立川志らぴーさんの落語会(5/27)報告
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人文学部卒業の落語家、立川志らぴーさんから、5月27日に遊学館で開催された落語会のレポートをいただきましたので掲載します。
はじめに……
5月27日、山形県生涯学習センター遊学館 ホールにて『立川志らぴー やったぜ!二ツ目昇進落語会』が喝采の中で幕を閉じました。
その日の(一応)主役であった”立川志らぴー”こと私は、その拍手の中でひたすら歯がゆいほどに平伏し感謝の意を皆様に伝えることしかできませんでした。ご来場いただいた皆様、応援いただいた皆様、本当にありがとうございました。
知らない人のために改めて自己紹介をしますと、私は山形大学人文学部卒業の落語家、落語立川流立川志らく門下二ツ目の立川志らぴーと申します。つい先日、山形大学出身というその縁だけで、遊学館のホールで二ツ目昇進披露落語会を開催させていただいたという経緯です。
今回は会の中で感じたことや思っていたことを振り返りながら書いてみます。長くなってしまいましたが、読んでいただけたら嬉しいです。
開口一番
まず正直に申し上げますと、こんなに良い会になるとは思っていなかったのです。何しろ、東京生まれ東京育ちの私のことをよく知っている人は会場には殆どいないし、志らぴーの落語のファンと呼べる人に至っては片手で数えるほどいたかどうか。
「そんな場所で落語をやって笑ってもらえるのだろうか? 今の自分の実力で受け入れてもらえるだろうか?」という不安が、本当に開演直前まで胸の中にありました。
それでも宣伝や稽古などやれることはやったと、まさに人事を尽くして天命を待つの心境で袖に待機し、開口一番・兄弟子のらく萬兄さんの落語とお客様の反応に耳を澄ませていました。
「……これは受けてるな!」
私以上にホームではないはずのらく萬兄さんの落語で、客席から笑いが起きたのを聞いて私は(よし、これならいける!)とやっと少し安心をしました。
というのも、その笑いには私たちを受け入れてくれている気持ちがしっかり含まれていたからです。
もちろん、らく萬兄さんの芸の力もありますし、マクラでは一生懸命にお客様を盛り上げてくださったこともあるでしょう。ただ、それが笑いの形になって生きてくるのは、私たち演者がお客様に投げかけるものを素直に受け入れてくれるお客様の心あってこそ、というのを我々芸人はよく知っています。
それだけに、らく萬兄さんとお客様の良いやり取りはこの後に高座に上がるにあたってとても励みになりました。
らく萬兄さん、開口一番をありがとうございました。
1席目
らく萬兄さんの出番が終わって、私が高座に上がった時、まさに割れんばかりの拍手が起きたことに私はまず感動しました。
私の力不足もあり、お客様は会場の半分ほどしか入っていません。しかもほとんどのお客様は私と親類でもなんでもない。それなのに、超満員の会場なんじゃないかと思うほどに力強く暖かい拍手。
(よし、やれるぞ!)と調子に乗った私は、枕で「次回7月23日にやる独演会もよろしくね」なんて図々しいお願いまでしながら、1席目「ちりとてちん」に入りました。
「ちりとてちん」はわかりやすくて馬鹿馬鹿しい落語なので、まず最初はお客様にたくさん笑っていただこうと思って選んだネタ。 "ヤマザワ"の名前を出した時が一番受けたときは思惑通りと内心ほくそ笑んでおりました。
私もお世話になっていましたからね、ヤマザワ。
2席目
仲入りを挟んで私の2席目は「船徳」でした。
1席目はお客様に向けた落語、そして2席目のテーマは「師匠に聞かせる落語」でした。
「船徳」は真打クラスの難しい噺ですが、とても江戸落語らしい噺です。 "昭和の匂いがする落語家”を目指している私としては師匠に「こんな落語もできるんだぞ!」と見せたくて選びました。
また「船徳」は師匠志らくが落語家になる決意を固めた日に聞いたネタでもありました。
当日の枕でも師匠が喋っていましたが、師匠が学生時代に憧れて弟子入りしようと思っていた10代目金原亭馬生が亡くなる直前にやったネタがこの「船徳」です。師匠はその亡くなる直前の「船徳」を見て落語家になろうと決意したといいます。
そのせいか、師匠は最後の挨拶で私と並んで高座に出た時に私に「俺のエピソードを知っていて『船徳』を選んだのか?」と聞いてきました。
私は思わず「え、まぁ、そうです」と答えましたが、実際はネタを選んだ後、会の数日前にこのエピソードを知って「じゃあ、船徳はバッチリ合ってるじゃん!」と得意がっていたというのが真実です。バレてたかもしれませんね。すいません、見栄を張りました。
それでも、それを知らずに選んでしまった私と師匠のつながりが面白く感じられて嬉しくもありました。
最後に……
そして、私の出番が終わって師匠の高座です。
師匠は普段弟子のことはあまり喋らないのに、私について多くのことを話してくれたことが袖で聞いていて心から嬉しく、それ以上に私が心底憧れてたまらなかった「立川志らくの笠碁」を弟子として袖から聞かせてもらえることが嬉しかったです。
この喜びは、落語家になった人間にしかわからないことだと思います。 師匠も言っていた通り地味な噺なのに、師匠がやると会場が揺れんばかりの爆笑の連続で、袖で見ていた私は(ここに追いつくぞ!)と思っていたはずがいつの間にか(どうだ、うちの師匠はすげぇだろ!)と叫びたくなったほどです。
そして、師匠の高座が終わり、師匠とならんで最後のご挨拶。 私が高座に上がって頭を下げた時の拍手は、生涯忘れないことでしょう。 あれは私が生涯で初めて浴びた大喝采でした。師匠が喋りだそうとしてもまだ鳴り止まず、拍手が落ち着くのを師匠が待ってしまうほどのあの拍手の音は、これを書いている今でも耳に残っています。
あの音のお陰で(ああ、やってよかった。地元でもないんだからなんて言って、止めないでよかった)と心の底から思うことができました。
今回、私は会の宣伝のために山形のあちらこちらを駆け回り、人とつながることであれだけのお客様に足を運んでいただきました。
そうして、集まっていただいたお客様の一人ひとりの心を、らく萬兄さん、自分、師匠とそれぞれの芸でつないでいけたことで、最後の拍手があったのだと私は確信しています。
あの鳴り止まぬ拍手は、間違いなく人と人とのつながりの力が爆発した瞬間でした。
以前、山形大学の寄稿文に「人は人とつながることで強くなる」と書きましたが、それを自分の披露目という自分が主役の会で証明し、その中心にいられたことを誇りに思います。
ただ、少しだけ悔しさを語るとすれば、客席を満席にできていたらもっとすごい爆発が生まれたんじゃないかという点です。
この悔しさを解消するのは、この先の課題になるでしょう。そして、その課題をクリアするためには私が5月27日の盛り上がった心をどうやって次につなげていくかにかかっています。
そのために、私は山形の色んなところで落語をやりたいのです。
そして、私の落語で人と人のつながりの力を大きくしていって、最後には遊学館とは言わずもっと大きなホールで爆発させてたいのです。
今、これを読んでくださったあなたにもその爆発の中にいてもらいたいので、今後とも立川志らぴーを応援よろしくお願いいたします。
というわけで、最後に宣伝をちょっとだけ……
【次回の立川志らぴーの落語会日程】
『第1回 立川志らぴー独演会 落語アリマス in 山形』 | |
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日にち | 2023年7月23日(日) |
会場 | 山形テルサ交流室B(山形市双葉町1丁目2−3) |
時間 | 開場13:30/開演14:00 |
出演 | 立川志らぴー |
料金 |
前売2000円/当日2500円 (中学生以下無料/※予約時にお知らせください) |
予約 |
080-2047-2285 / shirap.yoyaku@gmail.com |

『船徳』を演ずる立川志らぴー/2023年5月27日遊学館にて