ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2025年04月 > 学長定例記者会見を開催しました(4/10) > 調湿環境の下で深い傷を引き攣れなく早く治し、傷と癒着しない多糖製結晶質創傷被覆膜を初めて開発 ~砂糖の主成分(ショ糖)を含ませることで、さらに速く傷が治る~
掲載日:2025.04.10
▲開発した新しいショ糖
含侵多糖製結晶質創傷被覆材
難治の深い傷(深達性創傷)は皮膚縫合が選択されることが多く、この治癒に対応できる創傷被覆材はなかった。本研究では、深達性創傷治癒に対応した新しい創傷被覆材を開発した。この創傷被覆材は、多糖(グルコース/マンノース、通称グルコマンナン)の分子を層状に配列した結晶質膜に砂糖の主成分であるショ糖を浸み込ませたものである。このショ糖を浸み込ませた多糖製結晶質創傷被覆材は、深達性創傷で見られる多量の浸出液を吸収し、過剰浸出液を蒸散するという自己調湿機能をもち、深達性創傷との癒着や治癒組織の炎症がなく、早期に深達性創傷が治癒できる初めての材料である。
詳しくはこちら(リリースペーパー)をご覧ください。
皮膚は外界から身を守る重要な組織です。皮膚を深くまで損傷や欠損(深達性創傷)した部位は一般的に皮膚を縫合しますが、引き攣れによる機能的低下が課題となります。また、皮膚は自然治癒しますが、深達性創傷部位は瘢痕が作られ、この場合も機能的低下を引き起こします。医療用創傷被覆材は、創傷から漏れ出す浸出液(体液)を吸収しながら湿潤環境を維持して皮膚を再生しますが、浅い傷(浅達性創傷)に対応しており、深達性創傷には適用できません。仮に、医療用創傷被覆材を深達性創傷に適用したならば,深達性創傷で多量の浸出液が発生して吸収しきれないこと、傷との癒着が発生することなどから、慢性的な炎症を伴う皮膚の再生と比較的長い治癒期間が必要です。そのため、多量の浸出液を蒸散しながら湿潤環境を維持し、傷の炎症を抑え、引き攣れや癒着なく早期に深達性創傷を治す新しい創傷被覆材が求められてきました。
本研究で開発した創傷被覆材は、グルコース/マンノース(多糖)を原料にして、その分子を層状に配列した結晶性多糖膜にショ糖を浸み込ませたものです。このショ糖を浸み込ませた多糖製結晶質創傷被覆材の深達性創傷に対する治癒は、医療用創傷被覆材で通常4週程度を要するのに対して、僅か1週程度で創傷が閉鎖(創傷治癒が完了)し、炎症や癒着なく治癒することから、従来の創傷被覆材より極めて優れた治癒効果を示します。この優れた治癒効果はラットを用いた動物実験により明らかにされました。本研究は科学技術振興機構(JST)のA-Step可能性検証(R5.10~R7.3)で行われ、その成果としてR6年5月に特許出願し、本年R7年3月21日にBioengineering 12巻, 327頁(2025年)に掲載されました。
多糖製結晶質創傷被覆膜の基礎的な性質は市販・医療用創傷被覆材の欠点を十分に解決できている。ラットを用いた検証実験から人皮膚に近い動物を用いた検証実験などをテイカ製薬(株)と行い、人への実用化に向けて開発を進め、可能な限り早く患者の手元に届けたい。テイカ製薬株式会社は,医療用を含む医薬品の開発・製造・販売を行うメーカーです。
詳細は,工学部,学部長記者懇談会で説明する予定です。