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千葉貴之准教授が令和5年度文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞 ~次世代発光材料のペロブスカイトナノ結晶に関する独創的な研究が評価~

掲載日:2023.05.11

本件のポイント

千葉准教授の研究風景の画像
千葉准教授の研究風景

  • 千葉貴之准教授が令和5年度⽂部科学⼤⾂表彰 若⼿科学者賞を受賞した。
  • 塗布印刷プロセスによる有機・無機半導体層の多積層化技術を用いることで、長寿命化が可能なタンデム有機ELデバイスを世界で初めて開発した。
  • 次世代発光材料として期待されているペロブスカイトナノ結晶の表面および化学組成制御、高性能LED開発に関する独創的かつ先導的な研究成果が高く評価された。
  • これらの成果は、発光デバイス以外にも、太陽電池、X線検出器、近赤外光変換など、美容や農業、宇宙などの幅広い分野に展開できる。

概要

 この表彰は、「科学技術に関する研究開発、技術振興、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、我が国の科学技術水準の向上に寄与すること」を目的として文部科学省が定めているもので、千葉准教授は萌芽的、独創的かつ高度な研究開発能力を有する若手研究者を対象とする「若手科学者賞」受賞者として選ばれました。
 対象となった業績は「塗布プロセスを基軸とした有機無機発光デバイスに関する研究」。
 この研究により、塗布プロセスでは困難とされていた有機ELデバイスにおける多積層構造の形成手法を確立し、電極以外の9層全てを塗布成膜したタンデム有機ELデバイスを開発するとともにペロブスカイトナノ結晶(CsPbX3,X = Cl, Br, I)の化学組成置換により発光波長を精密に制御し、青・緑・赤色ペロブスカイトナノ結晶LEDの高性能化を実現しました。

 詳しくは、こちら(リリースペーパー)をご覧ください。

背景

 有機ELデバイスは高い輝度、面発光、多色化の特徴を有し、スマートフォンやテレビなどに使用されています。しかしながら、投入電流に比例して高い輝度が得られる一方、有機半導体材料の劣化に伴い短寿命化することが課題となっています。複数の発光ユニットを重ねて多段化したタンデム有機ELデバイスでは、低い電流密度でも高い輝度が得られることが可能になり、従来不可能とされていた高い輝度下での長寿命化が可能になります。このデバイスでは、9層以上の多積層構造をとるため、これまでは真空プロセスでのみは作製可能と考えられてきましたが、千葉准教授は塗布印刷プロセスによるタンデム有機ELデバイスの研究に積極的に取り組んできました。
 ペロブスカイトナノ結晶は、高色域な発光スペクトルを示すことから、有機EL材料に替わる次世代型LED材料として注目されています。しかし、イオン拡散により発光特性の低下するため、ナノ結晶の表面や内部の化学組成の制御が求められています。ペロブスカイトナノ結晶LEDの高性能化を目的として、ナノ結晶の合成・精製から、配位子やハロゲンアニオン置換、デバイス作製までを一気通貫で研究を推進しています。

研究手法・研究成果

 千葉貴之准教授は、塗布印刷プロセスで多積層構造を形成するため、無機微粒子や高分子材料、分子状の金属酸化物を用いることで、塗布印刷プロセスにおいても9層もの多積層構造の形成を可能にし、塗布型タンデム有機ELデバイスを世界に先駆けて開発しています。これらの成果は、Advanced Materials (Impact factor 31) をはじめとする材料科学分野の一流誌に多く掲載されています。
 さらに、100%に迫る発光量子収率と高い色純度を有するペロブスカイトナノ結晶 (CsPbX3,X=Cl,Br,I) の開発と発光ダイオード (LED) 応用に関する研究を推進しています。ペロブスカイトナノ結晶の表面を有機配位子で被覆することで、有機溶媒に分散するため、これまでの有機半導体と同じように塗布印刷プロセスによるLED作製が可能になります。千葉准教授は、ナノ結晶の配位子置換や化学組成制御に関する新規手法を開拓し、世界最高水準の高性能LEDの開発に成功しています。関連する研究成果は、トップジャーナルであるNature Photonics (Impact factor 39) に掲載され、被引用回数はわずか4年で800回を超えており、Top 1%論文に選出されています。また、研究代表として、JST A-STEP機能検証フェーズ (2018-2019年)、JSPS 科研費基盤C (2020-2022年)、JST 戦略的国際共同研究プログラム (2021-2024年)、NEDO 官民による若手研究者発掘支援事業マッチングサポートフェーズ (2020-2025年) など多数のプロジェクトに採択されています。また、台湾、中国、カナダ、チェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキアなどの主要な研究機関との国際共同研究を展開しており、国際共著論文4報がAdvanced Materialsをはじめとする材料科学分野の一流誌に掲載されています。
 これらの業績に対して、第15回山形県科学技術奨励賞、2018 MRS Fall Best Poster Award、 IDW 2019 Best Paper Award、 2020年高分子奨励賞を受賞しています。

Fig1.タンデム有機ELデバイス構造の画像
Fig1.タンデム有機ELデバイス構造

Fig.2 ペロブスカイトナノ結晶の化学組成とハロゲン置換の画像
Fig.2 ペロブスカイトナノ結晶の化学組成とハロゲン置換

今後の展望

 これまで培ってきた塗布プロセスによる多積層化技術やナノ結晶の表面制御技術は、発光デバイスの開発にとどまらず、太陽電池、レーザー、X線検出器、近赤外センサーなどへの応用展開が期待されています。

用語解説

本文中の難しい専門用語やプロジェクトの説明等はまとめて記載

1.タンデム有機EL構造
複数のELユニットと中間電極から構成される有機ELの素子構造です。各ELユニットからの発光を利用することで、有機材料への電気的な負荷を抑制し、耐久性が大幅に改善されます。

2.ペロブスカイトナノ結晶:ペロブスカイト構造 (CsPbX3, X=Cl, Br, I)を有する10 nm程度の発光性ナノ結晶材料です。結晶サイズやハロゲンアニオン(X)を変えることで発光波長の制御が可能です。

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