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南極内陸の積雪は過去5000年間で長期的に減少し、 産業革命期から顕著に増加 〜南極ドームふじ地域の氷床コアから解明〜

掲載日:2023.02.22

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
国立大学法人富山大学
国立大学法人山形大学
国立研究開発法人海洋研究開発機構
国立大学法人東京大学 大気海洋研究所

 国立極地研究所の大藪幾美特任研究員を中心とする研究グループは、南極内陸のドームふじ基地とその周辺で掘削された多数の氷床コア(図1)を解析することで、過去5000年間の積雪の変動を高精度で推定しました。
 南極内陸は面積が非常に大きいため、積雪のわずかな増減でさえも氷床の質量変化へ大きく影響しますが、毎年の降雪が極めて少ないため、その変動を測定することは困難でした。本研究の結果、この地域の積雪は約5000年前から産業革命の起こった約150年前まで長期的に減少し、その後顕著に増加したことが明らかになりました。
 長期的な減少は長期の寒冷化と海氷拡大が、その後の増加は温室効果ガス濃度の上昇と成層圏のオゾン層破壊がもたらしたと考えられます。本成果は、南極氷床の質量と気候変動との関係の解明に重要であるほか、気候・氷床シミュレーションの検証にも活かされ、将来予測の研究に貢献すると期待されます。
 詳しくは、こちら(プレスリリース資料)をご覧ください。

図1:第59次南極地域観測隊によるNDF地点(図2(B)を参照)でのNDF2018コアの掘削の様子(上)と火山灰層が入ったNDF2018氷床コア(下)の写真。火山灰層の年代は紀元前1613年と推定される。の画像
図1:第59次南極地域観測隊によるNDF地点(図2(B)を参照)でのNDF2018コアの掘削の様子(上)と火山灰層が入ったNDF2018氷床コア(下)の写真。火山灰層の年代は紀元前1613年と推定される。

研究の背景

 南極氷床はこの20年間で縮小傾向にあり、将来にわたる海水準の上昇への影響が懸念されています。氷床質量の変化は、降雪による増加と縁辺部での氷山分離や融解による損失とのバランスで決まるため、南極全体で一様ではありません。西南極や南極半島では縮小が顕著ですが、昭和基地やドームふじが位置する東南極のドロンイング・モードランド地域(図2)では氷床が大きくなっており、その原因は降雪の増加であると考えられています。日本が南極での観測を始めてから約70年ですが、氷床は数百~数千年の時間スケールでも変化するため、変動のメカニズムを理解するためには、数千年以上にわたる南極氷床の振る舞いやその要因を明らかにする必要があります。
 本研究では、氷床を鉛直方向に掘削して得られる氷床コア(図1)から、過去の積雪を復元することとました。今回対象としたドームふじ地域を含む南極内陸の高原地域は、南極全体の面積の半分以上を占めるため、降雪のわずかな変化が氷床全体の質量変化に大きく影響します。そのため、この地域の積雪を高精度で復元することが重要です。ところが、数千年以上を対象とした従来の研究は南極沿岸に限られ、内陸での長期的な変動はほとんど分かっていませんでした。その大きな理由は、内陸の降雪は非常に少ないため(注1)少数の地点のデータでは地域全体の傾向が得られないことや、コアの深度と年代の関係が詳細に分からなかったことです。

図2:(A)南極氷床の全体図。(B、C)本研究で対象としたドームふじ地域の拡大図。の画像
図2:(A)南極氷床の全体図。(B、C)本研究で対象としたドームふじ地域の拡大図。

研究の内容

 本研究ではそれらの課題を解決するため、1993年から2019年にかけて南極地域観測隊が取得したドームふじ基地(標高3810m)とその周辺の15本の氷床コアと7地点の積雪試料を用い(図2)、高精度な分析と詳細な年代決定を行うことで、過去5000年間の積雪の変動を復元することに成功しました(図3)。
 その結果、ドームふじ地域では5000年前から産業革命期(西暦1850年頃)まで長期傾向としては積雪が減少したことが分かりました(図4)。その原因は、南半球の長期的な寒冷化と海氷拡大によって、降雪をもたらす大気中の水蒸気が減少したことであると考えられます。一方、産業革命期以降に積雪が急激に増加したことも明らかとなりました(図4)。この傾向は、西南極や南極半島でも報告されており、人間活動による温室効果ガスの増加と成層圏オゾンの減少が主な原因と考えられます。温室効果ガスの増加は、南大洋や南極上空の大気を温めて水蒸気量を増やす働きがあり、成層圏オゾンの減少は、極向きの風を強めて南極への水蒸気の輸送を増やすと考えられます。また、長期的な減少傾向に重なって数百年スケールの増減が見られました。これは、大規模な火山噴火や太陽活動の強弱との関連が考えられます。

図3:本研究で復元した各掘削地点の涵養量(注2)の画像
図3:本研究で復元した各掘削地点の涵養量(注2)

図4:過去5000年のドームふじ地域の平均涵養量の画像
図4:過去5000年のドームふじ地域の平均涵養量

今後の展望

 今後、今回確立した手法を用いて、より過去(数万年前)にさかのぼって積雪を復元したり、ドームふじから離れた地域へ拡張したりすることで、気候や氷床の大きな変化と積雪との関係性を調査できると考えられます。本研究の成果を含む南極氷床のデータの蓄積は、気候・氷床シミュレーションの検証にも活かされ、将来予測の研究にも貢献すると期待されます。

注1 : ドームふじの降水量は、サハラ砂漠の平均(76mm)の半分以下しかない。その理由は、海から遠く離れているうえ、低温により飽和水蒸気量が小さいため、大気中の水蒸気量が極端に少ないことある。

注2  涵養量: 単位面積当たりの年間の正味の積雪深(降雪と昇華、風による移動の結果)を水の深さに換算した量。

発表論文

掲載誌: Climate of the Past

タイトル: Temporal variations of surface mass balance over the last 5000 years around Dome Fuji, Dronning Maud Land, East Antarctica

著者:
大藪幾美(国立極地研究所 気水圏研究グループ 特任研究員)
川村賢二(国立極地研究所 気水圏研究グループ 准教授)
藤田秀二(国立極地研究所 気水圏研究グループ 教授)
井上崚(総合研究大学院大学 博士課程学生)
本山秀明(国立極地研究所 極地工学研究グループ 教授)
福井幸太郎(富山県立山カルデラ砂防博物館 学芸課長補佐)
平林幹啓(国立極地研究所 気水圏研究グループ 特任助手)
保科優(元 名古屋大学大学院 環境学研究科)
栗田直幸(名古屋大学 宇宙地球環境研究所 准教授)
中澤文男(国立極地研究所 気水圏研究グループ 助教)
大野浩(北見工業大学 工学部 准教授)
杉浦幸之助(富山大学 学術研究部都市デザイン学系 教授)
鈴木利孝(山形大学 学術研究院 教授)
津滝俊(国立極地研究所 南極観測センター/気水圏研究グループ 助教)
阿部彩子(東京大学大気海洋研究所 教授)
庭野匡思(気象庁 気象研究所 気象予報研究部 主任研究官)
Parrenin Frédéric(Institut des Géosciences de l'Environnement, Université Grenoble Alpes, Senior Scientist)
齋藤冬樹(海洋研究開発機構 環境変動予測センター研究員)
吉森正和(東京大学大気海洋研究所 准教授)

DOI: 10.5194/cp-2022-68

URL: https://cp.copernicus.org/articles/19/293/2023/

論文公開日: 2023年2月2日

研究サポート

 本研究はJSPS科研費(JP20H04327、JP17H06320、JP20H00639、JP18H05294、JP21221002、JP18H04139、JP25871050、JP18K18176、JP20H04978、JP17K05664)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR216X)、および国立極地研究所(KP305、先進プロジェクト)の助成を受けて実施されました。現地観測・試料採取は南極地域観測事業の一部として行われました。

 

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