つなぐちから #09

三上英司×佐藤朱美×三澤由有実

地域の取り組みに学ぶ
「KIRAキッズクラブ」ボランティア

2023.02.15

地域の取り組みに学ぶ「KIRAキッズクラブ」ボランティア

雛とべに花の里、山形県河北町の河北町国際交流協会KIRA(Kahoku International Relations Association)が、子どもたちの国際交流、多文化理解を深めることを目的に行っている活動がKIRAキッズクラブ。ワークショップ型のさまざまなイベントに地域教育文化学部の三上英司教授のゼミ生が代々ボランティアとして参加している。主役である小学生、ボランティアとして参加している大学生や高校生、中学生、それぞれに学びと成長があるという。2022年第2回の活動「クリスマスカードを作ろう!」の終了後に、KIRAの発足当初から企画や運営に携わっている佐藤朱美さんを囲み、三上教授、山形学院高校教員の三澤由有実さんが連携のきっかけや今日の活動の振り返り、そして今後の展望などを語り合った。

「KIRAキッズクラブ」と
活動を共にした14年

――山形大学とKIRAの連携のきっかけや活動内容を教えてください。
三上 以前、山形大学が国際交流、国際理解をメインテーマとしていた時期があり、それを担うコースとして地域教育文化学部には異文化交流コースがありました。しかし、交流活動の専門家は少なく、国際交流活動を実践している地域に学ばせてもらうのが最善ではないかとなりました。そのことを学生に話すと、自分の母親が町で国際交流活動を行っているから是非見に来てほしいと言ってくれた学生がいて、それが当時大学院生だった佐藤さんの息子さんだったんです。実際に地域の子どもたちと外国の方々が交流を通して学び合う姿がそこにあって、私が考えるコンセプトにぴったり合っていたので、是非参加させてほしいとお願いをしました。14年ほど前から続いています。
佐藤 KIRA自体の設立は1996年で、キッズクラブの活動を始めたのは2002年からです。県の国際交流員や町のALT(外国語指導助手)、大学生と地域ボランティアの協力のもと、ゲームやモノづくりを通して異文化や多様性に気づき、それらを大切にする心を育んでいます。当初は、息子と息子の友達の大学生数名とKIRAの地域ボランティアで手探りの状態でやっていて、なかなかスムーズな活動ができていませんでした。多い時で子どもたちが35人ぐらい集まる時がありましたから、ボランティアがまだまだ足りなくて三上先生からの申し出は大歓迎でした。三上先生が大学生を連れて来てくれるようになってKIRAキッズクラブの活動のリズムが整っていった感じですね。
三上 私のゼミの学生は代々このボランティアに参加し、ここで人間関係を学んでいます。現在、山形学院高校で教員をしている三澤さんも私のゼミの学生で、先輩から受け継いで参加していました。三澤さんはいろんな活動に参加して活躍していた非常にアクティビティの高い学生だったので、母校で教員になると聞いて、またいつかこの活動に参加してくれるだろうと思っていました。そしたら、本人だけではなく高校生を連れて来てくれたので本当に嬉しく思っています。
三澤 学生の時は先生や先輩に言われてなんとなく参加していましたが、正直、最初の頃は小さい子どもとの交流にも、国語の教員を目指していたこともあって英語を使ったボランティアにはあまり興味がありませんでした。でも、参加を重ねるうちに年の離れた子どもたちとの関わり方や距離のとり方がわかり、一対一だけじゃなく周りの人の動きも見えるようになってからは楽しくなりました。実際、教員になった今、クラス全体を見る感覚とかを養ってもらったように感じています。

KIRAキッズクラブの様子

KIRAキッズクラブ開催時の様子。

キッズがボランティアとして
帰って来る喜び

――今日も含め、これまでの活動でどんな手応え、成果を感じていますか。
佐藤 この活動はもともと外国の文化を楽しむ、外国人との交流を目的に始めたのですが、やっていくうちに外国の文化だけが異文化ではない、年代とか居住地とか、ジェンダーが違えば、それら全てが異文化だなあと。大学生は出身地がいろいろだし、今日は高校生も中学生もボランティアとして参加してくれましたから、クリスマスカード作りを通して自然に異文化交流ができるようになっているのが、私はすごくうれしいです。
三上 確かに、国際理解や国際交流は別に外国を学ぶだけではなく、むしろ外国を学ぼうとすることで自分の周りにいる誰かを理解しようとする能力を身につけているのかもしれません。山形大学が目指す国際交流、国際理解はまさにそれだと思います。今日ボランティアで参加してくれた中・高・大学生の半数近くがキッズクラブの卒業生だそうですね。それだけ、ここで過ごした時間が楽しかった、誰かとつながる誰かを理解することを楽しいと感じた、だから、今度は自分がボランティアをやってみたいと思って来てくれているのでしょう。
佐藤 そうですね。小学6年生に修了証書を渡すんですが、来年も来たいというので中学生ボランティアとして3〜4人ずつ来てもらっています。最近、20年前のキッズが鮭のように戻って来てくれまして、長年やっていて何よりの喜びです。
三上 KIRAキッズクラブの活動を20年以上続けてくれているおかげで私たち山形大学のボランティアチームも視野を広げて人とつながる力を身につけさせてもらっています。学生のうちからボランティアに参加したかしないかで社会に出てから大きな違いが出てきます。
佐藤 一般的にはボランティアを集めるのは大変ですが、ここは、ボランティアがたくさん来てくれるようになってキッズよりも多いこともあります。役割は違ってもみんなが参加者と思って、そこでの交流を楽しんでもらうようにしています。来るものは拒まず、です。
三上 中学生から大学4年生まで、今日のボランティアの年齢層は本当に幅広かったですね。コミュニケーション能力というと自分のことを相手に伝える力と思いがちですが、一番大事なのは人と人をつなぐことができる力です。今日、現場に入って参加者名簿を見て、学生には「キミたちの今日の役割は中高校生ボランティアと小学生をつなぐことだよ」とだけ伝えました。事前指導はしていません。教えられたことを現場でリピートすることは、逆に現場対応能力を下げてしまうからです。結果、それぞれ自分が担当したグループのメンバーや雰囲気を感じ取って一生懸命に動いてつなげてくれていたので担当教員としては何も言うことがありませんでした。
三澤 今日は、初めての生徒2人と2回目の生徒1人を連れて来ました。1回目は人と話すことや子どもとの接し方がわからないと言って何もできずにいた生徒が「今日はこの前より良くできた、楽しかった」と自分から報告に来てくれたんです。人と一緒に作業をすることやコミュニケーションできたことが嬉しかったみたいで、自己肯定感が増しているようで、成長が目に見えて私も嬉しかったです。続けることが大事なんですね。
三上 この前の活動からわずか2カ月でこんなに変わるんだ、自分を認められるようになったんだと私も感心して見ていました。今日は本当に動きが良かった。動きがいいと小学生もうれしい反応をするし、その反応に本人も嬉しくなって、今日一日の中でも成長できたと思います。その成長スピード、若いっていいなあとしみじみ思いましたよ。

KIRAキッズクラブの様子

KIRAキッズクラブの様子

中・高・大学生という幅広い年代のボランティアと子どもたちが交流を深めている。

試行錯誤しながら続ける、
つなげることを大切に

――印象に残っているエピソードや苦労話などはありますか。
佐藤 いつも活動の最後に子どもたちに発表をしてもらうんですが、そのプレゼンテーションができずに泣いてしまった子がいました。私はなんとか励まそうとして声を掛けてさらに泣かせてしまったんです。毎回、活動後に三上先生からいろいろご指導いただくんですが、その時に受けたご指摘がとても印象に残っています。私も少しずつ学んで、改善できる点はするように心掛けています。
三上 大人は、大人ができることを少し簡単にすれば子どももできると考えがちです。でも、それはできる人間の驕り、できるようになるまでの小さなステップを無視していきなりやらせようとすると子どもはフリーズしてしまいます。できなくて悔しくて泣いている子どもに励ましの言葉は逆効果、かえって辛い気持ちにさせてしまいます。そういう時は誰かがそばにいて気持ちが落ち着くまでそっとしておく方がいいんです。私は大学の児童教育コースで教員養成を担当し、人の芽を摘まないようにするにはどうすればいいかを教えています。そういう人間がこういう場に参加してお役に立てることが少しはあるのかなあと思っています。ここでボランティアに参加して、その後、県内外で小・中・高校の先生をしている学生たちの授業を見に行くことがあるんですが、その授業する姿とボランティアをしていた頃の姿がピタッと重なって、ここでの経験が生きていることを実感します。
佐藤 苦労話というか、最初の頃はボランティアを集めるのがなかなか大変でした。それと、やはりコロナですね。外国料理がいっぱい食べられるというのがこの活動の魅力の一つだったんですが、それもできなくなって、活動自体も難しくなって。でも、三上先生から時間や人数を縮小してでも、イレギュラーでも続けることが大切だよと言われて、頑張って続けてきました。外国料理を振る舞えなくなっても意外に子どもたちが来てくれたので良かったです。
三上 山形大学の学生たちはとても快くボランティアに参加してくれるのですが、問題は河北町まで連れてくる交通手段が少し大変ですね。今はOBOGに車を出してもらって助かっています。そのお礼に年に一度の芋煮会に招待して少し恩返ししています。

――今後の課題や展望、抱負などをお聞かせください。
佐藤 ただただ続けること。あとは、外国料理を振る舞う料理ボランティアの復活ですね。料理ボランティアの人たちは外国料理を作るノウハウを一から何年もかけて築き上げてくれたので、コロナが収まったら是非戻ってきてほしいと願っています。そして、KIRAキッズたちも三上先生が連れてきてくれた学生ボランティアの人たちも鮭のように帰ってきてくれるといいなと思っています。KIRAにとっては貴重な財産ですから。それから、さっきも言ったようにKIRAキッズクラブは、来る者は拒まずですので、キッズもボランティアも町内の人に限定していません。コロナ後は、山形や天童、寒河江からでも興味がある人はどなたでも歓迎します。
三上 佐藤さんがおっしゃったように一番大切なのは続けること。人は時として花火を打ち上げたくなるものです。例えばメディアに取り上げられることとか、でも、そんな瞬間的なことは地域に影響を与えません。とにかく継続。その先にどんな花が咲くか。ここでボランティアを経験したOBOGがそれぞれの現場で力を身につけて戻ってきてくれて花を咲かせてくれるとうれしいですね。
三澤 私は教員になって3年目、そして生徒たちを連れてくるようになってまだ1年目ですが、自ら行きたいと言ってくれる生徒が増えてきているので、それが続いてくれるといいなと思っています。そのためにも私は生徒たちへの声掛けとか、システム作りをしっかりしていきたいと思っています。
三上 最近は大学入試も多様化していて、社会的活動をしておいた方が有利とか、単位として組み込むとかもあるようですが、そういった見返りありきの活動は真のボランティアとは言えません。ボランティアの人には、上手下手ではなく、本気で接するというモチベーションで参加してほしい、純粋なボランティアチームであり続けてほしいと願っています。佐藤さん、後継者にバトンタッチするまで一緒に頑張って続けていきましょう。三澤先生も引き続き宜しくお願いしますね。

三上先生

談笑する3人

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みかみえいじ

みかみえいじ●山形大学学術研究院教授。専門分野は漢文学・漢文教育、学士課程基盤教育機構長。着任以来、文化理解・多文化共生活動に取り組む。県内外の高校等からの出張講義の依頼も多い。

みさわゆうみ

みさわゆうみ●2020年3月山形大学地域教育文化学部を卒業。三上先生のゼミ生OGで、大学在学中からKIRAの活動に参加。現在は母校でもある山形学院高等学校に国語科教員として勤務して3年目。

さとうあけみ

さとうあけみ●河北町国際交流協会KIRAボランティアコーディネーター。河北町役場勤務時代に外国語指導助手や外国の姉妹都市交流を担当し、協会の設立にも尽力。現在もKIRAのイベント企画を担当。

※内容や所属等は2023年2月当時のものです。

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