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豪雪が野生動物の越冬行動に何をもたらすか? ~気候変動に由来する極端気象がもたらす新たな脅威~

掲載日:2024.03.07

本件のポイント

● 昨今の気候変動は温暖化を招く一方で、極端気象(豪雨・猛暑・豪雪など)の頻度や規模も増大させ、生物多様性保全における新たな脅威として懸念されている
●世界有数の多雪地である十和田・朝日・飯豊山系を、山スキーで1,144 km踏査した結果を用いて、極端な豪雪が哺乳類各種の越冬時の行動に及ぼす影響を評価した
「体の大きさ」や「食性(冬季の主食)」が、極端な豪雪に対する耐性を決定する要因になる可能性が明らかにされた

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概要

  昨今の気候変動は、平均気温の上昇につながる温暖化をもたらしている一方で、異常な豪雪を招く大寒波をはじめとした極端気象の頻度/規模の増加にもつながっている。本研究では、そうした豪雪が7種の在来哺乳類(イノシシ、サル、キツネ、テン、ノウサギ、タヌキ、カモシカ)の行動にもたらす影響を生態ニッチ解析(森林内の野生動物の行動様式を推定する手法)により評価した。なお、この解析は、東北各地の山々(十和田・朝日・飯豊山系)を、学生とともに1,144 kmという広範囲を山スキーにより踏査したことにより得られた豊富なデータをもとに行われた。その結果、①体が小さい哺乳類(テン、ノウサギ、サル)は通常とは異なる豪雪に見舞われても利用する生息環境を大きく変化させられないこと、②植食性の哺乳類(樹皮や冬芽を主食とするカモシカ、ノウサギ、サル)は、豪雪が降ると、冬季の主食となる食物のほとんどが雪に埋まるため、利用できる生息環境が著しく制約を受けること、が明らかになった。このことから、「体の大きさ」や「食性(冬季の主食)」が、極端豪雪に対する耐性を決定する要因になる可能性が示唆された。
 なお本成果はドイツ動物学会が発行する国際誌Frontiers in Zoology(2024年2月発刊)に掲載された。

背景

 昨今の気候変動に伴う暖冬化は、私達の生活・生業に被害をもたらすシカやイノシシ等の増加要因と指摘されて久しい。しかし、気候変動は温暖化だけでなく、極端気象の頻度や規模を増大させ、野生動物の生存に影響する新たな脅威になりうる可能性が指摘されはじめた。その典型として、極渦(北極/南極の上空にできる大規模な気流の渦)の変化に伴う、日本を含む温帯域における大寒波(異常豪雪)があげられる。

研究手法・研究成果

 極端な豪雪が在来哺乳類7種(イノシシ、サル、キツネ、テン、ノウサギ、タヌキ、カモシカ)の越冬時の行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、世界有数の多雪地である十和田・朝日・飯豊山系を山スキーで踏査し、対象種の雪上の足跡を記録することで生息地利用を評価した。当該調査は、豪雪年を含む2015年から2020年にかけて実施され、総踏査距離は1,144kmに達した。解析には、生態ニッチ解析(森林内の野生動物の行動様式を推定する手法)を使用した。主な結果として、①体型的に積雪上の移動に最も不利なイノシシは、日当たりのよい低標高域に集まる傾向があり、極端な豪雪に見舞われるとスギ人工林に逃げ込み越冬を試みる傾向があること、②体が小さい哺乳類(テン、ノウサギ、サル)は極端な豪雪が降っても利用する生息環境を大きく変化させられないこと(図1のニッチシフトを参照)、③植食性の種(樹皮や冬芽を食べるカモシカ、ノウサギ、サル)は、極端な豪雪が降ると、冬季の主食となる食物の多くが雪に埋まるため、利用できる生息環境が著しく制約を受けること(図1のニッチ幅の変化を参照)、が明らかになった。このことから、「体の大きさ」や「食性(冬季の主食)」が、極端豪雪に対する哺乳類各種の耐性を決定する要因になる可能性が示唆された。

図1.極端豪雪に伴う越冬行動の変化:(a)サル、(b)テン、(c)ノウサギ、(d)イノシシ、(e)タヌキ、(f)カモシカ.
(1) ニッチ幅の変化量:	値増加⇒ 積雪量が増加すると、生息環境の幅(ニッチ幅)を拡大させる種
			値減少⇒ 積雪量が増加すると、生息環境の幅(ニッチ幅)を縮小させる種
(2) ニッチシフト:	値増加⇒ 積雪量が増加すると、通常とは異なる生息環境を利用して越冬を試みる種
				値減少⇒ 積雪量が増加しても、従来の生息環境に留まって越冬を試みる種
※キツネはデータ不足のため、当該解析は実施せず
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図1.極端豪雪に伴う越冬行動の変化:(a)サル、(b)テン、(c)ノウサギ、(d)イノシシ、(e)タヌキ、(f)カモシカ.
(1) ニッチ幅の変化量: 値増加⇒ 積雪量が増加すると、生息環境の幅(ニッチ幅)を拡大させる種
値減少⇒ 積雪量が増加すると、生息環境の幅(ニッチ幅)を縮小させる種
(2) ニッチシフト: 値増加⇒ 積雪量が増加すると、通常とは異なる生息環境を利用して越冬を試みる種
値減少⇒ 積雪量が増加しても、従来の生息環境に留まって越冬を試みる種
※キツネはデータ不足のため、当該解析は実施せず

掲載論文:
Enari H, Enari HS, Sekiguchi T, Tanaka M, Suzuki S. 2024. Differences in spatial niche of terrestrial mammals when facing extreme snowfall: the case in east Asian forests. Frontiers in Zoology 21巻/論文#3.  doi:10.1186/s12983-024-00522-6
※著者の所属は全て山形大学

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