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山形県の地域住民疫学研究から世界基準の確立へ

掲載日:2016.11.15

教授 加藤丈夫(神経内科学)
 

 山形県の地域住民を対象とした疫学研究は昭和54年(1979年)に舟形研究からスタートし、現在も継続的に行っています(図1)。舟形町の地域住民を10年以上に亘り追跡調査した結果、糖尿病でなくても、食後に血糖値が高くなる人は脳卒中や心筋梗塞による死亡が増えることを明らかにしました(1999年)。この結果は、その後、世界各地の疫学研究でも確認され、2002年には「米国糖尿病学会の指針」に採用され、2007年には「国際糖尿病連合の糖尿病治療ガイドライン」に採用されました(図2)。本邦では、2009年頃より糖尿病専門医の間で認識されるようになりました。食後の高血糖を抑えるには、(1)過食しないこと、(2)最初に野菜を食べ、糖質(ご飯、パンなど)は後に食べること、(3)食後30分位に軽く体を動かすこと(食器の後片付けや散歩など)、が重要です。男性の方は食器の後片付けをすると、ご自身の健康によいだけでなく、奥様にも喜ばれます。

 認知症の分野でも新たな一歩がありました。認知症をきたす疾患の1つである特発性正常圧水頭症(iNPH)は脳外科的手術で症状が改善するので、「治療可能な認知症」として見逃してはいけない疾患です。これまでiNPHは稀な疾患とされてきましたが、山形県高畠町・寒河江市の地域高齢住民の全参加者に脳MRI検査(図3)を行ったところ、予想以上に多くの高齢者がiNPHに罹患していることが分かりました(2009年)。さらに、10年間の追跡調査により、正常とiNPHの中間に位置する状態が存在することが明らかになりました(2009年、2014年)。この状態はこれまで認識されていなかった新しい概念なので、私達はAVIM(エイビム)(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)(図4)と命名し、現在、多くの研究者が用いています。この成果は、日本正常圧水頭症学会編「特発性正常圧水頭症診療ガイドライン」(第2版:2011年)でも紹介されました。

図1 舟形町糖尿病健診の風景(舟形小学校の体育館、2000年)の画像
図1 舟形町糖尿病健診の風景(舟形小学校の体育館、2000年)

図2 世界基準を創った舟形研究の画像
図2 世界基準を創った舟形研究

図3 高畠町の高齢住民の健診風景(左:脳MRI検査、右:頸部血管エコー検査 2000年)の画像
図3 高畠町の高齢住民の健診風景(左:脳MRI検査、右:頸部血管エコー検査 2000年)

図4 特発性正常圧水頭症(iNPH)はAVIM(エイビム)の状態を経て発症する。<br>AVIM: asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MR
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図4 特発性正常圧水頭症(iNPH)はAVIM(エイビム)の状態を経て発症する。
AVIM: asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MR

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