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大崎教授の海外駐在記「ガジャマダ大学駐在記(4)」

 8月7日にラマダン(断食月)が終わり、夜遅くまで街のレストランは賑わっていました。翌8日はレバダン(断食月明けの大祭)で、午前2時頃から花火が上がり、大祭の祈りのためにモスクに集まるようにと、大音響の呼びかけが、町の至る所から湧きおこっていました。8日と9日はイドル・フィトリという祝日休暇ですが、それに先立つ5日~7日は政令指定休日で、官公庁は一斉に休暇に入り、人々は故郷に帰省していきました。

 9日、私たち夫婦は、ジョクジャカルタ市郊外のイモギリ村に住む、デシさんという農学部の学生の実家に招待されました。彼女は山形大学農学部に6か月間留学しており、何かと私たちに気を使ってくれます。私達を迎えに来たのはデシさんのお父さんで、事前に何度も何度も念を押されたのは、犬を連れてこないでください、ということでした。

 私は犬が好きです。現在は、ミニュチュア・ダックスフンドのピース、4歳オスを飼っていて、海外のどこに行くにも同行しています。同行する最大の理由は、日本に預け先がないからです。しかし、インドネシアでは、と言うより、イスラム国家では、犬はブタと並んで忌み嫌われている不浄の動物でした。特に、黒い犬は悪魔と見なされていました。

 犬を海外に同行するためには、(1)動物病院で、個体識別番号を記録したマイクロチップを、犬の体内に埋め込んでもらう。(2)相模原市の畜産生物科学安全研究所に、獣医を通して犬の血清を送り、狂犬病に対する抗体値の証明書を発行してもらう。2年有効です。(3)渡航直前10日以内に獣医により発行された健康診断書、特に1年以内に行った狂犬病の予防接種の証明が必要です。(4)以上の書類を国際空港内にある農水省動物検疫所に示し、犬の輸出許可書を発行してもらう。この輸出許可証があれば、主な空路の航空機に、ケージ入りの犬を手荷物として持ち込めて、フリーパスで多くの国に入国できます。

 しかし、インドネシアは、これらの書類に加えて、到着地のジャカルタと滞在地のジョクジャカルタの犬受け入れ許可書が必要で、書類を揃えて事前にジャカルタの動物検疫所に提出し、犬の入国許可証を入国前に取得しておく必要がありました。さらに、動物検疫所での2週間の係留観察期間が設定されていました。そして、解放後も、犬はホテルに泊まれず、国内の一切の公共輸送機関、飛行機、列車、バス、に乗れずで、ジャカルタからジョグジャカルタまで、夜を徹してレンタカーで移動せざるを得ませんでした。

 なぜ犬が不浄なのか、コーランにはそうした記述はないそうです。恐らく、預言者ムハンマドがそう言ったのではないか、と想像されています。人は犬に触ろうとせず、子犬が近づいても、大人は悲鳴を上げて逃げ惑います。特に唾液が不浄だそうで、唾液がついたものは捨てられます。ゲストハウスの家具類に犬を触らせないようにと、何度も確認されました。礼拝中にモスクに犬が入れば、モスクは汚され礼拝は無効になるそうです。

 イスラム教徒には天使が2人ついていて、一方が善行を、他方が悪行を記録し、最後の審判にこの記録が使われ、善行が優れば天国に行けます。しかし、犬が入ったことのある部屋は不浄となり、その部屋に天使は入れなくなるそうです。そのため、その部屋で行った善行は、記録に残らないという不具合が起こります。犬にとって不本意な世界です。

ガジャマダ大学の大モスクの画像
ガジャマダ大学の大モスク

犬の散歩中の日本語クラスの学生。女子は遠巻きに眺めるだけだった。の画像
犬の散歩中の日本語クラスの学生。女子は遠巻きに眺めるだけだった。