ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2024年10月 > 認知症高齢者のフレイルを音楽療法で改善する ~エビデンスの創出を目指して~
掲載日:2024.10.24
トピックス
・音楽療法は、「音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の改善、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること(日本音楽療法学会の定義)」です。単なるレクレーションや音楽鑑賞とは異なり、音楽療法を受ける人に対して、ある目的を掲げ、それを達成するために行います。
・音楽療法は、赤ちゃんから老人まで誰でも対象にでき、使用する音楽も制限がありません。しかし、その多様性ゆえに、療法としての効果の科学的エビデンス(根拠)の構築がやや遅れています。
・我が国で数が増え続けている認知症高齢者は、とくに「フレイル」*という、心身が弱い状態になっており、多面的で継続的な対策が必要です。このため、私たちは、認知症高齢者のフレイルの状態を音楽療法で改善することを目的に掲げました。
・2024年4月〜山形大学を中心とした多領域の研究者(栄養学、音楽療法学、音楽理論、医歯学、認知科学、工学、介護福祉学)による集学的な研究が開始しました。
・この研究では、山形県内の介護福祉施設の認知症高齢者を対象に、隔週で6回以上の音楽療法を行っており、今後も継続する予定です。現時点で明らかになってきているエビデンスでは、
〇音楽療法学会により作成された構造化された音楽療法プログラム(1回45-50分、起承転結があって対象者の年代を考慮しています)の効果が証明されました。
〇少なめであった食事量が増え、噛む力、唾液量やしっかり声を出す機能が改善しました。
〇参加者の意欲が高まり、心臓の拍動が規則的で強くなる身体データも確認されています。
〇今回使用されている音楽の特徴についても、科学的解析を行っています。
・本研究によって、音楽療法が、フレイル状態の認知症高齢者に対して、参加して楽しく多面的な効果のある療法であるとのエビデンスの創出が期待されています。
・多忙な現場で音楽療法を取り入れ、この研究に協力いただいている山形県内の介護福祉施設および参加者の皆様に感謝申し上げます。
背景と目的
高齢者では、身体機能、認知機能、口腔機能・嚥下機能といった複合的なフレイル(脆弱性)があり、放置すれば自然に悪化しやすいが、現実的には多面的な対策の実現と継続は困難である。音楽療法は多面的な効果が期待できる療法であるが、音楽の幅広い性質や実践の場が地域である限界がある。音楽療法における、とくに口腔機能や嚥下機能、生体反応における効果の検証はなされていないため、本研究ではこれらを中心に、認知症高齢者のフレイル関連した状態の改善の効果をみることを目的とした。
研究手法
研究期間は2024年4月~2027年度を予定。対象者は山形県内の福祉施設等の65歳以上の認知症高齢者数十名。音楽療法は、音楽療法学会により作成された構造化された音楽療法プログラムを使用し、5−7名程度のグループで1セッション45−50分程度を施行する。音楽療法が及ぼす影響を検討するため、認知機能、フレイルの有無、身体状況・栄養状態、生活の質、食事量、食事時間、離床時間、睡眠時間、口腔・嚥下機能、唾液量・唾液コルチゾール測定、椅子の座面に敷いたシートセンサによるバイタル測定などを行う。音楽療法の参加者の反応、音楽自体の分析も行う。
研究成果の一部
音楽療法自体の評価(参加者の意欲など)、唾液分泌速度、食事量、生活の質、質問票での認知機能能力、舌圧、咽頭口腔運動の協調性が1回目よりも6回目の方が全ての項目で高い傾向を示した。シートセンサによる心弾図では、音楽療法中に心拍動が強く規則的に変化することが観察されている。使用されている音楽のリズムや旋律の特徴についても理論的に解析中である。
今後の展望
この研究で得られる科学的エビデンスは、高齢社会で問題となっているフレイル対策に生かされ、医療や介護福祉の分野での応用が期待される。また音楽療法の発展に寄与すると予想される。
用語解説
フレイル;年齢とともに筋力や心身の活力が低下している虚弱な状態
研究グループ
山形大学地域教育文化学部 地域教育文化学科 三原法子
日本音楽療法学会・認定音楽療法士 冨樫さち子
山形音楽療法研究会 吉田京子
山形大学医学部 第三内科 太田康之
東北大学大学院 高次機能障害学 伊関千書
山形大学医学部 歯科口腔外科 石川恵生、奥山尚樹
山形大学大学院理工学研究科 有機エレクトロニクスイノベーションセンター 熊木大介
山形大学大学院理工学研究科 情報・エレクトロニクス専攻 原田知親
山形大学地域教育文化学部 地域教育文化学科 小酒井貴晴、名倉明子
山形県立米沢栄養大学健康栄養学科 加藤守匡
済生会山形済生病院消化器内科 中村由紀子
至誠堂総合病院ケアセンター 伊藤英三
山形県地域包括支援センター等協議会 峯田幸悦
山形県栄養士会 柿崎明美、西村恵美子、本木悦子
社会医療法人二本松会さくら町病院療食科 布川友貴