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高性能でlightweight な変化検知技術を開発しました ~トップ国際会議 AAAI に採択された技術です!~

掲載日:2025.04.10

本件のポイント

  • 数理現象である「次元の呪い」を変化検出に活用できることを発見
  • AI、人工知能分野において超難関であるトップ国際会議 AAAI に採択されたのは、投稿件数10,000超となってからは山形大学では初めて
  • この4月に発足した理工学研究科・数理情報システム専攻教員(理学部主担当)による成果

概要

 山形大学とアズビル金門株式会社の共同研究チームが、高性能かつ軽量な変化検知技術を開発しました。この技術は、工場の機械や家庭のメーターなどから得られるデータの異常な変化をリアルタイムで検出し、迅速な対応を可能にします。特に、従来の手法に比べて計算負荷が圧倒的に軽く、エッジデバイス上での実装が可能である点が大きな特長です。
 さらに、本研究では数理現象である「次元の呪い」を逆手に取り、精度の高い変化検知を実現する新たなアプローチを提案しました。この革新性が評価され、AI、人工知能分野のトップ国際会議「AAAI 2025」に採択されました。投稿件数10,000超となった AI、人工知能分野の国際会議に採択されたのは、山形大学として初めてです。
この4月に発足した理工学研究科数理情報システム専攻では、このような先進的な研究を学ぶことができます。

詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。

背景

 工場の機械や家庭のメーターが記録する時間系列データには、通常の操作による変化だけでなく、故障などの予期しない異常も潜んでいます。これらを見逃すと、安全性や信頼性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
 さらに、クラウドを介さず現場のエッジデバイスで即座に異常を検出し、迅速にアラームを発することが求められます。そのためには、高精度でありながら計算負荷の小さい変化検出技術の開発が不可欠でした。

研究手法・研究成果

 本研究では、水道やガスの使用量などの時間系列データの変化を検出するために、変化前後のデータセットを比較する新手法を開発しました。まず、時系列データを高次元データに変換し、変化前後のデータ間の違いを調べるために、一方のデータセットに属するデータをクエリとして他方のデータセットを検索しました。この過程で、高次元データの検索において特定のデータが頻繁に検索結果に現れる「ハブネス現象」が発生することが知られています。本研究では、ローカルセンタリングとベクトル正規化を適用することで、このハブネス現象を制御し、変化がない場合はデータ分布が均一になり、変化がある場合は均一にならないことを発見しました。この特性を活かし、高次元超球面上の一様性検定を用いた新しい変化検知手法を提案し、従来手法に比べて計算負荷を抑えながら、高精度な変化検出を可能にしました。

今後の展望

 本研究で開発した変化検知技術は、計算負荷が小さいという特長を活かし、さまざまな分野への応用が期待されます。具体的には、産業機械に組み込んでリアルタイムで異常を検知する方法に加え、大規模プラント(工場)に設置された多数の機器やセンサーのデータをクラウド上で統合・解析し、個々の機器やセンサーごとに異常検知を行う活用方法も考えられます。従来の手法では、プラント全体の大規模なデータ処理は計算コストの面で課題がありましたが、本技術の計算効率の高さにより、プラント全体にわたる広範な異常検知が可能となります。
さ らに、本技術は既存の異常モードや故障モードを前提としたアルゴリズムと並列的に実装することができるだけでなく、異常モードを事前に定義しなくてもシステム全体の変化を捉えることが可能です。これにより、従来の手法では見落とされがちだった未知の異常の検出にも貢献できると期待されます。
 産業分野にとどまらず、水道、ガス、電気などの時系列データを活用し、需要家(世帯)のライフスタイルの変化を捉えることにも応用できます。これにより、新しいサービスの創出やエネルギー利用の最適化など、多様な分野での利活用が期待されます。
 今後、本技術のさらなる発展と実用化を目指し、産業界との連携を深めながら、さまざまな応用分野での実証実験を進めていきます。

論文の詳細

表題:Hubness Change Point Detection
著者:Ikumi Suzuki, Kazuo Hara(山形大学・理工学研究科・数理情報システム専攻), Eiji Murakami(アズビル金門株式会社)
国際会議:The 39th AAAI Conference on Artificial Intelligence (AAAI), to appear.

用語解説 

1.次元の呪い:高次元空間では、ほとんどのデータが中心から等距離になり(球面集中現象)、一部のデータが多くのデータにとって最近傍になりやすい現象(ハブネス現象)が生じます。これにより、距離や最近傍ベースの検索や分類の性能が劣化し、データ解析が困難になるため「次元の呪い」と呼ばれます。
2.AAAI:NeurIPS、CVPR、ICLRと並ぶAI分野の主要国際会議(毎年開催)で、今年で39回目の開催となります。近年の投稿数は1万件を超え、採択率は20〜30%程度です。ChatGPTのような大規模言語モデルの学習や評価手法も頻繁に発表されており、日本からの採択は数%程度です。詳しくは、「人工知能分野及びロボティクス分野の国際会議における国別発表件数の推移等に関する分析」、文部科学省 科学技術・学術政策研究所 科学技術予測・政策基盤調査研究センター、鎌田久美、堀田継匡 著、2023年5月、https://nistep.repo.nii.ac.jp/records/6846 を参照してください。
3.ローカルセンタリング:クエリデータの近傍データの平均ベクトルを引き、差分ベクトルを求めること。
4.ベクトル正規化:差分ベクトルの長さを1に揃えること。
5.高次元超球面上の一様性検定:球面上のデータが均一に分布しているか、偏りがあるかを判定する手法。その高次元版。

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