっかけにしてくだされば幸いです。

【立川志らぴー やったぜ!二ツ目昇進落語会 in 山形】

【立川志らぴー やったぜ!二ツ目昇進落語会 in 山形】
日にち 2023年5月27日(土)
開場 山形生涯学習センター遊学館・ホール
時間 開場13:30/開演14:00
出演 立川志らく、立川らく萬、立川志らぴー
料金 前売3000円/当日3500円
※チケット購入は八文字屋POOL(店頭)、チケットぴあ(ネット)