つなぐちから #04

中西正樹×大西彰正

キャンパスを共創拠点へ
新グラウンドは、その第一歩。

2022.10.31

キャンパスを共創拠点へ新グラウンドは、その第一歩。

山形大学は「つなぐちから。山形大学」をキーワードに、大学は地域の発展に貢献すべきとの考えから小白川キャンパス全体のイノベーションコモンズ(共創拠点)化を宣言。その第一歩となる、地域に開かれた全天候型グラウンドが完成。本特集では、キャンパスのコモンズ化事業を担う大西小白川キャンパス長と中西「健康と学びのサポートセンター」長に話を聞いた。

新グラウンドの完成で
施設がさらに充実
多様な教育研究資源をもつ
小白川キャンパスを
「コモンズ」共創の拠点に

―― 小白川キャンパスのイノベーションコモンズ(共創拠点)化とは?
大西 イノベーションコモンズ(innovation commons)とはどういうことかと言いますと、まず、コモンズは、誰もが利用できる「公共のものや場所」のことであり、イノベーション(技術革新)と合わせて、「革新をもたらすための公共の施設や場所」を意味し、共創拠点と表現しています。小白川キャンパスを多様な人々が利活用できるようにコモンズ化することで、大学が掲げる将来ビジョン、社会と共に育つ「共育」、共に創る「共創」、共に生きる「共生」によって、持続可能な幸福社会の実現を目指します。
 山形大学は4つのキャンパスを持つ分散キャンパスですが、その中でも小白川キャンパスには、人文社会科学部、地域教育文化学部、理学部の3学部とそれぞれに関連した施設があり、人文・社会・自然・教育・芸術・体育・データサイエンスなどの多様な教育研究が行われています。今回のリニューアルによって高機能化したグラウンドと小白川キャンパスのこうした教育研究資源が融合することで、共創拠点としての魅力が増し、地域の皆様と共に創る新しいかたちの社会貢献事業が推進できるものと期待しています。

リニューアルしたグラウンドは
共創拠点の象徴的な存在

――今回のグラウンドリニューアルについて教えてください。
大西 グラウンドの老朽化が進み、教育・研究への使用に耐えられない状態になっていました。各方面からの協力もあって2020年から改修工事が始まり、今年の春に第1期工事として陸上競技場が完成しました。トラック部分は合成ゴムシートの全天候型に、インフィールド部分は人工芝仕様に整備され、良好な競技環境が整ったことで、積雪期間の利用も可能になり、利用時間・利用期間も長くなるものと思われます。
 現在、第2期工事として陸上競技場の西側にある野球場やテニスコート、拠点施設などの整備が進行中で、2023年春の完成予定となっています。
中西 今回のグラウンドのリニューアルは、小白川キャンパスのイノベーションコモンズ(共創拠点)化の第一歩であり、教育・研究、課外活動などで利用するだけではなく、各種スポーツ団体などを通して地域の皆様にも活用いただくことを前提に計画されたものです。私がセンター長を務める「健康と学びのサポートセンター」は、この新グラウンドをはじめとする大学が有する様々な施設というハードと教員の研究成果というソフトを有効活用して地域の皆様にサービスを提供することを目的として令和3年6月に設置されました。

陸上競技場

トラック部分は全天候型の合成ゴムシート、インフィールド部分は人工芝仕様に整備された陸上競技場。

キャンパスを共創拠点として
地域の人々の幸福・健康の実現に
最前線で取り組む事業

――「健康と学びのサポートセンター」のことを少し詳しく教えてください。
中西 通称はCWBと言って、Center for Wellbeingの略称です。ウェルビーイング(well-being)とは、幸福や健康の意味で、体の健康だけではなく、心の健康や豊かさといったものも含まれます。大学ならではの付加価値をつけたサービスで地域の皆様のウェルビーイングに結びつけることを目的に様々なイベントや体験会、公開講座などを通じて、スポーツ、文化、伝統などの、幅広い企画・運営に携わっています。
 「大学って一体どんなところ?」「大学にはどんな施設があるの?」など、興味は持ってはもらえているようですが、まだまだ近づきにくさがあるようですので、大学の敷居を低くして地域の皆さんが気軽に入って来られる環境にしましょう、そういう取り組みを行っているところです。
大西 小白川キャンパスには、新グラウンドの他にも文化ホールや天文台、博物館など様々な施設がありますから、スポーツに限らず、文化や伝統に触れられる場でもあります。新グラウンドの完成をきっかけに、大学の敷居を低くするという狙いは大きく進展するものと期待しています。

スポーツ体験から
音楽コンサートまで
多様なイベントが行われ
地域の人々も多数参加

――「新グラウンドオープニングセレモニー&イベント」の様子や反響はいかがでしたか。
大西 リニューアルしたグラウンドを早く地域の人々にお披露目したいという玉手学長の想いもあって、第2期工事の完成を待たずに、陸上競技場の整備が終わった時点で「新グラウンドオープニングセレモニー&イベント」を開催しました。グラウンド改修の実現にご尽力いただいた方々に多数ご出席いただくにあたり日程調整がなかなか大変でしたが、去る5月29日に無事「新グラウンドオープニングセレモニー&イベント」を開催することができました。
 オープニングセレモニーには、今後、このグラウンドを利用することになると思われる近隣の小中学校の校長先生や地域の代表の方々も招待させていただきました。本学の施設である新グラウンドは地域の皆様と共存していくものだからです。
中西 グラウンドのリニューアルをきっかけにキャンパスのサービス機能を拡張し、地域活性化への貢献を加速させるという大学の姿勢の表れでもあります。第1部のセレモニーでは、学長挨拶や新グラウンドなど施設に関する説明、来賓祝辞と続き、テープカットの際には、大西先生が小白川キャンパス長として高らかに施設の「コモンズ化宣言」をされました。さらに、花笠サークル「四面楚歌」の演舞も披露され、とても華やかな雰囲気に包まれました。
大西 晴天に恵まれたこともあり、空の青と人工芝のグリーン、トラックの赤茶色のコントラストが見事でした。セレモニー終了後のイベントは自由参加でしたが、ホームページや新聞記事での情報発信により本当にたくさんの方々にお越しいただきました。皆さん、グラウンドの立派さに感心し、ぜひ、使ってみたいといった反応でした。
中西 オープニングイベントは「健康と学びのサポートセンター」が企画を担当し、ブラインドサッカーやラグビー、モルックなどのスポーツ体験を実施しました。子どもたちもワイワイとても楽しそうでした。
 グラウンドでのスポーツに加えて、キャンパスツアーとして文化ホールでの音楽コンサート、図書館や日曜日に開館することの少ない博物館などの公開も行いました。地域の方々からはそちらの文化的な企画も大変好評で、特に、文化ホールでの音楽コンサートは立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。
大西 地域の皆さんが大学に足を運ぶ良いきっかけになって、小白川キャンパスを少し身近に感じていただけたのではないでしょうか。

オープニングセレモニー1

オープニングセレモニーで挨拶する玉手学長。

オープニングセレモニー2

オープニングセレモニーで祝演披露する四面楚歌。

来春には拠点施設が完成
大学ならではの
高度なサービス提供が可能に

――現在進められている第2期工事の注目点を教えてください。
中西 令和4年度の整備では、野球場などとして利用される多目的グラウンドとテニスコート、そして拠点施設の工事が進んでおり、来春完成の予定です。拠点施設では、スポーツデータの分析などができるようになるほか、セミナーハウスや実験施設としても機能するようになります。フォースプレートと言って、床に設置されたセンサーで床を蹴る力などを計測する装置やスポーツの動きをカメラでモニターできるシステムなども導入されます。本学にはスポーツ科学の教員もいるので、大学ならではの科学的な分析が受けられる点も大きなメリットと言えます。
大西 第1期工事で陸上競技とサッカーやラグビーが格段に良い環境で競技ができるようになりましたから、第2期工事が完了すればさらにできることが増えるということで、周囲の期待も高まる一方のようです。

教育・研究・部活を優先しながら
1年間の試行期間を経て
地域貢献として
外部への貸し出しも

――現在、新グラウンドはどのように利用されているのですか。
中西 大学のグラウンドですので、県や市の競技場とは違い、教育研究や課外活動をメインに、それに支障をきたさないように外部への貸し出しを行う方針です。授業、部活、地域貢献という3つの用途で上手に調整しながら適切に回していくことになります。1年間かけて試行し、キャパを確認しながら貸し出し方法を固めていくことにしています。
 現段階では、山形県サッカー協会や山形陸上競技協会といったスポーツ関連団体を通しての貸し出しで安全性や機能性といった部分の検証を行なっているところです。また、ただ単に施設を貸し出すというのではなく、例えば、スポーツ科学の先生による連携授業を行うなど、大学らしい付加価値を付けた貸し出し方をしていく方向で考えています。「健康と学びのサポートセンター」の事業としては、高い専門性を誇る教員の協力のもと新グラウンドを利用したイベントや活動を既にいくつか実施しています。
大西 施設の維持管理には施設利用料などを充てることになっていますが、料金設定もこれからですので、本格運用はそれらの準備が整ってからということになります。第2期工事で野球場やテニスコートが完成すれば、利用希望者はますます増えることでしょう。その期待に応えるためにも運用上の環境を整えることが非常に重要ですので、いましばらくお待ちください。

新グラウンド全景

ドローンにて上空から撮影した新グラウンド全景。

子どもからトップアスリートまで
幅広いスポーツ支援に加え、
心の健康に関するプログラムも

――「健康と学びのサポートセンター」で行っている事例をご紹介ください。
中西 まず、5月にJTU(日本トライアスロン連合)が寒河江市でパラトライアスロン強化合宿を行ったのですが、その際に新グラウンドを使用し、本学の教員が技術指導を行なったという実績があります。また、陸上部の卒業生と現役の学生が一緒に練習する場を提供しています。社会人アスリートがプレイングコーチとして学生にアドバイスしたり、学生が社会人の練習相手になったり、一緒に練習することで互いに高め合い、そこに大学の知を融合させることでさらにレベルアップし、競技会での活躍も目立ってきています。こうした経験は、将来、中・高校生たちを指導できる地域人材の養成にもつながり、ひいては、地域スポーツを盛り上げる人材や企業などを支援することにもなります。
 子どもたちを対象とした事例としては、山形市内の第八小学校の6年生を対象に陸上教室を開催し、教員と学生が指導を行いました。また、県大会に出場する本学附属小学校の子どもたちが自分たちで練習を計画し、定期的に大学のグラウンドで練習しています。結果、6年生男子400mリレーチームが東日本都道県小学生陸上競技交流大会で優勝しました。
 今後の予定としては、ラグビーフットボール協会との間でラグビー体験会を企画しています。学生たちにも関わってもらい、大学ならではの体験会にしたいと考えています。学生たちにとっても良い経験になることでしょう。
 子どもから社会人、トップアスリートまで、幅広い層へのサービスを展開していきたいと考えています。
大西 スポーツは、医療や小・中・高校教育にも関わってきますから、総合大学という点も大きな強みです。実際、小白川キャンパスの文化施設での音楽コンサートや公開講座などで大学に足を運んでいただく機会はスポーツ以外でもいろいろ広がっていくと思います。
中西 そうですね。先程も申しました通り、「健康と学びのサポートセンター」は体の健康だけでなく、心の健康や豊かさに関するサービスも行っていくということで、現在、親子で遊びながら「子どもの発達や心の健康などに関する講座」について学ぶ親子の集いを行っています。本学には、心理学関係の教員もたくさんいますのでアドバイスをしたり、相談に乗ったりと育児教室的なサポートを行っています。参加者同士の交流や情報交換ができる場としても喜ばれているようです。

地域の人々と共に創る
「共創拠点」
地域と大学、
ウィンウィンの関係で
ともに、つねにバージョンアップ

――小白川キャンパスの今後の展望をお聞かせください。
大西 春は桜、秋は銀杏、ただキャンパス内を歩くだけでも気持ちがいいですよ。これからも環境整備を進めて、いろいろな方々に気軽に訪れていただけるキャンパスにしていきたいと考えています。ただ、それは我々大学側だけで築けるものではありません。誰もが自由に、安心して訪れることのできるキャンパスであり続けるために、地域の皆さんには基本的なルールやマナーを守っていただくという協力をお願いしたいと思います。
中西 来春には第2期工事が完了し、野球場やテニスコート、拠点施設ができると、新しいサービスや一段階レベルアップしたサポートができるようになると思うので、今のうちに地域社会にはどういったニーズがあるのかを調査していこうと思います。すべて完成した暁には、地域の方々に技術指導やデータ分析などのサービスを提供し、それらのデータを実験あるいは研究に活用させていただくことで大学の研究も発展し、地域の人材育成にもつながる、そんな地域と大学のウィンウィンの関係が成立するような事業を実施していきたいと考えています。
大西 大学は、研究も施設もバージョンアップしていかなければなりません。それらを地域の方々に還元し、地域の方々からは様々なカタチでの協力をいただく、山形大学が目指すのはそんな双方向のコモンズ化です。その第一歩として、どうぞお気軽に大学に足をお運びください。
中西 人と人、地域と大学、大学と企業……、多様な「つなぐちから。山形大学」を小白川キャンパスでご体感ください。

大西先生と中西先生

つづきを読む

なかにしまさき

なかにしまさき●教授/専門分野は情報科学、地域教育文化学部長。2021年6月「健康と学びのサポートセンター(CWB)」センター長就任。キャンパス内施設のコモンズ化に向けた有効活用、環境整備を担当。

おおにしあきまさ

おおにしあきまさ●教授/専門分野は光物性、電子物性。2022年4月小白川キャンパス長就任。「新グラウンドオープニングセレモニー&イベント」では、高らかにキャンパス内施設の「コモンズ化宣言」を行った。

※内容や所属等は2022年10月当時のものです。

他の記事も読む