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多彩で繊細な手触りを評価する触覚センシングシステムを実用化~化粧品・自動車・繊維・ バーチャルリアリティに応用展開~

掲載日:2023.04.06

本件のポイント

  • ヒトがモノに触れた時に感じる手触りを評価する触覚センシングシステムを開発。
  • 指を模した「触覚接触子」とモノに触れる時の動きを再現する「摩擦ユニット」が導入され、これまで難しかった多彩で繊細な手触りの解析が可能に。
  • 化粧品・自動車・繊維等、肌に触れる商品を開発する企業からのリクエストに応えるため、いよいよ実用化!

概要

 ヒトはモノに触れた時、さまざまな触感を感じとることができますが、これらの感覚を評価する技術は確立されていませんでした。この度、⼭形⼤学(学長:玉手英利)の野々村美宗教授と株式会社トリニティーラボ(代表取締役社長:野村修平)は、東京都立産業技術研究センター(理事長:黒部篤)の協力を受け、ヒトが指でモノに触れる時の自然で滑らかな動きを再現したバイオミメティック触覚センシングシステムを上市いたします。これまでの10 年間の取り組みにより、本システムを用いることで、「しっとり」「なめらか」「さらさら」「ぬるぬる」などの多彩で繊細な感覚を物理的に解析することが可能になりました。本装置は、化粧品・自動車・繊維・バーチャルリアリティをはじめとする様々な産業分野で利用されることが期待されており、第11 回化粧品産業技術展(CITE Japan 2023)、トライボロジー会議2023 に出展されます。

 詳しくは、こちら(リリースペーパー)をご覧ください。

内容

 ヒトはモノに触れた時、「さらさら」「べたべた」「しっとり」など、さまざまな触感を感じます。しかし、これらの多彩で繊細な質感をセンシングすることは難しく、そのことが塗り心地の良い化粧品、高級感を感じさせる自動車、現実世界とそっくりなバーチャルリアリティーを開発するための障害となっていました。そこで、野々村教授とトリニティーラボの研究グループは、2013 年に「バイオミメティック触覚センシングシステム」を開発しました(図1)。このシステムは、ヒトの指の構造・硬さ・表面物性を模倣した「指モデル接触子」を用いて、自然で滑らかな動きを真似た正弦運動下で摩擦して、ヒトがモノに触れた時に皮膚表面で起こる現象を再現することが可能であることが特徴で、世界的に見てもこのようなコンセプトの触覚評価装置は例がありません。その後10 年間、野々村教授の研究グループでは、さまざまなモノをこのシステムで評価し、22 報の学術論文として発表してきました。これらの研究成果によって、このシステムを用いることで、化粧品、繊維、樹脂材料など多くの分野で有用であることが確認されました。また、産業界の研究者・技術者のみなさまから、このシステムの実用化を望む声が上がったことから、東京都立産業技術研究センターと共同研究を行い、触覚評価測定機TL201Sf として上市することとなりました。

図1 触覚センシングシステムのコンセプト. ヒトがモノに触れた時の現象をそのまま再現.の画像
図1 触覚センシングシステムのコンセプト. ヒトがモノに触れた時の現象をそのまま再現.

補足説明

【触覚センシングシステムでなにができる?】
触覚センシングシステムを利用した事例を幾つかご紹介します。
・事例1 しっとり感・さらさら感ってなに?
「しっとり感」「さらさら感」は化粧品・繊維などの多くの分野で重要視される質感です。そこで、触覚センシングシステムを用いて化粧用粉体、人工皮革など12 の物質を評価しました。その結果、滑り出しでぐっと摩擦力が高まりながらも、その後一気に摩擦力が下がる特徴的な力学刺激が「湿り感」「なめらか感」を引き起こし、さらにはしっとり感として感じられることを明らかにしました。また、「さらさら感」に最も⼤きな影響を及ぼすのは摩擦抵抗の⼤きさであることや、「ぬくもり感」は単純な温かさに加えて、やわらかさが感じられた時に喚起されることが確認されています。
・事例2 化粧品のトリートメント効果を評価できる?
化粧品によって皮膚が潤ったり、トリートメントによって毛髪が滑らかになるケア効果を評価できることも確認されました。グリセリンなどによって潤って皮膚や毛髪が柔らかくなると摩擦係数は⼤きくなり、ワセリンや界面活性剤などの潤滑剤で被覆されると摩擦係数は小さくなり、プロファイルも滑らかになるのです(図2)。
・事例3 繊維・塗料・樹脂材料・・・ 色々な分野で利用可能!
今回の上市にあたり、東京都立産業技術研究センターにおいて摩擦学の立場から装置の特性を解析するとともに、繊維・塗料・樹脂材料の手触りの官能評価と摩擦パラメータの関係を解析し、なめらか感、すべり感、温冷感を解析するために本システムが有
用であることを確認しました。

図2 触覚センシングシステムを利用した化粧品のトリートメント効果の評価. 摩擦のパターンに皮膚の状態と手触りが現れる.の画像
図2 触覚センシングシステムを利用した化粧品のトリートメント効果の評価. 摩擦のパターンに皮膚の状態と手触りが現れる.

今後の展望

 今回、2013 年に開発したバイオミメティック触覚センシングシステムを上市しました。この装置が様々な分野で活用され、手触りの良い繊維や塗り心地の良い化粧品、高級感を感じされる自動車用材料、よりリアルなバーチャルリアリティシステムや触覚を感じるヒューマノイド型ロボットの開発につながるように、また、あやふやなまま進められがちな触覚センシングの標準的な評価法となるよう、さらなる改良を進めて参ります。

出展展示会名

・第11 回化粧品産業技術展 (CITE Japan 2023、5 月17 日(水)~19 日(金)、パシフィコ横浜)
・トライボロジー会議2023 (5 月29 日(月)~31 日(水)、国立オリンピック記念青少年総合センター)

助成

 本システムに関する研究の遂行にあたっては,JST 研究成果最適展開支援プログラム「FS ステージ 探索タイプ」および文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出」の助成を受けました。

用語

触覚: 動物の体表に物が触れたときに生ずる機械的接触を感受する感覚。メルケル盤,マイスネル小体,パチニ小体,ルフィニ終末,その他の受容器が知られる。 摩擦: 接触している物体の一方が動く際、もう一方の物体にそれを妨げようとする力が働く現象。バイオミメティック: 生体の機能をまねて、利用しようという技術。
バーチャルリアリティ: コンピュータの制御によって仮想空間を作り出し、人工的環境の中で視覚・聴覚・触覚などの疑似体験をさせること。また、その環境や技術。

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