







ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2026年03月 > 天体からの光の粒を捉える 山形生まれの高速カメラIMONY ~せいめい望遠鏡でカニパルサーを連夜観測~
掲載日:2026.03.23
本件のポイント

▲左:せいめい望遠鏡

▲右:せいめい望遠鏡に搭載されたIMONY(中央付近の緑色の基板)
概要
山形大学を中心とする研究チームは、可視光天体を高速で撮影できる装置 IMONY(いもにぃ) を開発し、口径3.8 mのせいめい望遠鏡でカニパルサーを1週間にわたって観測しました。IMONYは、光を“粒”として1つずつ数え、到来時刻を1000万分の1秒の精度で画素ごとに記録します。記録されたデータを整列することで非常に高速の動画のように再構成できます。カニパルサーが0.034秒周期で1回転するたびに出す光の脈(パルス)をとらえられるようになりました。さらに、光パルスのタイミングが数日スケールでゆっくりわずかにずれていく兆候も見つかり、光パルスが生まれる場所(放射領域)が少し動いた可能性が考えられます。これらの観測が実現できるのは、IMONYの感度の高さや高速さと、せいめい望遠鏡の高い集光力の組み合わせによるものです。IMONYという名前は、山形のソウルフード「芋煮」に由来します。地域に親しまれる名前を掲げて最先端の観測研究と国際的な同時観測に挑戦しています。またIMONYの開発と観測には、歴代の大学院生や卒研生が深く関わっており、電子回路やソフトウェア技術を身につける実践的な人材育成にも直結しています。
背景
宇宙には、非常に短い時間に明るさの変化する天体があります。パルサーはその代表で、強い磁場を持つ中性子星が高速回転し、灯台のように周期的に脈打つように明るさの変化を繰り返します。こうした現象を理解するには「どれくらい速く変化するか」を直接測ることが重要です。しかし可視光で“超高速”を高感度に測る装置は簡単ではありません。日本ではこの分野の事例が少なく、新しい観測基盤の整備が求められていました。
そこで、山形大学中森研究室では、天体からの光を粒子(光子;こうし)として検出できるカメラシステムを開発してきました。素粒子・放射線物理学実験の技術を用いることで、検出した光子ごとに到来時刻を精密に記録することができます。取得したデータを高速動画として再構築できるシステムを開発し(既報[1-4])、現在も開発・改良が続けられています。このシステムはIMONY(Imager of MPPC-based Optical-photoN counter from Yamagata; いもにぃ)と呼ばれ、山形に馴染み深い芋煮をモチーフとして名付けられました。
[1] 2020年12月山形大学学長定例記者会見
[2] Nakamori et al. (2021), Publications of the Astronomical Society of Japan, 73, 66
[3]アストロアーツ社・月刊星ナビ2021年7月号
[4] Nakamori et al. (2025), Publications of the Astronomical Society of Japan, 77, 425
研究手法・研究成果
観測について:
東アジア最大級の口径3.8 mを持つ、京都大学岡山天文台「せいめい望遠鏡」にIMONYを搭載し、カニパルサーを観測しました。せいめい望遠鏡は持ち込み装置の一時的な設置が認められており、IMONYは最初の搭載例となりました。本研究ではカニパルサーを2024年2月5日〜11日に連夜観測し、そのうち2夜は口径64 mの臼田電波望遠鏡(JAXA)との同時観測も実施しました。カニパルサーは約0.034秒周期で光度変化を繰り返す中性子星で、1周期の時間をさらに細分して測光することで初めてその変化の様子がわかります。IMONYは光子を1個ずつ検出し、100ナノ秒(1000万分の1秒)の分解能で時刻を付与するため、十分な性能を持ちます。
なぜ電波望遠鏡と同時観測するのか:
電波望遠鏡は非常に精度よくパルサーの自転のタイミングを計測でき、IMONYが観測する可視光パルス放射と比較する基準となります。また、電波望遠鏡でしか検出できない「巨大電波パルス」と呼ばれる現象が知られており、その瞬間の光パルスの挙動を精査してこの現象の起源を突き止める研究も進めています。パルサーなどの天体は様々な波長の電磁波で光っているため、IMONYで光の変化や挙動を見るときは、同時に他の波長で何が起こっているかを調べられるよう「多波長同時観測」が重要です。
主要成果(1):パルサー1回転ごとの可視光“単発パルス“を検出。
パルサーから光パルス放射が出るしくみは未解明なことが多く、様々な切り口からの観測データの積み重ねが求められる研究分野です。自転周期ごとに放出される光パルスには強弱があり、個々のパルスを捉えてそのゆらぎ幅や変動の様子を調べることは、放射領域の磁場構造などの環境を知る手がかりであり重要です。図1に示すように、本研究では自転周期に同期した光パルスを検出することに成功しました。せいめい望遠鏡の高い集光力と組み合わせることで、微弱な時間変動まで追跡可能になりました。

▲図1 IMONYがとらえたカニパルサーの周期的な光度変化。(credit : 京都大学岡山天文台/山形大学)
主要成果(2):光パルスの到来時刻が数日スケールでずれていく兆候を示唆
パルサーの周期的な電波パルスは非常に精度が高く、原子時計に匹敵する安定性を持つことが知られています。そのような精密な電波パルスのタイミングに対して、光パルスは200〜300マイクロ秒先行していることが先行研究でも知られており、本研究でも同様の結果を得ました。このことは電波パルスと光パルスの発生源が異なる場所にあることを示唆しており、光パルスのタイミングはパルサー磁気圏の放射環境を知るために重要な情報です。
光パルスの到来タイミングは経年変動の可能性が指摘されていました。本研究は7日間連続観測を行い、1日ごとに光パルスの到来タイミングを調べた結果、図2に示すように徐々に早くなっている可能性が見えてきました。タイミングの変化が数日というスケールで起こっている可能性が示されたことになります。放射領域の位置が変動したり、パルサー磁気圏の構造の揺らぎが数日という時間スケールで起こっていることを示唆している可能性がある一方で、確実に確かめるためにはさらに数日連続してモニタリング観測する必要があることもわかりました。

▲図2 光パルスのタイミングのズレ
今後の展望
IMONYのような光の高速観測は、電波望遠鏡のように別の波長と同時に観測してはじめて威力が出る研究分野です。海外に類似の装置があっても、時差の関係で日本の電波望遠鏡と同時観測ができないことがあります。突発的な天体現象はいつ起こるか予想できず、また光の望遠鏡は夜間しか観測できないため、あらゆるタイムゾーンに観測網が整備されていることが重要です。IMONYによって東アジア圏で光の高速観測が本格的に立ち上がることは、国際協働の面でも大きな意味があります。今後は、国内外の電波望遠鏡との同時観測をさらに進め、突発的な現象(巨大電波パルスなど)や関係を解き明かしていきます。
IMONYの開発は中森研究室の大学院生や卒研生を中心に進められています。電子回路の設計・制作、3Dプリントを併用した固定治具の設計製作、システムを制御するソフトウェアの整備などを担っています。研究と開発を通じて知識と技術を身につけた学生を毎年輩出しており、本研究は人材育成にも大きな役割を果たしています。
論文情報
本研究の成果はHashiyama et al. (2026)としてPASJ誌から2026年3月18日にオンライン出版されました。筆頭著者の橋山氏は、山形大学理工学研究科の特別研究生として中森研究室に2年間滞在し、その間の研究が本論文と東京大学博士論文となりました。
題目 One-week optical observations of pulsed emission from the Crab pulsar with IMONY on the 3.8 m Seimei telescope
著者 Kazuaki Hashiyama, Takeshi Nakamori, Anju Sato, Mana Hasebe, Miu Maeshiro, Rin Sato, Tomohiro Sato, Masaru Kino, Kazuhiro Takefuji, Toshio Terasawa, Koji S. Kawabata, Tatsuya Nakaoka, Dai Takei, Masayoshi Shoji, Shota Kisaka, Kazuki Ueno
掲載誌 Publications of the Astronomical Society of Japan
DOI https://doi.org/10.1093/pasj/psag026
本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(23K25890, 23K22538, 22K03681)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2108)、国立天文台共同開発(NAOJRCC-2101-0103)の支援を受けています。
用語解説
1.パルサー:非常に強い磁場を持ち、高速で自転しながらビーム状に電磁波を出す天体。大質量星が超新星爆発した後に残る、半径10 km程度のコンパクトな天体。中性子星とも呼ばれる。
2.カニパルサー:有名なパルサーの1つ。おうし座の方向で約6,500光年の距離にある。1054年に発生した超新星爆発の残骸として知られるカニ星雲の中に位置する。自転周期は約0.034秒。
参考リンク