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波長変換技術により 高輝度赤色ペロブスカイトナノ結晶LEDの作製に成功 ~窒化物半導体とペロブスカイトナノ結晶の協奏で拓く高性能LEDの開発~

掲載日:2024.10.01

本件のポイント

●赤色発光ペロブスカイト(CsPbI3)ナノ結晶をメタクリレート系のポリマーバインダーに分散することで、LEDの発光安定性と発光効率を大幅に向上させた。

●青色発光する窒化物半導体(InGaN)LED上にCsPbI3ナノ結晶膜を形成して赤色変換LEDを作製し、優れた外部量子効率(26.2%)とデバイス半減寿命(103時間)を維持しながら、一桁程度高輝度化(3.5 mW/cm2, 1.9 × 103 cd/m2)することに成功した。

●本技術を応用・発展して光の三原色(RGB:赤緑青)のLEDを一体集積化することで、次世代のマイクロLEDディスプレイに向けた研究の加速が期待される。

詳しくは、こちらをご覧ください。

概要

 山形大学大学院理工学研究科の大音隆男准教授と同大学大学院有機材料システム研究科の千葉貴之准教授らは、窒化物半導体InGaN系青色LED上にメタクリレート系ポリマーバインダーに分散したペロブスカイトナノ結晶膜を形成した波長変換(色変換)型LEDを作製することで、赤色ナノ結晶LEDにおける世界最高水準の発光効率(外部量子効率)とデバイス寿命を維持しながら、大幅な高輝度化(3.5 mW/cm2, 1.9 × 103 cd/m2)に成功した。本成果は、AIP Publishing社が発行するApplied Physics Lettersに掲載され、AIP Publishing Showcaseにも選出された。
 超スマート社会(Society 5.0)に向けて、超小型・高精細な次世代のディスプレイ技術が求められているが、材料的な壁に直面して、有効な解決法が長年見出されていない。本研究では、金属ハライドペロブスカイトナノ結晶の塗布プロセス技術によって、窒化物半導体InGaNを用いた青色LED構造上に光の三原色(RGB:赤緑青)で発光する素子を同一基板上に一体集積化できる波長変換型のLEDを提案した。赤色発光ペロブスカイト(CsPbI3)ナノ結晶をメタクリレート系ポリマーバインダーに分散することで、発光効率・発光安定性の大幅な向上に成功した。CsPbI3ナノ結晶膜をInGaN系青色LED上に実装してほぼ完全な赤色変換を実証し、現在報告されている世界最高水準のCsPbI3ナノ結晶赤色LEDと同程度の外部量子効率・素子寿命を維持しながら、一桁高い光強度(3.5 mW/cm2, 1.9 × 103 cd/m2)を実現した。ナノ結晶サイズ縮小による短波長化によって次世代ディスプレイ規格であるハイダイナミックレンジも実現でき、ディスプレイ産業応用上で有用な方法であると期待される。

背景

 仮想世界と現実社会を高度に融合したシステムを構築し、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会 (超スマート社会:Society 5.0) の実現が求められている。超スマート社会に向けて、可視光デバイスが担う役割は大きく、超小型で高精細なディスプレイ技術が必要不可欠である。マイクロLEDディスプレイは多くの優れた特徴を持っていることから、液晶・有機ELに続く次世代のディスプレイとして注目されており、光の三原色 (赤緑青:RGB) の微細な無機LED (マイクロLED) を二次元的に集積化して作製される。
 現状は、青・緑色LEDにはInGaN系半導体、赤色LEDにはInGaP系半導体が用いられているが、InGaP系LEDはデバイスサイズ縮小に伴う効率低下や温度特性が大きな課題である。RGB-LEDの集積化では材料系が異なるため、LEDを個別に作製してロボットで精密に並べていく必要があるが、製造コストも高く大量生産に向かない。したがって、RGBの一体集積化はディスプレイ分野に革新を与えると期待されるが、InGaN系LEDは赤色の高効率化で材料的な壁に直面して、有効な解決法が長年見出されていない。
 一方、金属ハライドペロブスカイト(CsPbX3, X = Cl, Br, I)ナノ結晶も可視光LEDの材料として期待されている。ペロブスカイトナノ結晶はホットインジェクション法などの簡便な手法で作製でき、ハロゲン原子Xの組成比によって可視光全域で発光可能で、単色性と発光量子収率が高い材料である。長鎖アルキルを配位子として導入することで無極性溶媒に分散可能なため、塗布印刷という簡便な手法で膜を形成できる。従来の電流注入型のLEDも数多くの研究があるが、電流注入による素子劣化が生じるため素子寿命は長くても数百時間程度であり、駆動電流密度も低いという応用上の課題がある。

研究手法・研究成果

 本研究では、無機・有機の材料・プロセス技術を融合し、赤色LED・マイクロLEDディスプレイ技術に新たな活路を見出すべく、窒化物半導体InGaNを用いた青色LEDとペロブスカイトナノ結晶の塗布プロセスを組み合わせることで光の三原色(RGB:赤緑青)で発光する素子を同一基板上に一体集積化できる波長変換型構造に着目した。このデバイス構造では化学的に安定な窒化物半導体だけに電流注入するため、ペロブスカイトナノ結晶の劣化を抑制でき、高輝度な発光が得られると期待される。本研究では、青色InGaN LED上にCsPbI3 ナノ結晶を組み合わせた赤色変換LEDを実際に作製し、26.2%のEQE、3.5 mW/cm2の光出力(1.9 × 103 cd/m2の輝度)、103時間のデバイス半減寿命を達成した。
 まず、ホットインジェクション法で合成したCsPbI3ナノ結晶(平均サイズ:11 nm)をメタクリレート系ポリマーバインダーに分散・封止して、光学特性評価を行った。CsPbI3ナノ結晶に青色光を照射し続けて発光強度の時間発展を測定したところ、ポリマーバインダーに分散することによって、数百mW/cm2まで励起強度を上げてもCsPbI3ナノ結晶の発光強度の劣化が大幅に抑制できることを示した。これは、ポリマーと配位子が強固に結合することで、配位子離脱による表面欠陥の生成が抑制されたことに起因すると考えられる。さらに、時間分解分光と発光量子収率の測定結果から、ポリマーバインダー分散によって、表面欠陥に起因する非発光再結合が抑制され、発光量子収率が向上することを明らかにした。
 次に、青色InGaN LED上にポリマーバインダー分散型CsPbI3ナノ結晶膜をUV硬化樹脂で固定し、波長変換型赤色LEDを作製した。青色LEDのみに1 mA(265 mA/cm2)の電流を流し、CsPbI3ナノ結晶膜導入の有無による光学特性の変化を評価した。図はベースの青色LEDと作製した赤色変換LEDの発光スペクトルと発光時の写真を示している。青色光はCsPbI3ナノ結晶でほぼ吸収されており、明瞭な赤色発光が観測された。点灯直後の発光強度・輝度はそれぞれ3.5 mW/cm2、1.9 × 103 cd/m2と従来のCsPbI3ナノ結晶LEDよりも一桁程度高く,103時間と長いデバイス半減寿命が得られた。積分球で測定した外部量子効率は最大値26.2%を取り、最新のCsPbI3ナノ結晶LEDと同程度でInGaN系赤色LED (10.5%)よりも高い値を達成した。
 本研究の成果は、JSPS科研費(23K03936)、TI-FRIS、JST戦略的国際共同研究プログラム (JPMJSC2111)、YU-COE(M)等の支援により実施された。

今後の展望

 CsPbI3ナノ結晶の劣化特性を詳細に評価することで、劣化メカニズムを明らかにし、産業応用に求められる長寿命化に繋げていきたい。CsPbI3ナノ結晶のサイズを小さくすることで20倍以上高輝度化することが可能で、次世代のディスプレイ規格(Rec. 2020)も達成できる。さらに、本研究の手法を用いると同様にCsPbBr3ナノ結晶により緑色変換LEDが作製できる。したがって、青色LED基板上に緑・赤色ペロブスカイトナノ結晶をインクジェットで塗り分けることで、低コストのマイクロLEDディスプレイ応用に繋がると期待される。

雑誌名

論文タイトル: Highly stable and bright CsPbI3 nanocrystal red emitters based on color-conversion from InGaN-based blue light-emitting diodes

著者: Daisuke Yokota, Haruka Abe, Shingo Saito, Kento Yanagihashi, Takayuki Chiba, and Takao Oto

雑誌: Applied Physics Letters 125, 133502 (2024).

DOI: 10.1063/5.0227291

用語解説

注1  InGaN:
窒化物半導体GaNとInNの混晶半導体。In組成の変化により可視光全域をカバーできる。2014年に赤﨑勇先生、天野浩先生、中村修二先生がInGaNを用いた「高輝度・低消費電力白色光源を可能とした高効率青色LEDの発明」でノーベル物理学賞を受賞した。

注2 金属ハライドペロブスカイト:
本研究では、化学式CsPbX3で表されるペロブスカイト構造を持つ結晶である。X(Cl, Br, I)はハロゲンアニオンであり、Xの組成比を変えることにより、可視光全域の発光が得られる。優れた発光量子収率(吸収に対する発光の割合)を有する半導体材料であり、LEDや太陽電池など幅広い光・電子デバイスへの応用が期待されている。

注3 ナノ結晶:
数十nmかそれ以下の大きさの半導体微細結晶。サイズが小さくなり量子効果が顕著に表れるナノ結晶は量子ドットと呼ばれ、「量子ドットの発見と合成方法の発明」に対して2023年ノーベル化学賞が与えられた。

注4 波長変換:
半導体の吸収端よりも大きなエネルギーを持つフォトン(光子)を吸収させて、より小さなエネルギーを持つフォトン(光子)を放出させることで、波長(色)を変換する技術。本研究では、CsPbI3で青色光を吸収させて、赤色発光に変換させた。

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