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東北地方で現在の様な樹氷(アイスモンスター)ができるようになったのは 1000年前頃からであることが分かりました

掲載日:2023.03.09

本件のポイント

  • 東北地方で樹氷(アイスモンスター)が作られるための条件である対馬暖流・寒冷化・常緑の針葉樹・樹氷(アイスモンスター)の元になっているオオシラビソ(アオモリトドマツ)がいつ揃ったのか文献調査しました。
  • オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布域が拡大したのは1000年前頃からと考えられます。
  • 東北地方で現在のような樹氷(アイスモンスター)ができる ようになったのは1000年前頃からであることがわかりました。

西吾妻の樹氷
2023年2月23日 松木兼一郎氏撮影
の画像
西吾妻の樹氷
2023年2月23日 松木兼一郎氏撮影

概要

 現在、樹氷(アイスモンスター)は八甲田・八幡平・森吉・蔵王・吾妻山のみでできています。樹氷(アイスモンスター)が作られるための条件である対馬暖流・寒冷化・常緑の針葉樹・樹氷(アイスモンスター)の元となっているオオシラビソ(アオモリトドマツ)が揃ったのはいつなのか文献調査しました。対馬暖流が流れ始めたのは10000年前頃から、寒冷化が生じたのは4500年前頃から、針葉樹の分布域が拡大したのは2000−3000年前頃から、オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布域が拡大したのは1000年前頃からです。以上から、東北地方で現在のような樹氷(アイスモンスター)ができるようになったのは1000年前頃からであることがわかりました。
 詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

はじめに

 シベリアから吹いてくる寒冷で乾燥した冬の北西季節風は対馬暖流から水を供給されます。湿潤化した北西季節風は前山(山形の場合は月山―朝日連峰)に衝突して急上昇して断熱膨張することで雪雲を作ります。雪雲の最上部には過冷却水滴帯ができます。過冷却水滴は強風によって吹き飛ばされ、後山(山形の場合は蔵王)にある常緑の針葉樹であるオオシラビソ(オモリトドマツ)に衝突して氷の「エビノシッポ」となります。「エビノシッポ」のできているところは雪雲(吹雪)の中です。吹雪の雪が「エビノシッポ」に衝突して一体化(焼結)することが繰り返されることで大きな氷の塊である樹氷(アイスモンスター)ができます。
 現在、樹氷(アイスモンスター)は八甲田・八幡平・森吉・蔵王・吾妻山のみに存在しています。しかし、樹氷(アイスモンスター)が作られるための条件(対馬暖流・寒冷化・常緑の針葉樹・オオシラビソ(アオモリトドマツ))が揃って、現在のような樹氷(アイスモンスター)ができるようになった時期は不明でした。
 東北地方で樹氷(アイスモンスター)がいつからできるようになったのかを知るためには、以下の3つが起こった時期を知る必要があります。
   *氷河期が終わって対馬暖流が流れ始めた時期
   *温暖である縄文海進が終わり、寒冷化して亜高山帯の気象条件ができ始めた時期
   *亜高山帯に常緑の針葉樹林・オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布が拡大し始めた時期
 今回、文献調査を行って上記の3項目の時期を特定し、いつから東北地方で樹氷(アイスモンスター)ができるようになったのかを求めました。

文献調査の結果

 (1)氷河期が終わって対馬暖流が流れ始めた時期(*1、*2)
樹氷(アイスモンスター)の原料である水を供給するのは対馬暖流です。
氷河期のピークは19000年前頃で、海水面は今より120mは低かったとされています。このため、北海道と九州には大陸とつながる陸橋があり、日本海は湖のような状態でした。気温の上昇によって氷河の融解が本格的に始まったのは11000年前頃からで、8000年前頃に温暖のピークを迎えます。
以上から、対馬暖流が流れ始めたのは10000年前頃からと考えられます。

(2)温暖である縄文海進が終わり、寒冷化して亜高山帯の気象条件ができ始めた時期(*1、*2)
氷河の融解は8000年前頃にピークを迎えます。この頃の気温は現在より1−2度高く、海水面は今より2-3m高くなっていました(縄文海進)。現在より1−2度高い気温は樹氷(アイスモンスター)ができるためには高すぎる気象条件です。寒冷化に伴う海退が始まったのは4500年前頃(あるいは4200年前頃)からです。
以上から、温暖である縄文海進が終わって寒冷化が始まったのは4500年前頃からと考えられます。

(3)亜高山帯に常緑の針葉樹林・オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布が拡大し始めた時期(*3、*4、*5、*6:堆積物に含まれている花粉・火山灰・年代測定に関する文献)
寒冷化は4500年前頃から始まりました。東北地方で常緑の針葉樹が分布域を拡大し始めたのは2000−3000年前頃からです(図1)。4500年前頃からの寒冷化で東北地方の高山地帯は亜高山帯の気象条件になったと考えられます。しかし、樹木の移動は花粉等が風によって飛散することで生じます。花粉が気象条件の適地に達するまでに時間を要することから、針葉樹が拡大し始めたのは2000−3000年前頃からになったと考えられます。
一方、東北地方でオオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布域が拡大し始めたのは1000年前頃からです(図2)。オオシラビソ(アオモリトドマツ)は針葉樹の中でも多雪を好む樹種とされています。オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布拡大は気象条件の変化を示唆している可能性も考えられます。

まとめ

 東北地方で対馬暖流・寒冷化・常緑の針葉樹の条件が揃ったのは2000−3000年前頃からです。一方、対馬暖流・寒冷化・樹氷(アイスモンスター)のもととなっているオオシラビソ(アオモリトドマツ)の条件が揃ったのは1000年前頃からです。以上から、東北地方で現在のような樹氷(アイスモンスター)ができるようになったのは1000年前頃からと考えることができます。

参考文献

*1 遠藤邦彦ら(2022)縄文海進―海と陸の変遷と人々の適応―., 冨山房インターナショナル.
*2 川端穂高先生らによるご研究
   例えば:気候変動と「日本人」20万年(2022)川端穂高著, 岩波書店.
*3 守田益宗先生らによるご研究
   例えば:最終氷期以降における亜高山帯植生の変遷―気候温暖期に森林帯はより上昇したか?―.,
   守田益宗, 植生歴史研究(2000)9巻1号, p3-20.
*4 宮脇昭編(1989)日本植生誌 東北., 至文堂.
*5 安田喜憲・三好教夫編(1998)図説 日本列島植生史., 朝倉書店.
*6 池田重人先生ら(森林総合研究所)によるご研究
   例えば:(1997)温暖化による植生変化を予測するー東北地方の亜高山帯を例としてー.
      :(1999) 地球温暖化による生物圏の脆弱性の評価に関する研究.,
       (3)森林生態系の脆弱性評価に関する研究 
       ①寒温帯植生の積雪変動に対する感受性の評価と影響予測.

図1 針葉樹の分布が拡大し始めた時期(*3、*4、*5)の画像
図1 針葉樹の分布が拡大し始めた時期(*3、*4、*5)

図2 オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布が拡大し始めた時期(*3、*4、*5、*6)の画像
図2 オオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布が拡大し始めた時期(*3、*4、*5、*6)

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