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数理科学が証明する磁気構造と原子占有率の初の決定法~磁石材料、水素・電池材料の高性能化へ期待〜

掲載日:2018.11.28

東北大学大学院理学研究科
山  形  大  学
 

ポイント

  • 数理最適化法で「局所解問題」を解決し、回折・散乱の実験データから最確の磁気構造(原子磁石のナノ配列)と原子占有率(指定座標における原子の存在比;結晶構造の構成要素)を決定する方法を開発。
  • 複雑な組成の材料に対しても高速且つ正しく求解。
  • 電気自動車の高効率モーター・発電機の磁石材料、水素・電池材料等が、実測で決定された正確なナノ構造情報から高性能化されると期待。

磁気構造と原子占有率の決定の流れ。(a) 実験データの例。(b)(c) 実験データ解析(最適化問題)の概念図。解析結果が狭い変数領域における最適解にすぎないかもしれないという局所解問題が、今回の方法で解決されることを表す。(d) 得られた磁気構造や原子占有率の例。後者は原子の欠損や複数の原子種の共存の比を表し、円グラフの原子で表現される。Q.E.D.は数理科学において証明終了を表す記号である。の画像
磁気構造と原子占有率の決定の流れ。(a) 実験データの例。(b)(c) 実験データ解析(最適化問題)の概念図。解析結果が狭い変数領域における最適解にすぎないかもしれないという局所解問題が、今回の方法で解決されることを表す。(d) 得られた磁気構造や原子占有率の例。後者は原子の欠損や複数の原子種の共存の比を表し、円グラフの原子で表現される。Q.E.D.は数理科学において証明終了を表す記号である。

概要

東北大学大学院理学研究科の富安啓輔助教と山形大学学術研究院の富安亮子准教授(データサイエンス・数理科学)は、九州工業大学大学院工学研究院と米国オークリッジ研究所中性子散乱ディビジョンとの共同研究で、回折実験から最確の磁気構造と原子占有率を決定できる全く新しい実験データ解析法を開発しました。これは、解析上の長年の未解決問題であった局所解問題を、数理科学を用いて解決したことによる成果です。さらに、この方法を、イリジウム酸化物磁性材料について実測した粉末中性子回折データに適用しました。その結果、大域解であることが数学的に証明された磁気構造を実験的に決定することに初めて成功しました。また、データベース中の数千個の結晶構造から数値シミュレーションにより生成した仮想回折データ群を用い、大域解であることが保証された原子占有率を決定できることも確かめました。磁気構造は全磁性材料の基礎情報、原子占有率は水素含有材料や電池材料などで特に重要となる原子欠損や不定比情報を提供するものです。この研究成果は、これまで互いの高度さゆえに乖離しがちであった数理科学と材料科学(実験)の融合が創出したもので、複雑な組成の材料に対しても正しく且つ高速に求解する手段を提供します。今後、この手法は、基礎・応用・実用の様々な磁石・水素・電池材料の開発において問題解決や性能革新に貢献し、将来、数学的に正しさが保証された磁気密度・原子占有率の空間分布を回折・散乱測定中に観測する技術へ発展することが期待されます。本研究の成果は、平成30年11月1日(グリニッジ標準時)、英国の国際科学論文誌Scientific Reportsに掲載されました。

詳しくはこちらの資料をご覧ください。

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