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シロアリの巣に住む昆虫の進化を促すものは何か? ~感染症数理モデルと文献情報から、シロアリの巣の進化との関係を解明~

掲載日:2022.04.18

山形大学
沖縄科学技術大学院大学

本件のポイント

  • シロアリの巣にはハネカクシなどのシロアリではない昆虫(好白蟻性昆虫)も住んでいる。
  • これまでに見つかっている全ての好白蟻性ハネカクシの情報をまとめ、そのほとんどが複雑な巣をつくるシロアリの巣に住んでいることを見つけた
  • 好白蟻性昆虫によるシロアリの巣への侵入を感染症に見立てて数理モデルを構築し、シロアリの営巣戦略の進化と好白蟻性昆虫の侵入の関係を説明した

概要

 シロアリの巣の中には、好白蟻性昆虫と呼ばれるシロアリ以外の昆虫も暮らしており、寄主であるシロアリから餌をもらうなどの社会寄生行動を進化させています。このような好白蟻性昆虫は様々な分類群から知られているものの、好白蟻性昆虫が見つかるシロアリの分類群には大きな偏りがあります。沖縄科学技術大学院大学と山形大学の研究グループは、このような偏りが生じるメカニズムを解明するため、好白蟻性種が最も多く知られているハネカクシ科甲虫に着目し、感染症数理モデルと好白蟻性ハネカクシの全ての寄主情報をもとにした系統種間比較を組み合わせた解析を行いました。その結果、シロアリの採餌行動と営巣戦略の進化が、好白蟻性の進化の原動力になっていることを発見しました。この研究成果は、2022年3月31日に「Evolution」誌に掲載されました。

 詳細はこちら(プレスリリース資料)をご覧ください。

 背景

 アリやシロアリのような社会性昆虫1は、外環境から隔てられた大きな巣構造を建設し、その中で餌や幼虫などの大量の資源を守っています。このような守られた環境は、病原菌や寄生者にとって侵入さえできれば魅力的な環境です。ハネカクシという甲虫をはじめ、様々な節足動物が社会性昆虫の巣に侵入し、寄主から餌をもらったり寄主の幼虫を捕食したりする寄生行動を進化させてきました。これらの社会寄生者は、社会性昆虫のゲスト、もしくは好蟻性昆虫や好白蟻性昆虫と呼ばれ、特殊な行動の進化を明らかにする上で重要な研究対象です。
 社会性昆虫のゲストは、全ての社会性昆虫の巣で見られるわけではありません。例えば、グンタイアリの巣では実に300種以上のゲストが観察される一方で、ゲストが全く存在しないアリやシロアリも知られています。このような種間の大きな差異はなぜ生じるのでしょうか?これまでの研究ではそのメカニズムについて検討された例がなく、ゲストの進化プロセスは謎につつまれていました。そこで沖縄科学技術大学院大学と山形大学の研究グループは、シロアリと好白蟻性ハネカクシの関係に着目して、この謎の解明に取り組みました。
 シロアリは全世界に3000種以上が存在し、種ごとに異なる構造の巣を作り出します。シロアリの巣は好白蟻性昆虫の巣でもあるため、その規模や構造は好白蟻性昆虫の進化において重要な役割を果たすと予測できます。本研究では、シロアリの営巣戦略を大きく2つに分けて考えました。1つはワンピース営巣性といい、1つのシロアリのコロニー2が倒木などの1つの材の中に巣を作り、その材自体を餌としても利用します。そのため、そのコロニーの一生は1つの材の中で完結します。もう1つは採餌営巣性といい、コロニーは複数の材を巣や餌場として利用します。採餌営巣性のシロアリは、1つの材に留まらないためにワンピース営巣性よりもコロニーの寿命が長く、外界との接触も多くなると考えられます。そのため、採餌営巣性のシロアリの巣には好白蟻性昆虫が入り込む機会が多く、また一度入り込んだ好白蟻性昆虫はより長く安定的に暮らせると予測できます。

 研究手法・研究成果

 沖縄科学技術大学院大学の水元惟暁博士は、シロアリの巣の建設行動を専門に研究を行っており、様々なシロアリを対象に建設行動を比較しています。山形大学学術研究院(理学部担当)金尾太輔助教は、好白蟻性ハネカクシの分類が専門で、これまでに見つかった全ての好白蟻性ハネカクシの情報を集めていました。この2人の議論から本研究のアイディアは生まれ、早速次の仮説の検証に取り掛かりました。
 まず、好白蟻性昆虫がシロアリの巣に侵入する過程について、人間集団において感染症が拡がる過程と同じように記述できると類推しました。そこで、コロニーの寿命とハネカクシによるコロニーへの侵入確率というシロアリの営巣戦略と深く関連する2つの要因に着目し、これらが好白蟻性ハネカクシの定着にどのような影響を与えるかについて簡単な感染症数理モデル3を用いて調べました。その結果、コロニーの寿命が長く、ハネカクシの侵入確率も高い採餌営巣性コロニーの方が、より多くハネカクシが見られるという期待通りの予測が得られました。

 次に、好白蟻性ハネカクシ670種の寄主情報をまとめ、これらがどの様な営巣戦略を持つかを調べました。その結果、99.6%にあたる667種のハネカクシが採餌営巣性のシロアリを寄主にしていることが分かりました。残りの3種のハネカクシについても、ワンピース営巣性として知られるシロアリを寄主とするものの、そのシロアリは過去に採餌を行う可能性が指摘された種に近縁であることがわかりました。また、系統種間比較解析4の結果、好白蟻性ハネカクシの出現とシロアリの営巣戦略の進化は、統計的に独立ではないことが示されました。つまり、営巣戦略と好白蟻性に強く関係しているという予測が支持されたのです。

 今後の展望

 これまでの社会性昆虫のゲストを対象にした研究は、ゲストの側の視点に立ったものがほとんどでした。本研究では、寄主であるシロアリ側の視点に立ち、その営巣戦略を考慮することによって、好白蟻性昆虫に関する知見の大きな溝を埋める成果を得ることができました。一方で、好白蟻性昆虫の種多様性や系統関係は未だ不明瞭な部分が多く残っています。今後、好白蟻性昆虫を対象にした大規模な系統解析が行われ、ハネカクシとシロアリ双方の進化プロセスが明らかになれば、社会寄生の進化に対するより包括的な理解につながることが期待されます。

 用語解説

  1. 社会性昆虫:女王や兵隊などの階級を持ち、血縁者で集団生活を送る昆虫。アリやシロアリ、一部のアブラムシなどが知られる。
  2. コロニー: 同じ巣やなわばりで生活する血縁者の集団。
  3. 感染症数理モデル: 特定の集団における感染症の拡がりについて、数式を利用して記述したもの。新型コロナウイルスの流行予想にも使われている。
  4. 系統種間比較解析:近縁な種同士は近い特徴を持っているなど、種間比較をする際に系統関係を考慮した解析。

論文情報

雑誌名:Evolution https://doi.org/10.1111/evo.14457
題名:Termite nest evolution fostered social parasitism by termitophilous rove beetles
著者:水元惟暁1,トマ・ブーギニョン1, 金尾太輔21沖縄科学技術大学院大学, 2山形大学学術研究院(理学部担当))

 助成

 本研究は、JSPS科研費 特別研究員奨励費(20J00660 代表者:水元惟暁)と、JSPS科研費 若手研究(19K16220 代表者:金尾太輔)の助成を受けて行われました。

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