つなぐちから #05
渡辺昌規×阿部龍也
米の美味しさと栄養の
ベストバランスを追求し、
農家の魅力&収益アップに貢献。
2022.11.15
つなぐちから #05
渡辺昌規×阿部龍也
2022.11.15
健康志向を受けて米油の需要が高まり、米油抽出後の脱脂米糠が大量に廃棄されていることに着目した渡辺昌規教授は、脱脂米糠から米タンパク質を回収・精製する技術を確立。サプリメントや代替肉への応用を目指す一連の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプログラムで審査員特別賞を受賞。さらに、鶴岡市の「阿部ベイコク」との共同研究で米の栄養と美味しさを両立させる究極の精米技術の開発に挑んでいる。
「ごはんは太りやすい」「ごはんは炭水化物として糖質だけ」などと思われがちだが、実は、米にはタンパク質やビタミン・ミネラル・食物繊維なども豊富に含まれている。しかし、残念なことに、玄米の段階では豊富な栄養価も精米することでその多くが米糠の方に含まれてしまうのだ。健康志向の高まりを受けて米糠から抽出される米油の需要も伸び、大量に製造されるようになったことで副産物として脱脂米糠も大量に発生。脱脂米糠にもまだまだ豊富な栄養素が含まれているにもかかわらず、そのほとんどが廃棄されていることに着目したのがバイオマス資源学を専門とする渡辺昌規教授。
渡辺先生を代表とするグループは、脱脂米糠からリンを回収、タンパク質を回収・精製する技術を開発し、特許を取得している。この技術を生かして余剰バイオマスである脱脂米糠からアレルゲン・GM0(遺伝子組み換え農作物)フリーの米タンパク質を製造し、サプリメントや代替肉に応用しようと研究を進めている。米タンパク質を大豆や乳清タンパク質に次ぐ第三のタンパク質として市場展開することで稲作農家の収益アップを目指すとともに、世界的に危惧されている食糧難対策の一つにつなげたいとしている。この一連の研究「非可食部由来アレルゲン・GMOフリータンパク質含有食品の提供」は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催の起業意識のある研究者等を支援するプログラムTCP2021で審査員特別賞を受賞している。
米の可能性を広げる研究に興味を持ち、渡辺研究室への配属を希望した学生たちも米に関する知識はほとんどなかった。米糠を使った再資源研究に取り組むからには米糠がどのように産出されて流通するのかをリアルに知る必要があると考えた渡辺先生は、米の精米・販売を行う地元鶴岡市の「阿部ベイコク」に協力を依頼。毎年、学生たちと遊佐町にある精米工場を訪れ、玄米から白米になる工程、各種検査、パッケージング等について学ばせてもらっている。阿部ベイコクの阿部社長は、「学生さんたちの教育・研究のお役に立てるのは嬉しいですし、若い皆さんの発想やアイデアに刺激をもらっています。将来、米業界に携わる人材になってもらえたらなお嬉しいです」と期待を滲ませる。
また、渡辺先生は山形生まれの品種「どまんなか」や「はえぬき」にアルツハイマー性認知症の予防等に効果があるとされている機能性成分フィチン酸が多く含まれていることを立証。こうした研究に対して阿部社長は絶大な信頼を寄せており、企業が持つ技術やノウハウと大学の科学的な知、その連携によって米の新たな可能性を引き出す研究開発が始まっている。
精米技術によって白米に玄米の栄養価を最大限に留めることはできないものかと、渡辺先生と阿部ベイコクによる分搗き米の研究開発が進められている。玄米を自家精米で3分搗きや5分搗きにすることはできるが、安定した美味しさと栄養価を両立させることは難しい。渡辺先生らは、食感、匂い、栄養価など、さまざまなデータを取り、統計学的にいちばん美味しくて栄養価の高い米を突き止め、阿部ベイコクの高い技術力で大量生産する精密精米(仮称)の商品化を目指している。
乱立するブランド米競争から一線を画した、精密精米という付加価値による差別化で収益性の高い稲作を実現するとともに、栄養成分に優れた米を作っているというプライドを醸成し、稲作農家の魅力ややりがいにつなげたいと考えている。米糠の有効活用から精米技術による理想的な分搗き米の開発まで、米の新たな可能性を開拓し続ける渡辺先生の教育・研究、そして起業意識、それらの今後の展開に興味は尽きない。
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わたなべまさのり●教授/専門はバイオマス資源学、生物化学工学、応用微生物学。脱脂米糠からリン・タンパク質を回収する技術で特許を取得するなど、米由来バイオマスを中心とした循環型農業の確立を目指す。
あべりゅうや●(有)阿部ベイコク代表取締役社長。「つや姫」、「はえぬき」等の山形県産米にこだわり続ける米卸売・小売業として、全国に販売を拡大している。近年は自社ブランド米の開発・販売にも注力している。
※内容や所属等は2022年10月当時のものです。