ホーム > 新着情報:プレスリリース > 2024年09月 > AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった
掲載日:2024.09.24
本発表の主なポイント
https://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.2407652121
概要
山形大学ナスカ研究所とIBM研究所の共同研究の成果が、米国科学アカデミー紀要[Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)]に掲載される。論文名は"AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose "(AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった。)です。現地調査を効率的に実施するためには、地上絵が分布している可能性が高い場所を同定する必要があった。そこで、人工知能の助けを借りて、飛行機から撮影した膨大な量の空中写真を分析した。その結果、わずか6か月間で303個の新しい具象的な地上絵を発見した。IBMのAIを使用することで、地上絵の発見率が16倍も高まった。面タイプの具象的な地上絵が大量に発見されたことで、これらは線タイプの地上絵とは、様式・規模・分布において差異があることが分かった。線タイプと面タイプでは、モチーフにも差異がある。前者は、直線と台形のネットワークに沿って分布しているが、後者は曲がりくねった小道沿いに分布している。線タイプの具象的な地上絵は、共同体の儀礼のために制作された。一方、面タイプの地上絵は、小道から見える「掲示板」のようなもので、主に家畜や首級に関連する活動を共有するために制作された。
背景
ナスカの地上絵は、ユネスコの世界文化遺産として広く知られている。これらの地上絵は、少なくとも2000年以上前に描かれ、1920年代に発見された。これまでの研究では、動物や植物、道具などを描いた具象的な地上絵が430個確認されており、そのうち318個を山形大学ナスカ研究所がリモートセンシング技術(人工衛星、航空機、ドローン)を用いて発見した。しかし、ナスカ台地は約400平方キロメートルに及ぶ広大な地域であるため、高解像度の航空写真を全て目視で確認し、全域の現地調査を実施することは時間的に困難である。この調査を加速するために、山形大学とIBM研究所が提携し、IBMの先進的な人工知能技術を活用した。その結果、本研究は米国科学アカデミー紀要(PNAS)に受理される運びとなった。
研究方法と結果
地上絵発見にAIを使用する際の課題の1つは、トレーニングデータの量が限られている点である。この課題に対処するため、IBM研究所は、少量のトレーニングデータでも高いパフォーマンスを発揮する強力なAIモデルを開発した。このモデルにより、地上絵が存在する可能性の高いエリアを特定することが可能となった。AIモデルが提示した地上絵の候補の中から、平均36件を精査することで、地上絵の可能性が高い候補を1件見つけることができた。これはこの種の作業において画期的な成果である。合計1309件の有望な候補が特定され、その約4分の1について現地調査を行った結果、わずか6か月間で303件の新たな具象的地上絵が発見され、既存の具象的地上絵の数はほぼ倍増した。具象的地上絵の数が増加したことで、ナスカ台地における地上絵のモチーフや分布の分析が可能となった。面タイプの地上絵には、人間自身や人間によって飼育された家畜、加工された首級などが主に描かれている。これらの地上絵は通常、ナスカ台地を縦断する曲がりくねった小道から見える。おそらく個人または小規模なグループが制作し、観察していたと考えられる。一方、巨大な線タイプの具象的地上絵には、主に野生動物が描かれている。これらは、直線や台形の地上絵ネットワークに沿って分布しており、おそらく共同体レベルで儀式的な活動のために制作・使用されたと考えられる。
今後の展望