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県天然記念物イバラトミヨの新種記載論文発表~生物学分野・修了生の論文が国際誌に掲載~

掲載日:2021.09.02

本件のポイント

  • 大学院理工学研究科理学専攻生物学分野の修了生・松本達也氏は、本学在籍中、天童・東根のみに分布する県天然記念物である本種が、世界のどのトミヨ属※1)の種とも異なることを確認し、動物分類学専門誌Zootaxaで新種 カクレトミヨ Pungitius modestusとして発表した。
  • 日本産トミヨ属では106年ぶりの新種記載となり、本種が地域固有の絶滅危惧種であることが再確認された。
  • 学名命名に伴い、本種が環境省の緊急指定種、国の天然記念物に指定される可能性が高まり、本種とその生息地の保全対策が一段と加速することが期待される。

概要

 山形県天童市と東根市のみに生息する県天然記念物・イバラトミヨ特殊型は、温暖化に伴う渇水などにより絶滅のリスクが高まっている。しかし、正式に分類されて学名が付けられていないために、国の重点的保全対策からは漏れている。そこで、本学大学院理工学研究科理学専攻生物学分野の修了生(20213月修了)・松本達也氏は、本学在籍中、イバラトミヨ特殊型を世界中の保存機関にある他のトミヨ属の種と比較解析した結果、多くの形態的形質が異なり、明らかに別種であることを確認した。以上の結果に基づいて、天童・東根のイバラトミヨ特殊型を地域固有の新種として、カクレトミヨ Pungitius modestusと命名し、国際的動物分類学専門誌 Zootaxaで論文発表した。正式に学名が付いたので、今後は本種とその生息地の保全対策が一段と加速することが期待される。

詳しくはこちら(プレスリリース)をご覧ください。

背景

 イバラトミヨ特殊型(トミヨ属山形型/雄物型)は天童市と東根市の湧水域3箇所のみに生息し、県の天然記念物として保護されているが、温暖化に伴う渇水などにより絶滅リスクが高まっている(山形県,2019)。Takahashi et al. (2016)により、イバラトミヨ特殊型は関西で絶滅したミナミトミヨに近縁である可能性が示されたが、正式な分類学的研究はされておらず、学名が付いていないために、国の重点的保存対策から漏れている。そこで、松本達也氏は本学大学院博士前期課程在籍時の修士論文研究の一環として、イバラトミヨ特殊型の分類学的研究を進めた。

研究手法・研究成果

 世界中の保存機関にある他のトミヨ属有効種※2)11種のタイプ標本※3)と形態的形質を詳細に比較解析した結果、天童・東根のイバラトミヨ特殊型は多くの形質が明確に異なっており、明らかに別種であることが判明した。また、ゲノム解析の結果、イバラトミヨ特殊型は従来から近縁とされている秋田産雄物型とは異なり、トミヨ属の他の種や型と交雑した形跡がなく、ゲノムが均質で固有の形態的形質を持つことが明らかになった。以上より、天童・東根のイバラトミヨ特殊型を地域固有の新種として、カクレトミヨ Pungitius modestusと命名し、国際的動物分類学専門誌 Zootaxaに論文を投稿して受理され、この学名が正式に認められた。

今後の展望

 正式に学名が付いたので、種の保存法※4)が適用されることになり、さらに環境省の緊急指定種、国の天然記念物に指定される可能性が高まり、本種とその生息地の保全対策が一段と加速することが期待される。

用語解説

  1. トミヨ属:トゲウオ科トミヨ属に属する小型淡水魚類。北半球の冷帯に広く分布し、正式に学名が付いている種は世界で11種のみで、このうち日本には絶滅したミナミトミヨの他、北海道にエゾトミヨが分布している。その他、正式に学名が付いていない複数の生態型、地方型が知られている。
  2. 有効種:正式にラテン語の学名が付いている国際的に認められた種。
  3. タイプ標本:新種記載をする際に基準とした個体の標本。分類学的研究で必ず比較すべき標本。
  4. 種の保存法:国が定めた絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律。
  • 引用文献:山形県 (2019) 山形県の絶滅のおそれのある野生動物 (監修・執筆:半澤直人) .山形.334 pp.
    Takahashi and 10 authors (2016) Species phylogeny and diversification process of Northeast Asian Pungitius revealed by AFLP and mtDNA markers. Molecular Phylogenetics and Evolution, 99: 44-52.
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