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本州にかつて生息していたヒグマの起源の解明

掲載日:2021.08.05

国立大学法人 山梨大学
独立行政法人 国立科学博物館
国立大学法人 山形大学

 山梨大学医学部総合分析実験センター 瀬川高弘講師、東京工業大学生命理工学院 西原秀典助教、国立科学博物館地学研究部 甲能直樹グループ長らの研究グループは、東京農業大学農学部 米澤隆弘准教授、国立遺伝学研究所情報研究系ゲノム多様性研究室 森宙史准教授,国立極地研究所 秋好歩美学術支援技術専門員、甲能純子 国立科学博物館協力研究員、山形大学 学術研究院(理学部主担当) 門叶冬樹教授らのチームと共同で、本州から発掘されたヒグマの化石の放射性炭素による年代測定とミトコンドリアDNAの解析を行いました。その結果、本州産ヒグマ化石から古代DNAの抽出に初めて成功し、その起源と渡来の歴史を明らかにしたと発表しました。ヒグマは体長が3mに達する日本列島最大の哺乳類で、現在の日本列島では北海道だけに分布していますが、かつて本州には北海道の個体よりも遙かに大きいヒグマが生息していました。本研究において本州のヒグマ化石は、3万2,500年前と1万9,300年前(後期更新世)に生息していた個体であることが明らかになりました。そして、古代DNA解析により本州のヒグマが14万年程前にユーラシア大陸北部から本州に到達した古い系統に属する未知の集団だったこと、また前後の時代の化石記録から本州には少なくとも34万年よりも古い時代と14万年程前の2回にわたってユーラシア大陸から本州に渡来していたことが明らかとなりました。

概要

 現在の日本列島ではヒグマ(Ursus arctos)は北海道にしか生息していませんが、更新世の化石記録からはかつてヒグマが本州全域に生息していたことや、北海道の個体よりも遙かに大きかったことが分かっています(図1)。しかし本州のヒグマがどのような系統で、いつどこから来たのかといった、ヒグマの進化の歴史についてはほとんど分かっていませんでした。
 そこで本研究では、本州から産出したヒグマの化石から放射性炭素による年代測定と安定同位体の分析ならびに古代DNAの抽出をおこないました。年代測定の結果から、本研究で用いた2つの本州のヒグマ標本はそれぞれ3万2,500年前と1万9,300年前の個体であることがわかりました。また、炭素・窒素の安定同位体比の結果から、本州のヒグマは肉食性が強かったことが示されました。さらに、ミトコンドリアDNA分析の結果、本州のヒグマは現生のヒグマとは独立した集団であり、その姉妹系統が現在の北海道南部のグループであること、またそれらと分岐した時期が約16万年前であることがわかりました
 さらに、この分岐年代と化石記録から、ヒグマがユーラシア大陸から本州に少なくとも2回渡来したことが分かりました。1回目に渡来したヒグマ集団は世界のヒグマの中でもかなり古く34万年以上前には分岐していた系統で、2回目の渡来集団は約14万年前の寒冷期に起こった海面低下に伴って北海道を経由して本州に移動してきたと考えられます。日本における哺乳類の種ごとの分布の消長が海面変動によってどのように影響を受けたかについて、これまでほとんど分かっていませんでしたが、本研究により、度重なる氷期の海面低下により、これまで考えられていたよりも頻繁に同じ種の大型哺乳類が移動してきたことを示しました 
 本研究は、更新世の日本列島における大型哺乳類の繁栄と絶滅、そして氷期の環境変動が哺乳類の多様性に与えた影響を理解する上で、極めて重要な知見になると期待されます。

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論文情報

名:Ancient DNA reveals multiple origins and migration waves of extinct Japanese brown bear lineages.(古代DNA解析が明らかにした日本列島のヒグマの系統的多起源性と複数回の渡来)
: Royal Society Open Science(英国王立協会オープンサイエンス誌)vol.8
            https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.210518
公表日時:日本時間:2021年8月4日(水)午後7時30分までに公表予定
    : Takahiro Segawa*, Takahiro Yonezawa, Hiroshi Mori, Ayumi Akiyoshi, Morten E. Allentoft, Ayako Kohno, Fuyuki Tokanai, Eske Willerslev, Naoki Kohno*, Hidenori Nishihara*(*責任著者)

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