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レンチンするだけ!高分子の自己組織化に要する時間の劇的な短縮を達成 ~簡便かつ環境低負荷な手法~

掲載日:2022.03.10

本件のポイント

  • 生体膜と同様な構造を示す高分子膜※1を簡便に作製。
  • 従来の手法ではラメラ構造化させるのに数時間の熱処理が必要であったが、家庭用電子レンジを用いると瞬時 (15秒) に形成することを発見。
  • 水の有無によってカタチが変わるため、「呼吸する」フィルムへの応用が期待されます。

概要

 山形大学の松井淳教授(機能高分子材料)らの研究グループでは、両親媒性櫛形高分子※2を加湿下で熱処理すると生体膜に見られるラメラ構造※3が形成されることを見いだし、水・気体分離膜への応用を進めています。しかしながら、膜が作製されるまで1日の熱処理が必要であり、実用展開への妨げとなっていました。
 そこで、本成果では接着剤としても使用されているアクリルアミド系高分子を水と一緒に家庭用電子レンジで"チン"するという単純な手法により、わずか15秒で生体膜に見られるラメラ構造へと自己組織化することを発見しました。
 さらに、ラメラ構造は水が存在しない条件下で熱をかけると崩壊し、水と一緒にレンジにかけるとラメラ構造が形成されるといった可逆的な構造転移が観察されています。今後、湿度変化によるラメラ構造の配向性を制御することで、自発的に「呼吸する」フィルムとしての新たな展開が期待できます。
 本成果は、ドイツ化学会の雑誌である Macromolecular Chemistry and Physics誌のオンライン版に2021年12月17日に掲載されたとともに、当該号のFront Coverに選出され掲載されました (Front Coverは2022年2月5日に掲載)。

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ビジネスプランの概要

図1 本実験系における装置図の画像
図1 本実験系における装置図

 これまで研究グループでは、接着剤にも使用されるアルキルアクリルアミド系やアルキルアクリレート系の汎用高分子材料を加湿下で熱処理すると、高度に配向したラメラ構造が形成されることを見いだしていました。さらに、その形成メカニズムとして、水が吸着した高分子主鎖とアルキル側鎖との相分離※4であることを明らかにしていました。しかしながら、構造化には加湿下で数時間の熱処理が必要でありました。
 そこで今回、研究グループでは、湿らせた紙と粉体のドデシルアクリルアミドのホモポリマー※5を密閉容器内に入れ、家庭用電子レンジを用いてマイクロ波をわずか数十秒照射するだけでラメラ構造を形成させることに成功しました (図1)。これは、水分子が2つの重要な役割を担っているためであると結論づけました。一つ目は、水分子がマイクロ波吸収体であることから、瞬時に熱を発生し、高分子鎖の運動性を高めることに貢献していること。二つ目は、水分子が高分子主鎖付近の親水的部位に吸着することで親水性がさらに増し、疎水性アルキル側鎖部位との相分離力の増大に貢献していること。これら2つの役割が組み合わさったことで、従来の手法では数時間かかっていたラメラ構造化がわずか15秒で達成されました。さらに、電子レンジによる劇的な時間の短縮は、粉体だけでなく高分子薄膜においても成功していることから、簡便で環境低負荷かつ汎用性が非常に高い手法であることがわかります。
 形成されたラメラ構造は、真空条件下で熱処理すると崩壊し、再度、加湿条件下でマイクロ波を照射するとラメラ構造が形成されることが観察されており、何度も繰り返して構造転移することが可能です。今後、湿度変化によるラメラ構造の配向性を明らかにすることで、いかにも「生きている」ような自発的に「呼吸する」フィルムとしての新たな展開が期待されます。

用語解説

  1. 高分子膜:サランラップのようなプラスチックでできた膜のこと。
  2. 両親媒性櫛形高分子:高分子主鎖付近に親水性 (=水がなじみやすい)部位、側鎖に疎水性 (=水がなじみにくい) アルキル鎖を持つ、櫛 (くし) のような形をした高分子のこと。
  3. ラメラ構造:玉ねぎの皮のように層状に重なった構造。生体膜では分子レベルの厚さが2層重なったラメラ構造を形成している。
  4. 相分離 (力):水と油のように混じり合わない (合いたくない) 状態のこと。
  5. ホモポリマー:1種類のモノマーからなるポリマー (高分子) のこと。

【付記】 本研究は本学YU-COE(C)「山形大学カーボンニュートラル研究センター(YUCaN)」, 科学研究費基盤研究B(18H02026)、カシオ科学振興財団、フジシール財団、物質・デバイス領域共同研究拠点」の共同研究プログラム支援を受けて行われました。

【論文情報】Mizuki Ohke and Jun Matsui
【論文題名】Rapid Formation of a Lamellar Structure in an Amphiphilic Comb-Shaped Polymer by Nanophase
Separation Using Microwave–Humidity Annealing
【掲載論文】Macromolecular Chemistry and Physics
【DOI】10.1002/macp.202100404

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