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次世代の高性能赤色ペロブスカイト量子ドットLEDの開発 ~量子ドットのサイズ制御とグアニジウム置換による赤色量子ドットの開発~

掲載日:2023.07.11

発表のポイント

● 量子ドットの精密なサイズ制御より、優れた構造安定性を有するCsPbI3量子ドットを合成した。
● 高い吸着性をもつグアニジウムを導入したところ、大気安定性と光安定性が大幅に向上したGAI-CsPbI3量子ドット膜が得られた。
● GAI-CsPbI3量子ドットLED素子において、優れた外部量子効率 22.5 % と輝度半減寿命 (LT50) 10.5 時間が達成された。

 詳しくは、こちら(プレスリリース資料)をご覧ください。

概要

 山形大学 理学部の江部日南子助教と同大学 有機材料システム研究科の千葉貴之准教授城戸淳二教授らは、ペロブスカイト量子ドットの精密なサイズ制御とグアニジウム置換により、CsPbI3 QDsの構造安定化を実現し、高効率かつ長寿命な赤色量子ドットLEDの開発に成功した。
 柔らかい結晶格子を有するハロゲン化鉛ペロブスカイト注1量子ドット注2は、その構造を維持するには極端に小さいまたは大きなイオンサイズをもつ元素から構成される。そのため格子歪みや構造相転移注3が生じ、発光性能の低下が課題となっている。本研究では、CsPbI3量子ドットのサイズを精密に制御することで、結晶構造の安定性が大幅に向上することを明らかにした。また、高い吸着性を有するグアニジウムを量子ドット表面に導入することにより、大気下および光照射下におけるPLQYの安定化に成功した。さらに、これらのGAI-CsPbI3量子ドットを発光層に用いた、赤色ペロブスカイト量子ドットLED注4において、高効率・長寿命化に成功した。
 本成果は、Elsevier社が発行するChemical Engineering Journal (Impact factor : 15.1) に掲載された。

研究の背景

 量子ドットは、数nmから数十nmの半導体ナノ結晶であり、結晶内に電荷 (電子や正孔) を三次元的に閉じ込めることで、離散的なエネルギー構造を形成する (量子閉じ込め効果)。また、量子閉じ込め領域 (量子ドットサイズ)の調整により、エネルギーギャップとそれに伴う発光波長を選択することができる。また近年、ペロブスカイト量子ドットが高輝度材料として注目されている。ABX3のペロブスカイト構造 (A:一価のカチオン、B:二価のカチオン、X:ハロゲンアニオン) を有する半導体材料であり、高輝度かつ高色純度な発光材料として次世代ディスプレイ材料への応用が期待されている。また、Xサイトのハロゲン組成 (塩素や臭素、ヨウ素アニオン) の調整により、紫外・可視・近赤外光領域まで幅広い発光波長域を自在に調整することができる。一方で、イオン性のペロブスカイト量子ドットは、構成元素のイオンサイズに応じて格子歪みが生じることが知られている。また、湿気や光、熱、電界などの外部刺激により、イオン拡散によりデバイス性能が低下することが課題となっている。

発表の内容

 赤色発光のCsPbI3量子ドットは、優れた発光量子収率と電荷輸送特性を示す一方で、イオンサイズの小さなCsカチオンにより、結晶格子の歪みや非光活性相への構造相転移が課題となっている。また、バルク結晶 (数百 nmから数 μmの結晶) に比べ極めて高い表面積をもつ量子ドットは、イオン脱離やイオン拡散により発光性能が低下することが知られている。本研究では、結晶格子歪みの緩和および量子ドット表面の安定化に着目し、相安定性を有するCsPbI3量子ドットを合成し、高性能赤色量子ドットLEDを開発した。
 本研究では、平均粒径6-12 nmのCsPbI3量子ドットを合成し (図1a)、結晶構造および光学評価を実施した。小粒径化されたCsPbI3量子ドット (平均粒径 8 nm) において、光活性相の立方晶構造を形成し、斜方晶への相転移が抑制されたことを確認した (図1b)。これは、小粒径化により増大した表面エネルギーが格子歪みを緩和したことに起因する。また、遷移エネルギーと平均粒径の依存性を検証したところ、平均粒径10 nm以下において、量子閉じ込め効果が発現していることを確認した。小粒径化されたCsPbI3量子ドット (平均粒径 8 nm) は、大粒径CsPbI3量子ドット (平均粒径 12 nm、発光量子収率5%) に比べ、相安定化と量子閉じ込め効果により、比較的高い発光量子収率 (36%) を示した。
 さらに本研究では、量子ドット表面への高い吸着性を有するグアニジウムの導入により、大幅な材料安定性の向上に成功した。量子ドット表面へのグアニジウムの吸着エネルギーを第一原理計算により算出したところ、一般的な配位子のオレイルアンモニウムに比べ、高い吸着エネルギーを示した (図2a)。3つの窒素を有するグアニジウムは、量子ドット表面のハロゲンイオンと複数の水素結合を形成することから高い吸着性をし、大気下および光照射下におけるPLQYの安定化を達成した (図2b-d)。さらに、高い材料安定性を示したGAI-CsPbI3量子ドットを発光層に用いたLEDにおいて、外部量子効率22.5 %および輝度半減寿命10.5 時間 (初期輝度 128 時間) を示し、ペロブスカイト量子ドットLEDの高効率かつ長寿命を達成した (図3a-b)。
  以上より、我々は、精密なサイズ制御およびグアニジウム置換処理により優れた相安定性を有するCsPbI3量子ドットを合成し、高効率かつ長寿命な赤色量子ドットLEDの開発に成功した。これらの高発光かつ高安定な赤色ペロブスカイト量子ドットは、高精細ディスプレイやレーザー、光センシングなど次世代のオプトエレクトロニクス技術への応用が期待されている。
  本研究の成果は、科研費(23K13804、22K20525)および戦略的国際共同研究プログラム (SICOP) V4等の支援により実施された。

参考図

図1. 異なる温度で合成したCsPbI3 QDsのa-c透過型電子顕微鏡画像 (合成温度は、a 210 ℃、b190 ℃、c140 ℃)およびd X線回折スペクトル。e CsPbI3量子ドットの平均粒径と遷移エネルギーの依存性。の画像
図1. 異なる温度で合成したCsPbI3 QDsのa-c透過型電子顕微鏡画像 (合成温度は、a 210 ℃、b190 ℃、c140 ℃)およびd X線回折スペクトル。e CsPbI3量子ドットの平均粒径と遷移エネルギーの依存性。

図2. a QD表面におけるオレイルアンモニウム (OAm+) およびグアニジウム (GA+) の電荷密度と吸着エネルギー。未処理またはグアニジウム置換処理後のCsPbI3 QD薄膜のb大気安定性試験 (湿度~30 %) およびc-d光安定性試験 (レーザー強度 : 10 μW cm-2、115 μW cm-2、1.0 mW cm-2)。の画像
図2. a QD表面におけるオレイルアンモニウム (OAm+) およびグアニジウム (GA+) の電荷密度と吸着エネルギー。未処理またはグアニジウム置換処理後のCsPbI3 QD薄膜のb大気安定性試験 (湿度~30 %) およびc-d光安定性試験 (レーザー強度 : 10 μW cm-2、115 μW cm-2、1.0 mW cm-2)。

図3. CsPbI3 QD-LEDのデバイス特性:a電流密度-外部量子効率特性、b 定電流密度測定 (5.0 mA cm-2) によるデバイス耐久寿命測定の画像
図3. CsPbI3 QD-LEDのデバイス特性:a電流密度-外部量子効率特性、b 定電流密度測定 (5.0 mA cm-2) によるデバイス耐久寿命測定

発表雑誌

雑誌名: Chemical Engineering Journal
論文タイトル: Guanidium Iodide Treatment of Size-controlled CsPbI3 Quantum Dots for Stable Crystal Phase and Highly Efficient Red LEDs
著者:Hinako Ebe*, Rikuo Suzuki, Shunsuke Sumikoshi, Mizuho Uwano, Reine Moriyama, Daisuke Yokota, Mahiro Otaki, Kazushi Enomoto, Takao Oto, Takayuki Chiba*, and Junji Kido*
DOI:https://doi.org/10.1016/j.cej.2023.144578

用語解説

注1 ハロゲン化鉛ペロブスカイト:
化学式APbX3で表されるペロブスカイト結晶である。一価のカチオン (Aサイト)、二価の鉛カチオン (Pb2+)、ハロゲンアニオン (Xサイト) で構成される。優れた光電特性を有する半導体材料であり、太陽電池やLEDなど幅広い光電デバイスへの応用が期待されている。
注2 量子ドット:
10 nm以下程度の半導体ナノ結晶中に電子と正孔 (正電荷) が三次元的に閉じ込められ、離散的なエネルギー状態をとった材料。
注3 構造相転移:
ある結晶構造から別の結晶構造に転移 (変化) すること。
注4 ペロブスカイト量子ドットLED:
ペロブスカイト量子ドット膜を発光層にもつLEDに電流を流し、発光させる自発光型光学デバイス。

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