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『ホガースの時代(版画で読むイギリス)』出版

掲載日:2023.04.06

本件のポイント

  • 本書は、十八世紀のイギリスを映し出すルポルタージュ風のリアルな「絵本」に書き加えられた「解説」です。絵本を描いたのは、当時、ヨーロッパ大陸でもっとも有名なイギリス人の画家だったウィリアム・ホガースという人でした。 彼は、油彩画の名人でもありましたが、何よりも「版画」の名手として知れ渡っていました。ホガースの版画は現代の漫画の元祖ともみなされるもので、「コマ割り」や「セリフ」を持っていました。そして、対象を突き刺すような「毒」を満載した版画を量産し、人々から「やんややんや」の喝采を浴びていました。
  • 対象に痛烈な「毒霧」をみまい、快刀乱麻を断つがごとくに相手をばったばったと斬り捨てるホガースの画風は、皮肉とユーモアが大好きなイギリス人を魅了し続け、彼が活躍した時代から、およそ三百年が経ちましたが、今なお、イギリス人に愛されています。それなのに、残念ながら、日本の読者諸賢は、ホガースという画家をあまりご存知とはいえません。こんなにおもしろい版画があるのに、また、時に抱腹絶倒の滑稽な漫画を提供してくれるのに、ホガースは日本ではあまりにも無名です。 本書はこの「悪魔」のような天才絵師ホガースの版画をたくさん紹介し、日本におけるホガースの認知度を高めることに貢献したいと思っています。
  • ホガースの版画は時にとても下品で、ポルノグラフィックで、エロティックです。一見すると、どこにエロスがあるの?と思ったりしますが、なんのなんの、卑猥なものは巧妙に隠されているのです。ホガースは矯めつ眇めつ鑑定される時、そしてまた、海よりも深い叡智をもって読まれる時、はじめてそのきわどいまでの卑猥さが浮き彫りになります。

概要

  本書は、ホガースという「風俗画」の巨匠の絵を通して見るイギリスの風景です。風俗画は聖書や神話などを題材とする「歴史画」とは一線を画すジャンルで、当時の人々の滑稽だったり、ごく他愛もない「人生の1コマ」を切り取ることによって、下世話な「世帯風俗」を活写するものです。
 ホガースの版画の分析を通して、当時のイギリスの赤裸々な風景が探求されます。そのイギリス的な風景を構成しているのは、拝金主義、金権政治、賄賂、汚職、監獄と公開絞首刑、蔓延する性病(梅毒)、ニセ医者といんちき薬の大流行、蟻地獄のようなギャンブル、見世物小屋と化していた狂人病院などです。

 詳しくは、こちら(リリースペーパー)をご覧ください。

背景と経緯

 漫画やアニメは今や日本のお家芸ともいうべき豊穣な分野です。しかし、多くの人は、漫画はどこから来たのか、その由来にさほどの注意を向けません。現在、漫画の起源は主として二つあるとされており、一人はスイスで軽みに満ちた戯画を手がけたテプフェールで、もう一人はアクの強い諷刺画で知られるイギリスのホガースです。本書は、後者のホガースに焦点をあて、漫画の原型とはいかなるものだったかについても考察しています。

ホガースの時代(版画で読むイギリス)

 本書は、ホガースの風俗画を通して見えてくる十八世紀のイギリスの「実像」を掘り下げる試みです。実像を形成する主体は様々あり、たとえば、当時の腐敗政治、刑務所における賄賂の横行、バブルの崩壊、投資という名のマネー・ゲーム、娼婦らに蔓延していた性病、いんちき薬売りの跳梁跋扈、賭博中毒、劇場化していた精神病院などです。人間は等しくみな「色(性欲)」と「欲(金銭欲)」と「エゴイズム」に支配されているという醜悪な現実を世界に向かってぶちまけたのが、イギリスが生んだ稀代の絵師ホガースでした。本書は、ホガースの多彩をきわめる図像を多角的な視点から見つめなおし、斬新な「読み」を提供しています。
 ※ A 5版、258ページ、本体価格 1,210円(税込) 2023年3月15日より発売。

今後に向けて

 漫画にかぎらず、図像全般に興味を持っている読者に向けて、知的昂奮を呼びさますようなホガースの版画をお見せし、図像を読み解くことの悦びを共有したいと思います。そして、ホガースの版画への人々の興味を高め、日本におけるホガース・ルネサンス(ホガースの再興)の礎となりたいと考えています。

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