つなぐちから #12

渡辺理絵×芳賀弘康×上野直也×大滝由吉

「焼畑あつみかぶ」を
“持続可能な生業”へ。
大学と生産者、行政がスクラム

2023.09.15

「焼畑あつみかぶ」を“持続可能な生業”へ。大学と生産者、行政がスクラム

 山形県鶴岡市温海地域の在来作物「焼畑あつみかぶ」は、伝統的な有機農法「焼畑」により栽培される。しかし近年は、火入れに必要な燃焼材となる枝葉と労働力の不足が課題になっている。枝葉の代替として注目を集めているのが、可燃性が高く焼土効果も高められる「杉葉」。温海町森林組合の森林整備の過程で生まれた杉の枝や葉を再利用する方法だ。
 山形大学農学部食農環境地理学研究室では渡辺理絵准教授をはじめ学生たちが、現地で杉葉の運搬や敷き詰めの作業を手伝いながら、焼畑に必要な杉葉の量や労働力を検証し、焼畑農家の杉葉利用の実効性を探っている。2023年夏から焼畑で杉葉の活用を試している越沢地区で、農学部の渡辺准教授、農学研究科修士1年芳賀弘康さん、鶴岡市役所の上野直也さん、越沢三角そば生産組合の大滝由吉さんに話を伺った。

地域が成長し
進化していく過程を、
ともに歩む

――越沢で「焼畑あつみかぶ」の栽培が始まったきっかけを教えてください。
大滝 栽培を始めたのは、3年ぐらい前かな。
上野 鶴岡市の「焼畑あつみかぶ栽培チャレンジサポート支援事業」ですよね。高齢化などで焼畑あつみかぶの生産者が年々減ってきているので、市で新しく取り組む人を育てようと事業を始めたものです。その事業に越沢三角そば生産組合が申し込んで、今年で3年目の活動になります。
大滝 越沢には、もともと生産者17人からなる「越沢三角そば生産組合」があって「越沢三角そば」を栽培しているんだけど、そばの単一栽培ではリスクがあるので、そば以外でも収益を上げられないかと模索していました。そこに、焼畑あつみかぶを作ってみないか?という温海庁舎からの話があり、支援事業を活用させてもらって組合の中に「焼畑あつみかぶ生産グループ」を立ち上げたんです。労働力の基本は越沢三角そば生産組合の組合員たちですが、火入れや収穫時期には地域住民の力も借りています。
渡辺 私たちの研究室は中山間地の「生業」や「集落」がどうすれば持続できるか、主に鶴岡市温海地域の皆さんのお世話になりながら研究しているんです。温海地域には27の自治会があるんですが、中でも越沢は地域ぐるみの活動が多く、住民の方々の“一体性”というものを非常に強く感じます。焼畑は火入れが大変だから、昔は村ぐるみでやっていたところが多かったんですね。それぞれの家から人を供出して、「入会」のようなカタチで行っていました。そういうグループみんなで楽しみながらやる、というスタイルは焼畑あつみかぶの生産者を増やす一つの方策として有効と思っています。そのような焼畑のやり方をきっと越沢ならできるだろうと思っておりまして、そこに研究室も関わりながら、おこがましい言い方ですけど「地域が成長し進化していく過程を、ともに歩みたい」と、越沢の焼畑を初回から手伝わせてもらっています。3年目になります。

焼畑あつみかぶ生産グループのメンバーとともに渡辺准教授、留学生、学生たちが杉葉をトラックに積み込み、畑へと運ぶ

――手応えは、いかがですか。
大滝 実際この3年、焼畑あつみかぶを栽培して組合員みんなの収益にもつながっています。今は地元のお母さんたちにも収穫や洗浄、箱詰めなどをお願いして、それがお母さん方のちょっとしたお小遣いになっているので、喜ばれています。そういうのを、これから増やしていきたいと思っています。

――杉葉を燃焼材にした火入れは、今年からですね。
上野 これは、市で令和3年度から取り組んでいる「スギ葉マッチング事業」の一環です。温海町森林組合が森林整備を行った時に発生するスギ葉を生産者に提供している事業で、越沢では今年から利用していただいています。この事業は焼畑あつみかぶの「品質向上」のために始めた事業で、圃場の雑草などを燃やしただけでは、土壌づくりに不十分な場合があって、かぶの品質が悪くなる。そういったケースが増えてきていたので、弱くなった地面の力を、杉葉で焼畑を行うことで補い、品質を上げようとして始めた試みなんです。
渡辺 研究室と越沢の皆さんとの関わりは焼畑を始める前からなんです。ですから、お互い気心も知れてきて越沢の人たちに“わがまま”を言える状況になりまして、「越沢で杉葉を使った焼畑をやってみませんか」と、提案させてもらったのが今年です。もともと温海では、杉伐採の跡地で焼畑をすることが多かったんです。しかし山の杉木が売れなくなったことで「伐採跡地」がなくなり、焼畑の場所も採草地や法面、畦畔という場所に変わっていきました。ただ(大滝)由吉さんぐらいの年齢の方は、杉伐採跡地での焼畑を幼少期に見たり聞いたりしていて、よくご存知なんです。
大滝 自分たちの上の世代は昔、杉伐採の跡地でソバやカブを作っていたんですよね。これから杉葉を使って無農薬、無肥料でやることになる。
渡辺 今年の焼畑の場所はもともと水田だった場所なんです。水田の跡地で杉葉を使う焼畑というのは、ほとんど例がないと思います。畑や法面などの傾斜地より水はけが良くないので、カブの栽培には必ずしも適していないため、杉葉を用いたとしても生長はどうなるかわからないというところです。
大滝 今年杉葉で挑戦する場所以外にも3、4カ所、候補地があるので、この先10年、2年周期くらいのサイクルで続けていけると期待しています。やっぱり傾斜の適したところでないと、いいカブはできないとは思うのですが。

――「焼畑あつみかぶ」を知って、また実際に作業を体験してみて、どうでしたか。
上野 実際やってみて大変だな、と思いました。私自身、サラリーマンの家に育って焼畑あつみかぶも、それまでは「食べる専門」でした。栽培方法とか「(杉葉の)天地返し」とか、いろんな工程を学んでいる感じです。
芳賀 鶴岡市に来て焼畑あつみかぶのことを初めて知って、地元(福島県)ではなかなかない取り組みだなと思いました。山とか耕作放棄地とか、どちらも地域の資源なのに放置されている一方なんで、杉葉という資源を利用するのは有意義な取り組みだなと思っています。実際にやってみて、杉葉が濡れていたのもあって結構重労働でしたね。温海町森林組合の皆さんとの情報交換とか連携とかを進めて工夫していければ、もっと負担を軽減できるのかなって、作業しながら思いました。

畑に杉葉を敷き詰めて燃やすことで土壌を改良。

そこに種をまいていく

――「焼畑あつみかぶ」のこれからの課題は? 
渡辺 杉葉マッチング事業については、焼畑の面積に応じた杉葉の必要量、枝葉の選別や運搬にかかる労働時間など農家の方の負担感を見極め、今後ほかの現場でも実現可能なのかといった検証が必要です。
上野 作るだけでは意味がないので、今後、ちゃんとお金も稼げるようにして、生業として続けられるようにしていきたい、ということを考えています。ある程度収入が見込めないと後継者も出てこないですからね。
大滝 越沢ならカブとソバ。それから例えば山菜。冬場は厳しいですが、越沢にはいろんな農産物があるので利益を上げていく方法はあると思います。

研究室はもちろん、渡辺准教授の授業の受講生、留学生ら多くの学生が参加。鶴岡市役所の上野さん、焼畑あつみかぶ生産グループのメンバーとともに作業に当たった

共に作業し、飲み交わし
育んできた地域と大学の絆

――これまでの研究室の越沢での活動を振り返って、いかがですか。
渡辺 越沢でお世話になっているのは、焼畑だけじゃなくて、お祭りにもお手伝いとして関わっています。10月の下旬に「越沢新そば祭り」というイベントが集落内にある「まやのやかた」で行われています。毎年、行列ができるほどの盛況ぶりです。このイベントに研究室の学生が助っ人として参加しています。2022年の時は「越沢三角そば」を使ったお菓子を開発して、待っているお客さんに振る舞いました。最初は「そばクレープ」を考えたけどやめて。何になったんだっけ?
芳賀 そばクッキー。「開発」まではいかないですけど、試行錯誤して。
渡辺 このような関わり以外にも学生が越沢に住み込んで卒業研究したりと、非常にお世話になっています。
大滝 今、ソバを中心に山大生とか先生たちとか、いろんな人たちとの関係が生まれているのを、良いことだなと感じています。自分たちの取り組みの良さも自分たち自身だけではわからないけれど、いろいろ関係してみることで、気付くことができる。
芳賀 去年、いろいろカブの収穫とか、集落のお祭りとか参加させてもらって、皆で集まってお酒を飲む機会もあって。そのときに皆さん仲良くて、さっき先生もおっしゃっていたんですけど「一体感」があったのが印象に残っています。
大滝 ただ一緒に飲み食いするだけでなく、一緒にいろんな活動もしてくれて、卒業してからも越沢をずっと思い出してくれる、それだけで我々としては嬉しい話。学生さんたちがあんまりかしこまらずに自然体でいてくれて。同じ農業を体験してもらう機会も多い。その辺は我々が唯一与えられるっていう。難しいことは分からないけれど、体験したことは教えられる、っていう面もあります。
上野 卒業まで、あとどれくらい?
芳賀 僕は10月入学なんで、あと1年くらいですね。修士論文の研究では鶴岡市に「将来こういう地域にしたい」っていうのを各集落がワークショップ形式で話し合ったのをまとめた「地域ビジョン・集落ビジョン」というものがあって、この中の空き家について、合意形成の過程などを聞き取り調査して探っていければな、というのを考えています。そのときにまた越沢の方々にも、お世話になりたいと思っています。

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わたなべりえ

わたなべりえ●山形大学農学部環境地理学研究室准教授。山形が誇る「焼畑」のような特徴的な農法、多様な在来作物に代表されるような中山間地の地域資源の維持と活用、景観保全、食料品店アクセス問題などの研究に取り組んでいる。専門分野は食農環境地理学。

はがひろやす

はがひろやす●農学研究科修士課程1年。東洋大学法学部卒業後、鶴岡市で民間企業に1年間就業。地域づくりについて学術的な知識を学ぼうと、2022年10月に山形大学大学院に入学。修了後は地元福島県で家業を継ぎ、地域のさまざまな可能性を探っていく予定。

うえのなおや

うえのなおや●2003年鶴岡市役所入庁。観光・商工などの部署を経て、2023年4月に鶴岡市温海庁舎産業建設課に着任。「焼畑あつみかぶ」「越沢三角そば」をはじめとする農業振興などを担当、「焼畑あつみかぶブランド力向上対策協議会」の事務局を務めている。

おおたきよしきち

おおたきよしきち●「越沢三角そば生産組合」組合員。在来作物の認定を受けた「越沢三角そば」を8年前から栽培しており、つなぎに自然薯を使用したそばを提供する「越沢そば処まやのやかた」館長も務める。2019年から焼畑あつみかぶづくりを始めた。

※内容や所属等は2023年8月当時のものです。

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