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後生動物細胞からの内生グアノシン4リン酸(ppGpp)の検出に成功-動物型ppGppシグナル伝達系という新たな研究領域の開拓-

掲載日:2020.11.13

東京工業大学
山形大学
九州大学
東京都立大学

本件ポイント

  • グアノシン4リン酸(ppGpp)は、細菌の栄養飢餓応答時のシグナル物質として発見されたが、動物細胞では半世紀にわたり未確認だった。
  • ショウジョウバエやヒト細胞からのppGpp検出に世界で初めて成功し、その量が発生段階に応じて変化することを明らかにした。
  • 動物細胞内にもppGpp代謝系が存在し、発生の調節や環境適応に用いられていると考えられる。

概要

 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の伊藤道俊大学院生(研究当時)と増田真二准教授らの研究グループは、山形大学の及川彰教授、九州大学の川畑俊一郎教授、東京都立大学の朝野維起助教らのグループと共同で、細菌のセカンドメッセンジャー(用語1)として知られるグアノシン4リン酸 (ppGpp) を、後生動物(用語2)の細胞から検出することに世界で初めて成功した。
 細菌は、外部環境変化に応じてppGppを合成することで代謝を最適化し、栄養飢餓応答や抗生物質耐性などを向上させている。本研究では、後生動物では世界で初めて、ショウジョウバエでのppGppの検出に成功した。さらにppGpp分解酵素を欠損したショウジョウバエは野生型の約7倍のppGppを蓄積していることを明らかにした。ショウジョウバエ中のppGpp量が発生段階に応じて大きく増減することから、動物細胞内にはppGpp代謝系が存在しており、発生の調節や環境適応に用いられていると考えられる。
 今回の発見によって、ppGppが動物細胞にも存在することが確認されたことで、今後は、その機能に関する研究の進展が期待される。研究成果は11月13日(イギリス時間)発行の「Communications Biology(コミュニケーションズ・バイオロジー」に掲載された。 

 詳しくは、こちらの資料をご覧ください。

図1 各生物におけるppGppの機能
ppGppは、細菌では種々の応答に関与することが知られ、植物でもその機能が解明されつつある。しかし、後生動物では内生ppGppが検出された例がほとんどなかったため、その機能は一切明らかになっていなかった。
の画像
図1 各生物におけるppGppの機能
ppGppは、細菌では種々の応答に関与することが知られ、植物でもその機能が解明されつつある。しかし、後生動物では内生ppGppが検出された例がほとんどなかったため、その機能は一切明らかになっていなかった。

※用語解説

  1. セカンドメッセンジャー:細胞が受容したシグナルを中継し、細胞内の遺伝子発現や代謝を変化させる分子。
  2. 後生動物:アメーバなどの原生動物を除くすべての動物の総称。
  3. 遺伝子発現:遺伝情報からタンパク質が作り出される過程を指す。すなわち、遺伝子の実体DNAからRNAが合成され(転写)、RNAからタンパク質が作られる(翻訳)一連の過程を指す。
  4. 固相抽出:懸濁液を固体(固定相)中に流し、化合物を吸着させることで、目的化合物の分離・濃縮する手法。
  5. 高速液体クロマトグラフィー・質量分析法:液体中の成分を固定相と溶媒 (移動相)の相互作用の違いを利用することで分離し、さらに質量分析器を用いて特定の質量の化合物のみを検出および定量する手法。
  6. NADPH(還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸):細胞内における還元力の供給源や一部酵素の補酵素として重要な役割を果たす分子。

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