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注目の研究数物系科学

新物質の結晶構造を解析 -成功率とスピードアップを支える数学理論-

掲載日:2017.04.25

准教授 富安亮子(数理科学)

 山形大学の富安亮子准教授と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の神山崇教授は、グラフの解析に関わる数学理論を、粉末X線・中性子線回折測定装置より得られる実験データに適用することで、従来のものと比較して結晶格子決定の成功率・計算効率ともに大きく改善されたソフトウェアを開発しました。

 粉末回折測定装置は多くの製造企業や試験研究機関で日常的に使われており、解析の信頼性や自由度の向上は、新物質開発のスピードを向上させるための重要な鍵となっています。富安准教授は、粉末回折法の解析に現れる様々な問題に、整数論で議論される問題と非常によく似た形に定式化できるものがあることに気づき、プロジェクトメンバーと議論を重ねる中で、粉末回折図形の格子決定を解くアルゴリズムを開発しました。このアルゴリズムはプログラムとして実装され、ソフトウェアCONOGRAPH(コノグラフ)として、2013年よりKEKが管理するサーバで配布されています。

 今回開発したソフトウェアは、他の標準的に使われている既存ソフトウェアと明確な基準の下で行った比較において、他ソフトウェアが成功率40-60%の実験データに対し、80%の成功率が得られました。他のいずれかのソフトウェアが解析に成功したケースで全て成功していることに加え、他のどのソフトウェアでも出来なかったケースでも成功しています。また計算時間は、結晶学で徹底探索に分類される指数付けソフトウェア DICVOLと比較して1/5でした。

 本研究では「代数学で使われるグラフ解析の議論を結晶構造解析の格子決定に用いる」という新しい視点から改良した解析ソフトウェアが開発されました。本研究の成果は、国際結晶学連合が発行する学術雑誌 Journal of Applied Crystallography の 2017年4月号に掲載されました。

結晶性の物質は、ある一つのまとまり(単位胞)を3方向に積み重ねた、レンガ壁のような周期性のある構造をしている。この繰り返しの単位となる単位胞の形・大きさを決定することが、結晶格子決定(指数付け)と呼ばれる、結晶構造解析で最初に行う解析。の画像
結晶性の物質は、ある一つのまとまり(単位胞)を3方向に積み重ねた、レンガ壁のような周期性のある構造をしている。この繰り返しの単位となる単位胞の形・大きさを決定することが、結晶格子決定(指数付け)と呼ばれる、結晶構造解析で最初に行う解析。

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会見で説明する富安准教授

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