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優れた発光特性を有する混合カチオンペロブスカイトナノ結晶と自己修復性ポリマーの融合 〜伸縮性と機械的強度を両立したオプトエレクトロニクスデバイスの創出に期待〜

掲載日:2022.12.07

発表のポイント

◆イオンサイズの異なる混合カチオン組成のペロブスカイトナノ結晶を合成し、結晶構造や光学特性を詳細に解析するとともに、自発光ダイオード型 (LED) の高性能化に成功した。
◆自己修復ポリマーにペロブスカイトナノ結晶を分散することで、耐水性と伸縮性を両立した白色バックライト型LEDの開発に成功し、鉛イオンの閉じ込めにも有効であることを示した。
◆自己修復ポリマーを用いることで、割れたガラス基板を使用した場合においても増幅自然放射特性が発現することから、レーザーデバイスにも応用可能であることを示した。

 詳しくは、こちら(プレスリリース資料)をご覧ください。

概要

 山形大学大学院有機材料システム研究科の千葉貴之助教城戸淳二教授らの研究グループは、国立台北科技大学有機高分子材料研究所の郭霽慶教授との国際共同研究において、混合カチオン型ペロブスカイトナノ結晶Csx-1FAxPbBr3と自己修復性ポリマーを組み合わせることで、高性能な自発光型発光ダイオード (LED) や高演色性を有するバックライト型白色LED、低閾値なペロブスカイトレーザーの開発に成功した。
 ペロブスカイトナノ結晶はハロゲン組成や粒子サイズにより発光波長の制御が可能であり、シャープな発光スペクトルと非常に高い発光量子収率を示すことから、次世代発光物質としてLED材料、ディスプレイ用バックライト光源、低閾値レーザーなど幅広いアプリケーションへの応用展開が期待されている。しかし、ペロブスカイトナノ結晶は酸素や水に対して極めて敏感であり、その優れた光学特性をエレクトロニクスデバイスへ活用するには高いハードルがあった。そこで、山形大学の千葉貴之助教らが開発した混合カチオン型ペロブスカイトナノ結晶Csx-1FAxPbBr3と国立台北科技大学の郭霽慶教授らの合成した自己修復性ポリマーを混合することで、高い安定性と優れた自己修復機能をもつ発光材料を創出した。イオンサイズの異なる有機および金属カチオンを用いた混合カチオン組成により、優れた発光特性をもつ緑色発光のナノ結晶を合成し (図1)、ペロブスカイトナノ結晶LEDの高性能化を達成した (図2) 。また、自己修復性ポリマーとナノ結晶を用いることで、バックライト型LEDに応用可能な高演色な白色発光を達成し (図3)、低閾値での増幅自然放射 (ASE) の発信が可能なレーザーデバイスの応用に成功した (図4)。また、自己修復性ポリマーは、耐水生や伸縮性を有するだけでなく、ペロブスカイトナノ結晶中の鉛イオンの漏出についても効果的に抑制であり、次世代のオプトエレクトロニクスデバイスにも求められる伸縮性と機械的強度を両立することに成功した。
 山形大学と国立台北科技大学は学術交流協定を締結しており、短期留学交換プログラム(STEP-YU)を積極的に実施している。国立台北科技大学の郭霽慶教授らの研究グループから、これまでに5名の留学生を受け入れており、 2019年から現在に至るまでの共同研究成果が結実した内容となっている。

 本研究成果は、Wileyが発行するAdvanced Materials (Impact Factor of 32.086) に掲載されました。

研究の背景

 近年、有機EL(OLED)ディスプレイを採用したテレビやスマートフォンは、従来の液晶ディスプレイよりも優れた視認性を示し、高コントラストな映像が特徴である。しかし、有機発光材料の発光スペクトルがブロードであり、高色純度化には課題を残している。ペロブスカイトナノ結晶は半値幅が40 nm以下のシャープな発光スペクトルを示し、自然界の99.9%の色を再現することができる。また、高い発光量子収率を示し、印刷プロセスにより薄膜形成が可能なことから、次世代の自発光型LED材料に加えて、ディスプレイ用途のバックライト型LEDや低閾値で発信するレーザーデバイスなど幅広いアプリケーションへの応用が期待されている。
 しかしながら、ペロブスカイトナノ結晶は、イオン性の結晶構造に起因する耐水性や耐熱性に課題があり、ナノ結晶自体の構造および化学的な安定性の向上が望まれている。また、LEDやレーザーなどのオプトエレクトロニクスデバイスには、伸縮性や自己修復性と機械的強度の両立が求められる。

発表の内容

 APbX3 (A=Cs, MA:メチルアンモニウム, FA:ホルムアミニジウム, X=Cl, Br, I) の化学式で示されるペロブスカイトナノ結晶は、その組成を変えることで、発光波長や発光量子収率などの発光や電子物性を容易に制御することができる。山形大学の千葉貴之助教らは、ナノ結晶のAサイトにイオン半径の異なるCsとFAを混合したCs1-xFAxPbBr3ナノ結晶を2段階ホットインジェクション法により合成した。ペロブスカイトの結晶構造は、構成元素のイオンサイズに強く依存するため、Aサイトを混合カチオン組成にすることで結晶構造を安定化できる。混合カチオン組成の最適化により、発光波長515 nm、半値幅22 nm、発光量子効率95% (薄膜では86%) という高い発光性能と色純度を両立する緑色発光を実現した。さらに、このナノ結晶をLEDの発光層に用いることで、高度に配列したピンホールのない均一な薄膜を形成し、輝度3100 cd/m2、電流効率21.5 cd/Aという高いデバイス特性を達成した。また、国立台北科技大学の郭霽慶教授らの合成したポリジメチルシロキサン (PDMS) 骨格にトリホルミルベンゼン (TFB) とジフェニルメタンジイソシアネート (MDI) を有する自己修復性ポリマー中に緑および赤色ペロブスカイトナノ結晶を分散したバックライト型LEDは、高演色な白色発光 (0.33, 0.34) を示した。に応用した。自己修復性ポリマーは強い動的水素結合と可逆的なイミン結合をもつことら、4時間ほどでポリマー間のネットワーク構造を再構築する自己修復が可能である。また、水中においても伸縮性や発光性能を維持しており、ペロブスカイト構造を形成している鉛の漏出についても効果的に抑制できることがわかった。さらに、本研究で開発したCs0.5FA0.5PbBr3ナノ結晶薄膜では、低閾値でのASE特性が発現しており、割れたガラス基板を自己修復性ポリマーで補修したでバイスにおいてもASE特性を示した。以上のことから、ペロブスカイトナノ結晶と自己修復性ポリマーを融合することで、伸縮性と機械的強度の両立をしたオプトエレクトロニクスデバイスを創出できる。
 本研究成果は、科学研究費補助金(課題番号:20K05639)などの支援によって実施された。

発表雑誌

雑誌名:Advanced Materials
論文タイトル:Synergistic Effect of Cation Composition Engineering of Hybrid Cs1−xFAxPbBr3 Nanocrystals for Self-Healing Electronics Application
著者:Fang-Cheng Liang, Fu-Cheng Jhuang, Yu-Han Fang, Jean-Sebastien Benas, Wei- Cheng Chen, Zhen-Li Yan, Wei-Chun Lin, Chun-Jen Su, Yuki Sato, Takayuki Chiba*, Junji Kido*, Chi-Ching Kuo*
DOI:doi.org/10.1002/adma.202207617

用語解説

注1:ペロブスカイトナノ結晶
 セシウムや有機分子の一価カチオン(Aサイト)、鉛やスズなどの二価カチオン(Bサイト)、ハロゲン(Xサイト)の一価アニオンからなるペロブスカイト構造ABX3を持つ、一辺数〜数十nmの立方体結晶。発光スペクトルは15〜40 nm程度の狭い半値幅を示し、高い色純度と発光量子収率の両立が可能な発光材料である。

注2:混合カチオン組成
 Aサイトにイオンサイズの異なるカチオンを混合したペロブスカイト構造であり、結晶構造の安定性を改善できる。本研究ではセシウムとホルムアミニジウムの混合カチオンを検証した。

注3:ペロブスカイトナノ結晶LED
 電流駆動によりペロブスカイトナノ結晶を発光させる光学デバイス。

注4:自己修復ポリマー
 材料同士を密着させると、それぞれが融合・一体化する自己修復性を有するポリマー。

注5:バックライト用LED
 青色LEDの発光を吸収し、緑および赤色に発光波長を変換した白色発光を示すデバイス。

注6:ペロブスカイトレーザーデバイス
 光源にペロブスカイトを用いたレーザーデバイスであり、科学研究・通信分野などでの実用が期待されている。

参考図

図1:Cs0.5FA0.5PbBr3薄膜の(a)高解像度透過型電子顕微鏡像と(b)走査電子顕微鏡像。
右下はUV照射下薄膜の写真を示している。の画像
図1:Cs0.5FA0.5PbBr3薄膜の(a)高解像度透過型電子顕微鏡像と(b)走査電子顕微鏡像。
右下はUV照射下薄膜の写真を示している。

図2:Csx-1FAxPbBr3ナノ結晶LEDの(a)デバイス構造と(b)発光スペクトル。の画像
図2:Csx-1FAxPbBr3ナノ結晶LEDの(a)デバイス構造と(b)発光スペクトル。

図3:(a)自己修復ポリマー中にペロブスカイトナノ結晶を分散したサンプルの発光画像と
(b)バックライライト用LEDの発光スペクトルの画像
図3:(a)自己修復ポリマー中にペロブスカイトナノ結晶を分散したサンプルの発光画像と
(b)バックライライト用LEDの発光スペクトル

図4:(a)割れたガラス基板を自己修復ポリマーコートした模式図と(b)発光強度・半値幅-ポンプ光特性の画像
図4:(a)割れたガラス基板を自己修復ポリマーコートした模式図と(b)発光強度・半値幅-ポンプ光特性

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