つなぐちから #02

中島亜紀子×小笠原奈菜

大学生に大人としての自覚と
責任を促す「消費者教育」

2022.09.30

大学生に大人としての自覚と責任を促す「消費者教育」

近年、消費者を取り巻く環境が複雑・多様化しており、インターネットやスマートフォンの普及に伴う消費者トラブルも増えている。山形県では、「第4次山形県消費者基本計画」を策定し、重点項目の1つとして若年者に対する消費者啓発・教育の強化を掲げている。その一手として、大学生を中心とした若年者自らが若い世代のために行う「若年者による若年者のための消費者教育事業」をスタートさせた。成年年齢が引き下げられて新成人となった18歳・19歳をはじめとする若年者の消費者トラブルを未然に防ぎたいと願う、本事業を主導するお二人に詳しい話を伺った。

さまざまな実例から学んで、
消費者トラブルを自分事に

――「若年者による若年者のための消費者教育事業」について詳しく教えてください。
中島 インターネットやスマートフォンの普及で、最近は若年者の消費者トラブルが増えてきています。さらに、今年の4月から成年年齢が18歳に引き下げられたことで「未成年者取消権」の対象ではなくなる18歳・19歳を狙った犯罪の増加が心配されています。そのため、県としても若年者のための消費者教育に長いスパンで取り組もうと、5ヵ年計画の事業を今年度からスタートさせました。
小笠原 これまでも若年者に対する消費者教育は行われてきましたが、今回は、若い人たちに、より自分事として捉えてもらうために、大人の立場から教えるのではなく、若年者自らが若い世代のために行う消費者教育として展開する点が大きな特徴です。
中島 小笠原先生には、山形県消費生活審議会の会長を務めていただき、今回の基本計画の策定にあたっても、原案のご提案などで大変お世話になっています。もちろん、この若年者向けの事業に関しても全面的にご協力をお願いしています。1年目の今年度は、「若年者のための消費生活養成講座」の開催、「若年者のための消費生活啓発ポスターの作成」「若年者による若年者のための消費生活啓発ポスターの掲示」、この3つの取組を実施します。1つ目の養成講座は、6月に開催しました。
小笠原 本学をメイン会場に、サテライト会場として県立保健医療大学と東北公益文科大学でもオンラインで受講できるようにしました。授業として組み込んでくれた大学もあって、275名もの参加があり、消費生活に関する知識を深めてくれました。

――その講座では、どんな内容がレクチャーされたのでしょうか。
中島 どうすれば受講した学生の皆さんに消費者問題に関心を持ってもらえるか、そして、そのことをまわりの若者たちに発信してもらえるか、それらを考えて実際に山形県消費生活センターに相談があった7つの消費者トラブルと、その対処法を紹介しました。
小笠原 学生たちは、消費者トラブルと言われてもピンとこないと思うので、通販偽サイトやエステティックサービス、マッチングサイト、通信・電力契約など、学生たちにとっても身近な場面で実際にトラブルが起きていることを知ってもらえば自分事として捉えやすくなると考えたからです。
中島 さらに、時間の都合などで今回受講できなかった学生さんのために、その消費者トラブルの実例2〜3件ごとにYouTubeで配信していくことにしています。そして、この活動に参加してくれるメンバーをどんどん増やしていきたいので小笠原先生からも直接学生に声掛けをしてもらっています。
小笠原 そうですね。消費生活というのは誰もが関わることですから、学生たちに参加を呼びかけています。ところで、県ではいろいろな調査を行なっていると思いますが、今回、講座で紹介した事例をはじめ、特に注意が必要なトラブルにはどんなものがありますか。
中島 主なトラブルとしては、やはり若い人の場合、オンライン、インターネット関連ですね。通販で、最初は無料というのに引かれてボタンをクリックしてしまい、よく見たら画面の最後に定期購入の縛りがあることが小さく書いてあったとか。学生の中には、サインしてハンコを押してはじめて契約だと思っている人が多いようですが、インターネットの場合、クリックしたらそれが契約になるので解約できないんです。対処法としては、やはり画面を最後まで見て読んで確認する、1回目は定価で購入するから2回以降の縛りを解除してほしいと交渉する方法などをアドバイスしています。
小笠原 大学では学生たちの厳しい経済事情を反映してか、儲け話があるとマルチ商法に誘われてトラブルに巻き込まれたという報告が数件あったようです。
中島 経済事情もそうですし、先輩から声を掛けられたらなかなか断れない人もいるようです。被害額が10万、20万、30万と膨み、でも、大学生ともなると親にもなかなか言えない、誰にも相談できないまま100万円とか高額になってどうしようも無くなって親に泣きつくというケースもよく聞きます。

若年者のための消費生活養成講座の様子

若年者のための消費生活養成講座の様子

若者自らが消費者問題を考え、
啓発活動にも参加を

――成年年齢が18歳に引き下げられた影響はありますか。
小笠原 この4月から成年年齢が18歳に引き下げられて、大学に入った時にはもう皆さん成人なのですが、成人としての責任や自覚があるかというと、かなり個人差があるように思います。成人になることが何を意味するのかもよくわかっていない学生や「未成年者取消権」の対象ではなくなり、契約を取り消すことができなくなったことを認識していない学生も少なくありません。
中島 本当は、“口頭でも契約は成立する” “モノを買ったら、それが契約”といった基本的なところから理解してもらわないといけないんですけどね。高卒で就職した人だと、当たり前のようにクレジットカードを持ったり、車を買ったりするので、会社が社員を守るという意味で、消費者教育をやってくれるケースが多いようです。大学や短大、専門学校等でもその辺をカバーしてもらえると有難いですね。
小笠原 民法の授業で消費者問題の話をして、何かあったらどんな些細なことでもいいから情報を教えてと言うと、結構、色々な話が出てきます。被害が少額だと誰に相談することもなくあきらめて、バイトなどで頑張って自己解決しているみたいなんです。
中島 ことが大きくなって人に知られるよりは自分で返したほうがいいと思ってしまうようなんですね。だから、被害に遭う前になんとかしてあげたい。そのためには、やっぱり消費者教育が欠かせません。
小笠原 そう言った意味でも、養成講座で行なったように、どのようなトラブルがあるかを知っておくことは有効ですね。自分がそのような状況になったときに、“これは消費者トラブルのあのケースだな”とピンときて相談すべきだとわかりますし、ワンクリック詐欺を知っていれば、安易にURLを開いたり、指示に従って電話をかけたりといった選択は絶対しないはずですからね。

一人一人が賢い消費者になって
トラブルを未然に防ぐ

――この事業によってどのような成果を期待しますか。
中島 残念ながら、消費者トラブルがゼロになることはないでしょう。相談も絶対なくなることはないと思います。でも、この事業のタイトルに “若年者による”とあるように、若い人たちが自分自身で気を付けることはもちろん、周りの誰か、例えば友達が何かトラブルに遭いそうな時に“それって危ないんじゃないの?気をつけたほうがいいよ”と注意喚起してくれるだけでも、この事業の効果が出ていると言えると思います。だから、そういう声を発する学生がたくさん出てくれるといいなと思っています。
小笠原 私は、県の消費生活審議会で「山形県から消費者被害をなくす!」と大きな目標を掲げています。この事業を通じて、若年者を中心に県民の皆さんが賢い消費者になってくれて、「山形県民は騙されないから、ここでは商売にならない」と悪徳業者が寄り付かないような、そのような山形県になってほしいと思っています。
中島 実際のところ、山形県民は本当に人が良くて、これは、若年者ではなく、30〜40代の大人の事例ですが、「保険金請求しませんか、代理人になりますよ」と訪ねて来た、見ず知らずの人を信じて手数料を45%も取られて、それでも“そんなものなのかなあ”と疑いもしない人がいます。何でも疑えばいいというわけではありませんが、ひと呼吸置いて、“あれ?なんかおかしいんじゃない?”という考えを持ってほしいと切に願います。
小笠原 後々被害に遭わないためにも若いうちから消費者教育を受けておくことは大切ですね。
中島 それでも、もしトラブルに巻き込まれてしまったら、被害が小さいうちに相談する勇気をもってほしいですね。

――最後に、立場の異なるお二人が協働されての感想をお聞かせください。
小笠原 私は、講義で民法などを教えていますが、目の前の学生のことしかわかりません。県では、実際に県内でどんなトラブルが起こっているのかを調査分析しているので、中島さんを通じて実情を詳しく知ることができてとても勉強になっています。
中島 私たちは相談があって初めてトラブルを知るので、より身近なところに相談できる環境があるといいと思っています。小笠原先生のところには学生からいろんな相談があるようなので、実際にそういう環境をつくってくださっていると知って安心しました。県内で消費者問題を研究されている大学の先生は小笠原先生だけと聞いていますから、大変お忙しいとは思いますが、これからもご協力、よろしくお願いたします。
小笠原 この事業もまだまだ続きますし、こちらこそ、よろしくお願いたします。

中島さんと小笠原先生

これからも山形大学と山形県防災くらし安心部で協力して消費者教育を行っていく。

つづきを読む

なかじまあきこ

なかじまあきこ●山形県防災くらし安心部消費生活・地域安全課/消費者行政推進専門員。小笠原先生とともに「第4次山形県消費者基本計画」の策定にも携わり、消費者トラブルを未然に防ぐ事業、特に若年者の消費者教育に熱心に取り組んでいる。

おがさわらなな

おがさわらなな●本学着任は2008年、民法学を専門とする教授。山形県内で消費者問題に取り組む希少な大学教員として「山形県消費生活審議会」会長、「適格消費者団体・認定NPO法人消費者市民ネットとうほく」理事を務めるなど、学外でも幅広く活躍。目標は、山形県から消費者被害をなくすこと。

※内容や所属等は2022年9月当時のものです。

他の記事も読む