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地域社会における安心・安全意識調査を実施~学術的知見を活かした住みよいまちづくりへの提言~

掲載日:2021.04.01

本件のポイント

  • ⼩学校の保護者と⼭⼤⽣を対象に、安⼼・安全意識に関するアンケート調査を実施し、特集号を組んで発表しました。
  • 災害への備え不⾜や頼れる⼈の少なさ、精神的な悩みの相談相⼿の相談機関を結びつける⼿段の不⾜、避難地図や避難場所の認知度の浸透具合、⼤学⽣の⾃転⾞運転への不安等が浮き彫りになりました。

概要

 ⼭形⼤学⼈⽂社会科学部の研究グループ(YU-COE(M)「地域社会における安⼼・安全に関する学際的研究拠点」)が、⼩学校の保護者と⼭⼤⽣を対象に、安⼼・安全意識に関するアンケート調査を実施し、その結果を特集号論⽂としてまとめました(⼭形⼤学⼈⽂社会科学研究年報第 18 号)。災害への備え不⾜や頼れる⼈の少なさ、精神的な悩みの相談相⼿と相談機関を結びつける⼿段の不⾜、避難地図や避難場所の認知度の浸透具合、⼤学⽣の⾃転⾞運転への不安等が浮き彫りになりました。報告書、論⽂には各課題への提⾔も盛り込んでいます。安全安⼼な社会の実現につながる価値創造を⽬指した研究拠点として、今後も情報の集約をし、⾃治体、⼤学と連携を進めていきます。

詳しくはこちら(プレスリリース)をご覧ください。

背景

 現代社会では、交通事故や災害、精神的な健康の悪化など様々な安⼼・安全に関するリスクがあります。このようなリスクは科学と社会の双⽅に関わる問題であり、その解決のためには⼤学と地域社会の連携が必要です。⼈⽂社会科学部では、認知科学、地理学、社会学、情報科学、⾏動科学、臨床⼼理学の研究者が連携し、実験やフィールドワーク、統計的調査などの科学的な⼿法を組み合わせた研究プロジェクトを推進してきました(2013年のプレスリリースなど)。誰にとっても住みやすい安⼼・安全な地域社会にするための解決策を提案することが喫緊の課題です。

研究体制

 本研究プロジェクトは、⼭形⼤学⼈⽂社会科学部を主担当とする⼤杉尚之准教授(認知科学)⼭⽥浩久教授(地理学)阿部晃⼠教授(社会学)⽵内⿇貴准教授(社会学)本多薫教授(情報科学)により企画され、平成 30 年度 YU-COE「⼭形⼤学先進的研究拠点」(M)に採⽤されて助成を受けました(「地域社会における安⼼・安全に関する学際的研究拠点」)。その後、令和元年度より⼩林正法准教授(⾏動科学)、令和2年度より中村志津⾹客員研究員(臨床⼼理学)が拠点メンバーとして加わっています。

特集号論文の概要

 ⼭形⼤学周辺の⼩学校の保護者(2018 年12 ⽉)および⼭形⼤学の学⽣(2019 年1 ⽉)を対象とするアンケート調査を⾏い、⼭形⼤学⼈⽂社会科学研究年報第 18 号に特集号論⽂としてまとめました。以下はその概要です。

特集 地域社会における安心・安全に関する学術的研究
目次
1. 本研プロジェクトの概要
2. 「⼭形⼤学周辺における暮らしの安⼼・安全に関するアンケート(2018)」調査の概要 
3. 災害時のネットワークと災害への備え:⼭形⼤学近隣⼩学校の保護者と⼤学⽣の調査より(阿部担当)
●五⼩保護者でも⼭⼤⽣でも、災害時に助けを求めることができる知⼈の数は少なく(「市内にいない」が約2割)、親族か⼤学の友⼈・知⼈のネットワークを頼りにしている⼈が多いのが現状です。このため、災害時にはキャンパス周辺で孤⽴する住⺠や学⽣が⽣じる可能性があります。
災害時の備えの実⾏率は、「避難場所の確認」を除けば、五⼩保護者で3 割前後、⼭⼤⽣では2 割前後です。被災地である宮城県出⾝の学⽣でも⼀⼈暮らしだと実⾏率が低くなっており、備えを促す必要があります。
4. ⼼の健康に関する相談相⼿の実態と相談窓⼝の認知度について:⼭形市⺠と⼭形⼤学⽣の事例(⼤杉担当)
五⼩保護者、⼭⼤⽣ともに、精神的な悩みの相談相⼿として友⼈や知⼈(保護者の場合は職場の同僚)を挙げていました。全体の1割の⽅は相談相⼿が誰もいないと答えていました。相談窓⼝としては、「⼭形いのちの電話」以外の公的機関の知名度が⼗分ではありませんでした(1割未満)。⼤学⽣には「なんでも相談コーナー」や「保健管理センターの学⽣相談室」の知名度が⾼いこと(6割程度)がわかりました。
5. 防災情報の発信と⼊⼿に関する現状と課題−⼭形市住⺠と⼭形市役所の調査から−(本多担当)
●⼭形市の住⺠(五⼩保護者)に対して実施したアンケート調査と、⼭形市役所の防災担当者からのヒアリング調査をもとに、防災情報の⼊⼿と発信に関する現状を⽐較して、課題を明らかにしました。
●⼊⼿側(住⺠)はテレビやラジオの公共放送やインターネット上にある防災情報を⼊⼿しようとしているのに対して、発信側(⼭形市)は緊急速報メールやSNS に防災情報を流して、住⺠に災害情報を届けようと考えており、両者の⾏動に差異があります。迅速な防災情報の⼊⼿と避難⾏動につながることから、住⺠が防災情報にアクセスしやすい環境を整えるとともに、⽇頃から防災情報の⼊⼿を促進させる必要があります。
6. 児童の安全・安⼼を考える保護者の空間リスク認知の重要性(⼭⽥担当)
●児童の安全・安⼼を考える保護者の空間リスク認知は、詳細であるものの、⾃宅周辺に偏る傾向があるため、⼩学校周辺や通学路の安全安⼼については、保護者間そして⼩学校との情報共有が必要になります。情報共有の場として、学内⾏事やPTA は重要な意味を持っていると⾔えます。
●注意⼒や視野に関して、⼤⼈と⼦供には⼤きな差があります。保護者の空間リスク認知は詳細ですが、実際に通学する児童の安全安⼼を確保するためには、地域全体で⼦供を⾒守ることが重要です。
7. ⼭形⼤学⼩⽩川キャンパス周辺における⼩学⽣保護者の不安経験と⼤学⽣の問題認識(⼤杉担当)
●⼭⼤⽣の振る舞いに関する不安経験として、五⼩保護者の約4割が「⾃転⾞の運転」、「騒⾳」、「歩⾏時のマナー」をあげていました。これらの項⽬は 2013 年度の調査でも指摘されており、慢性化しているようです。⼭⼤⽣による回答予想でも同傾向であり、⼭⼤⽣⾃⾝も地域の⽅にとっての迷惑⾏為であると認識しているようです。
8. 育児サポートの利⽤可能性と⼤学⽣による地域活動への期待(⽵内担当)
●⼤学⽣による地域活動が⼦育て家庭の福祉を向上しうるかを検討しました。五⼩保護者の多くが、⼭⼤⽣に⼦どもを相⼿とする地域活動を期待していました。なかでも、⾮親族による育児サポートを利⽤できる可能性がない保護者がより期待していることがわかりました。⼩学⽣の保護者、とくに⾮親族による育児サポートが脆弱な保護者の福祉は、⼤学⽣に⼦どもの相⼿を頼ることで向上する可能性があると考えられます。

今後の展望

 現在、COVID19 の拡⼤に伴い、⼊国制限や⾏動制限を求める動きが強まっており、また、感染拡⼤を防ぐために各地域でも対⾯でのコミュニケーションが制限される状況となっています。その結果、社会的ネットワーク、家族関係、まちづくり計画、観光、精神的健康、教育、研究などが⼤きな負の影響を受けています。このような状況の解決策を⾒出すためには、地域や社会の特性、⼈間特性、情報機器(ICT)の特性を理解し、これらの新しい価値を⾒出す取り組みが必要とされるでしょう。今後も引き続き、安⼼・安全な地域社会を⽬指す研究を推進していきます。

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