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山形大学を去るにあたって   渡部 泰山

掲載日:2016.03.02

 山形大学に来たとき、たまたま手にとった一冊の本の中にこんな言葉が書かれていた。「語ることのできないものについて、人は沈黙しなければならない」。現代哲学に大きな影響を与えた、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』の序文に記された言葉である。赤裸々に真摯に人間の生のあり方、生きる意味を問い続けた彼の言葉の群れと出会うと、自分が講義で学生たちに発する言葉の不透明さに恥じ入ることも多かった。それゆえ少しばかりの勇気なしには、学生たちに語り続けることはできなかった。そんな女々しい自分の講義に対して、好意的な笑顔と限りなく優しいコメントを綴り、僕を励まし続けてくれたのは、語ることのできないものを抱えたまま、つたない講義を受けてくれた学部生、院生の学生の皆さんであった。皆さんの眼差しの中にだけ、自分は確かに生きて在ることを感じとりました。ありがとうございました。
 もうすぐ春です。人間の小さな器の中では、自分とは何か、世界とは何か、そう問うても、なかなかその姿を捉えることはできない。学生たちに届けようとした講義の贈り物は、どうか少し発酵するまで、しばらく寝かせておいてほしいと思う。
 最後にお世話になった教職員の皆様にも深く感謝申し上げます。

最終講義での記念写真 (筆者 前列右から6人目) の画像
最終講義での記念写真 (筆者 前列右から6人目)

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