ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2024年06月 > 学長定例記者会見を開催しました(6/6) > 土木学会東北支部技術開発賞と研究奨励賞を受賞
掲載日:2024.06.06
令和5年度土木学会東北支部技術研究発表会において、本学の農学部の学生が発表した「下水モニタリングを用いたコロナ禍における市中感染型薬剤耐性菌の発生動向」(山形大学農学部 遠藤敬大,渡部徹,西山正晃)が技術開発賞に、「下水道資源を利用した農地土壌における大腸菌の汚染実態とその薬剤耐性」(山形大学大学院農学専攻 齋藤静香)が研究奨励賞に選出されました。これらの研究は、クスリの効かない細菌(=薬剤耐性菌)を対象とした研究トピックになります。技術開発賞は,下水疫学調査による耐性菌の感染症流行の把握に向けた新しい研究技術である点が,研究奨励賞は,下水道資源利用の安全性を評価する上で有益な情報を提供した点が受賞理由になります。いずれの研究成果の新規性と独創性が評価され、土木学会東北支部研究発表会で受賞した技術開発賞3件と研究奨励賞7件のうち、それぞれ1つに選ばれました(全発表件数234件)。
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薬剤耐性菌(Antimicrobial Resistance Bacteria : ARB)とは、抗菌薬に耐性を獲得した細菌の総称のことで、ARBが原因となる細菌感染症による死者数は、対策を講じなかった場合、2050年には年間1,000万人を超えると試算されています。ARBの問題は、人類における喫緊の課題であり、WHOは、2024年に緊急に対策が必要な耐性菌リストを更新し、各国でARBの拡散を防ぐための対策が始まっています。
昨今の世界情勢による影響で、国内で肥料資源の代替として利用が推進されている下水道資源には、様々な有害物質の残留が懸念されることから、ヒトへの健康影響を含めた安全性評価を行うことが強く望まれています。我々の研究グループでは、国内外における、環境中のARBの実態解明に向けた研究を進めております。
技術開発賞「下水モニタリングを用いたコロナ禍における市中感染型薬剤耐性菌の発生動向」
下水中の耐性菌をモニタリングし、COVID-19の前後による薬剤耐性菌の発生動向を比較することで、行動制限によるARBのまん延実態への影響を評価しました。その結果、ESKAPE細菌の検出率は、COVID-19流行後に減少する傾向が得られました。また、海外型に分類されるARBの減少も確認されました。これは、対象集水域の抗菌薬使用量の減少や、手指消毒等のヒトの行動変化が、コロナ禍における耐性菌の発生動向に大きく関わっていることを明らかにしました。
研究奨励賞「下水道資源を利用した農地土壌における大腸菌の汚染実態とその薬剤耐性」
ふん便指標細菌である大腸菌の検出と、その特徴付けを行うことで、下水道資源による農地への微生物汚染の影響を明らかにしました。コンポスト化した汚泥肥料と消化汚泥脱離液の計6種類の下水道資源を利用したいずれの農地から、大腸菌汚染の影響は確認されませんでした。その一方で、農地から検出された大腸菌は、遺伝子解析の結果から圃場を取り巻く外的要因による影響が大きいと考えられました。現時点で下水道資源の利用による農地への大腸菌汚染は確認されませんでしたが、継続した調査が必要と考えられました。
※用語解説
1.下水道資源:下水処理場から発生した窒素、リン酸、カリウムが豊富に含まれる処理水や汚泥の総称
2.ESKAPE細菌:CDCで定義された,薬剤耐性菌の中で、ヒトにとってハイリスクとなる6種類の耐性菌