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東日本重粒子センターが火星衛星探査機搭載機器開発に貢献 ~株式会社ファムサイエンスと共同研究開始、宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加~

掲載日:2023.11.02

本件のポイント

画像提供:宇宙航空研究開発機構の画像
画像提供:宇宙航空研究開発機構

  • 2024年度に火星衛星に向けて打ち上げ予定の探査機MMXには、IREM(惑星空間放射線環境モニタ)が搭載され、宇宙環境での高エネルギー粒子の計測が行われる。
  • 打ち上げを前に、実機に対して実際に高エネルギー粒子を打ち込み、打ち込んだ粒子と得られる信号の関係を確立することが必要である。
  • 本共同研究において、東日本重粒子センターで加速した炭素イオンを利用し、上記試験を実施する。

概要

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、国際宇宙探査ミッションとして火星衛星探査機MMXを2024年度に打ち上げる予定としており、その中で火星衛星フォボスからのサンプルリターンなど様々な科学計測が実施される。その中には、惑星空間放射線環境モニタIREMも含まれており、火星周辺環境での放射線環境、特に高エネルギー粒子の計測が行われる。これは、人が有人飛行で火星圏に行った場合、どのような放射線環境にさらされるかについての基礎的な知見を得ることを目的としている。

 機器開発を完了するためには、実機に対して実際に高エネルギー粒子を打ち込み、打ち込んだ粒子と得られる信号の関係を確立することが必要である。必要とされる高エネルギー粒子を加速できる装置は国内で数少ないが、粒子エネルギーを細かく設定することが可能な東日本重粒子センターを利用したいという希望があり、共同研究という形で照射試験を実施することになった。照射試験は11月~12月頃を予定している。

 詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

背景

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)で準備が進められているMMX(Martian Moons eXploration)は、世界初の火星衛星サンプルリターンミッションで、2024年度の打上げを目指しています。このミッションでは、将来の有人火星探査に向けた各種調査も並行して実施され、宇宙放射線環境測定もその一つに位置付けられています。宇宙空間では、地上の自然界には存在しない高エネルギー粒子が飛び交っていることが知られており、有人探査の際に健康障害を引き起こすことが懸念されています。MMXミッションでは、惑星空間放射線環境モニタIREMを搭載して、火星近傍での超高エネルギー粒子環境に関する知見を得ることになっています。

試験内容

 IREMのような粒子線検出器を開発するためには、実際に超高エネルギーの粒子を検出器に打ち込んで、入射粒子と得られる信号との相関関係を確立する較正試験を実施する必要があります。較正試験を実施するには、超高エネルギーの粒子を、できるだけ揃った速度で、かついろいろな速度で出射できる加速器が必要になります。医学部東日本重粒子センターのシンクロトロンは、出射速度について圧倒的に多施設よりも多い600段階に設定可能で、このような較正試験を実施するのに適しています。この利点を活かして、加速した炭素イオンで較正試験を実施し、機器開発に貢献します。
 試験については、JAXAの契約を受けた株式会社ファムサイエンスと共同研究契約を締結し、試験にはJAXAの研究者及びIREM製造元である明星電気のエンジニアも数名参加します。試験は11月~12月に数回、固定照射室で実施を予定しています。
 なお、本試験は治療の行っていない時間帯に実施するため、当センターで実施している重粒子線治療には影響はありません。

今後の展望

 本共同研究で開発された機器は、MMXに搭載されて2024年度に打ち上げられた後、各種計測を進め、最終的には2029年に火星衛星から採取したサンプルと共にMMXが地球に帰還する頃まで計測する予定になっています。IREMによって得られた高エネルギー粒子の情報を分析し、有人探査の計画を立てる際の貴重な情報になります。また、重粒子センターでの試験時には、患者さんを模擬した標的に重粒子線を照射した時に発生する高エネルギー粒子の計測も実施し、重粒子線治療時の患者さんの二次粒子による放射線被ばくの基礎データ取得も試みることとしています。

用語解説

 1.二次粒子:重粒子線を照射したときに核反応により発生する陽子や中性子などの高エネルギー粒子

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