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巻機山(まきはたやま:新潟県)で87年ぶりに 樹氷(アイスモンスター)が確認されました

掲載日:2023.10.05

本件のポイント

巻機山の樹氷(アイスモンスター)(2023年1月7日)
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巻機山の樹氷(アイスモンスター)(2023年1月7日)

  • 2023年1月7日、巻機山(新潟県)において87年ぶりに樹氷(アイスモンスター)が確認された。
  • 樹氷(アイスモンスター)ができるためには過冷却水滴と雪が必要である。雪は巻機山を覆っている吹雪から、過冷却水滴は巻機山の西側にある妙高高原から供給されたと推定される。
  • 2023年1月上旬には、白山(石川県)においても樹氷(アイスモンスター)が報告されていることから、新潟から北陸にいたる地域で樹氷(アイスモンスター)ができやすい気象条件が整ったと推定される。

概要

 巻機山(新潟県)において、2023年1月7日、樹氷(アイスモンスター)が確認されました。巻機山における樹氷の確認は1936年に田邉(濱田)和雄が報告して以来87年ぶりのことです。巻機山で樹氷ができるためには過冷却水滴と雪が必要です。雪は冬季に巻機山を覆っている吹雪から、過冷却水滴は巻機山の西側にある妙高高原(妙高山〜飯綱山〜黒姫山)から供給されたと推定されます。同時期、白山(石川県)においても樹氷(アイスモンスター)が報告されたことから、2023年1月上旬には新潟から北陸にいたる地域で樹氷(アイスモンスター)ができやすい気象条件が整ったと推定されます。

 詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

これまでの経緯

 過冷却水滴と雪がオオシラビソ(アオモリトドマツ)上で一体化して氷の塊となったものを樹氷(アイスモンスター)といいます。次に、樹氷のでき方を、蔵王を例にしてご説明いたします。シベリアから吹いてくる冬の季節風が朝日連峰(蔵王の西〜西北西〜北西に位置している)にぶつかって雪雲となり、その雪雲の中で過冷却水滴が作られます。過冷却水滴は強風で吹雪の蔵王まで運ばれ、蔵王のオオシラビソにぶつかって瞬時に凍り、氷の塊であるエビノシッポとなります。吹雪の中の雪がエビノシッポ衝突し、エビノシッポと一体化することを繰り返すことで氷の大きな塊である樹氷(アイスモンスター)ができあがります。
 2023年2月に「樹氷(アイスモンスター)は北海道から石川県まで分布していたことが分かりました」を発表いたしました。1960年代以降、温暖化に伴って、津軽海峡より北側の北海道や、巻機山・安達太良より南西側では毎冬に樹氷(アイスモンスター)ができることはなくなりました(図1)。しかし、北海道や長野県では気温の低下によって、両白山地では気温の低下と少雪によって樹氷(アイスモンスター)ができる可能性が考えられました。また、1936年、田邉(濱田)和雄によって巻機山で樹氷(アイスモンスター)が確認されていたこともご紹介いたしました。田邉(濱田)和雄(高山植物学者・登山家)は1931年に高山植物の生態を研究する過程で樹氷(アイスモンスター)が過冷却水滴と雪の「複合体」であることを見つけています(冬の杉ヶ峰 日本地理大系 改造社 1930年)。

●田邉(濱田)和雄:霧氷の話(1936年) 「山(3巻3号)」 注:「樹氷」を「霧氷」と記述している
 偖て今までは主に蔵王山に就て述べてきましたが、他の山では吾妻連山殊に家形山と西大巓(にしだいてん)との間も霧氷の怪物が出来ている所です。然し批處のは蔵王山のと比較すると幾分見劣りがします。巻機山直下の地図に針葉樹林の記号の入れてある少区域では、範囲は極く狭いが却て形の良い怪物を見ました。
注:田邉(濱田)和雄は「樹氷」を「霧氷」と記述している。

図1 樹氷(アイスモンスター)の分布図 黒丸は毎冬に樹氷(アイスモンスター)のが見られる地域、白丸はかつては毎冬に樹氷(アイスモンスター)が見られたが1960年代以降は毎冬に見られることはなくなってしまった地域の画像
図1 樹氷(アイスモンスター)の分布図 黒丸は毎冬に樹氷(アイスモンスター)のが見られる地域、白丸はかつては毎冬に樹氷(アイスモンスター)が見られたが1960年代以降は毎冬に見られることはなくなってしまった地域

 2023年9月、新潟県在住の漆崎隆之氏より2012年から2023年までに巻機山山頂付近で撮影された写真が送られてきました。それらの写真を拝見したところ、2023年1月7日については樹氷(アイスモンスター)、2022年1月16日については樹氷(アイスモンスター)に極めて近いものができていると判定されました。一方、2012年・2014年・2015年・2016年・2019年・2021年につきましては樹氷(アイスモンスター)ができ始める状態になっていると判断されました。

巻機山の樹氷(アイスモンスター)について

 地形とオオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布

 巻機山の地形とオオシラビソ(アオモリトドマツ)の分布について、環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の地形図(国土地理院)、および、環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の植生図 植生調査(1/2.5)の第6−7回(1999〜2012/2013)を用いてご説明いたします。
 巻機山(北)から南に向かう南北の峰と、その南北の峰から西側に伸びる2本の峰(図2)に沿ってオオシラビソ(深緑)が分布しています(図3)。また、写真1にありますように、オオシラビソ(アオモリトドマツ)は、巻機山山頂のある北(写真の上部左側)から南(写真の上部右側)に伸びている峰沿い、および、その南北の峰から西側に(写真の上部から下部へ)に伸びている2本の尾根にそって群生しています。

図2 環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の地形図(国土地理院)
http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.htmlの画像
図2 環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の地形図(国土地理院)
http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.html

図3 環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の植生図 植生調査(1/2.5)の第6−7回(1999〜2012/2013)
http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.htmlの画像
図3 環境省自然環境局 生物多様性センター 自然環境調査Web-GIS所載の植生図 植生調査(1/2.5)の第6−7回(1999〜2012/2013)
http://gis.biodic.go.jp/webgis/index.html

写真1 巻機山山頂(写真の左側)から南(写真の右側)に伸びている峰沿い、および、その峰から西側に(写真の下側)に伸びている2本の尾根にそってオオシラビソ(アオモリトドマツ)が群生している。(2023年8月6日 漆崎隆之氏撮影)の画像
写真1 巻機山山頂(写真の左側)から南(写真の右側)に伸びている峰沿い、および、その峰から西側に(写真の下側)に伸びている2本の尾根にそってオオシラビソ(アオモリトドマツ)が群生している。(2023年8月6日 漆崎隆之氏撮影)

 巻機山の樹氷(アイスモンスター)について

 2023年1月7日に漆崎隆之氏が撮影された写真(写真2)によりますと、樹氷(アイスモンスター)は、巻機山山頂(写真2の下側)から南(写真2の上側)に南北に伸びている峰に沿って分布しています。樹氷(アイスモンスター)に着いているエビノシッポは西側(写真2の右側)に伸びていることから、過冷却水滴は西側から供給されたことが分かります。一方、巻機山山頂から南北に伸びている峰から西側に伸びている尾根(写真3の上部から下部に向かう)に沿っては、樹氷(アイスモンスター)ができ始めた状態にあります。また、巻機山山頂から南北に伸びている峰の西側の峰(避難小屋がある)ではごく小ぶりの樹氷(アイスモンスター)が認められました(写真4)。
巻機山山頂から北西側には積雪深が深い所があり、一方、巻機山山頂から南北に伸びている峰および南北の峰から西側に伸びている2本の峰付近では積雪深が浅くなっていました。このことから、巻機山山頂から南北に伸びている峰および南北の峰から西側に伸びている2本の峰付近のオオシラビソ(アオモリトドマツ)は冬の季節風による大雪の場合にも、雪に埋もれることはないことが分かります。
 また、樹氷(アイスモンスター)に着いているエビノシッポは西側に伸びていることから、巻機山で樹氷(アイスモンスター)ができるためには西〜西北西〜北西から過冷却水滴が供給される必要があります。巻機山の西側60−80kmに妙高高原(妙高山〜飯綱山〜黒姫山)があることから、そちらで作られた過冷却水滴が巻機山まで供給された可能性が高いと考えられます。冬季、巻機山は常に吹雪の中にあります。供給された過冷却水滴と巻機山を覆っている吹雪の中の雪が巻機山の南北の峰のオオシラビソ(アオモリトドマツ)上で合体して樹氷(アイスモンスター)となったと推定されます。以上のことから、巻機山で樹氷(アイスモンスター)ができるためには、厳冬であることはもちろんですが、巻機山付近の積雪が少ないこと、西風が卓越していることが必要となります。
なお、最近では温暖化で衰退傾向ですが、上信越高原国立公園にあります志賀高原の横手山や菅平の根子岳(猫岳)の樹氷(アイスモンスター)は良く知られています。巻機山は上信越高原国立公園の北西に隣接しており、一連のものと考えることができます。巻機山・志賀高原・菅平に妙高高原(妙高山〜飯綱山〜黒姫山)から過冷却水滴が供給されていると考えると、この地域全体の樹氷(アイスモンスター)の形成のメカニズムが説明できます。
巻機山で樹氷(アイスモンスター)が確認されたのは87年ぶりのことになります。このことは、巻機山で樹氷(アイスモンスター)ができる気象条件は毎冬成立するものではないことを示しています。2023年1月上旬についてはこれらの条件が揃ったので樹氷(アイスモンスター)ができましたが、2022年1月上旬については厳冬ではありましたが積雪が多く西風は多くなかったことから樹氷(アイスモンスター)に近い状態にまでにしか成長できなかったと考えられます。いずれにしても、巻機山にできている樹氷(アイスモンスター)は蔵王や八甲田などと比較するとかなり細身です。これは、巻機山における樹氷(アイスモンスター)の成長期間が短いためと推定されます。
 一方、2023年1月上旬には白山においても樹氷(アイスモンスター)が報告されています。2023年1月上旬は新潟から北陸かけての地域で樹氷(アイスモンスター)ができる気象条件が整ったのではないかと推定されます。
なお、白山における樹氷(アイスモンスター)がはじめて確認されたのは2018年のことであり、2023年の確認は2度目のことです。一方、2023年に巻機山で樹氷(アイスモンスター)は確認されたのは87年ぶりのことです。温暖化に伴って全国的に樹氷(アイスモンスター)の衰退がいわれています。その一方で、温暖化によって、これまではに樹氷(アイスモンスター)が報告されたことのない地域で、新たにできる可能性がでてきていると考えることができます

 本件は、2023年10月27日(金曜日)やまぎんホールで開催される(公社)大気環境学会 北海道・東北支部会の樹氷特集(13時半から15時まで)で発表する予定です。

写真2 巻機山山頂(写真の下側)から南(写真の上側)に南北に伸びている峰に沿って樹氷(アイスモンスター)となっている。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)の画像
写真2 巻機山山頂(写真の下側)から南(写真の上側)に南北に伸びている峰に沿って樹氷(アイスモンスター)となっている。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)

写真3 巻機山山頂から南北に伸びている峰(写真の上部)から西側に伸びている尾根(写真の上部から下部に向かう)に沿っては樹氷(アイスモンスター)ができ始めた状態にあります。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)の画像
写真3 巻機山山頂から南北に伸びている峰(写真の上部)から西側に伸びている尾根(写真の上部から下部に向かう)に沿っては樹氷(アイスモンスター)ができ始めた状態にあります。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)

写真4  巻機山山頂から南北に伸びている峰の西側にある峰(避難小屋がある)では小ぶりの樹氷(アイスモンスター)が認められました。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)の画像
写真4  巻機山山頂から南北に伸びている峰の西側にある峰(避難小屋がある)では小ぶりの樹氷(アイスモンスター)が認められました。(2023年1月7日 漆崎隆之氏撮影)

写真5 巻機山山頂(写真の下側)から南(写真の上側)に南北に伸びている峰に沿って樹氷(アイスモンスター)に近い状態になっています。2023年と比較すると積雪が多く、樹氷(アイスモンスター)に近い物については、背が低く(2023年の半分程度)、細身(2023年の2/3程度)です。(2022年1月16日 漆崎隆之氏撮影)の画像
写真5 巻機山山頂(写真の下側)から南(写真の上側)に南北に伸びている峰に沿って樹氷(アイスモンスター)に近い状態になっています。2023年と比較すると積雪が多く、樹氷(アイスモンスター)に近い物については、背が低く(2023年の半分程度)、細身(2023年の2/3程度)です。(2022年1月16日 漆崎隆之氏撮影)

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