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ジョモ・ケニヤッタ農工大学駐在記7(3)

  現在,「学生大使」としての学生派遣再開に向けたJKUATとの調整を進めている.「再開」を言うからには,2014年から「一時中止」した理由がある.ここに,その理由を整理してお伝えする.

中止判断の背景は,大きく分けて2つある.1つは,JKUATから約25kmの距離にあるナイロビ中心部の特定エリアが,2014年9月,外務省渡航危険情報レベルにおいて「レベル2」(不要不急の渡航は止めてください)に格上げされたことである.そのエリアは,「①ナイロビ東部イスリー地区周辺地域,②キベラ,マザレ,カワンガレ等スラム街周辺地域」となっている.このレベルを引き上げた理由として外務省は,「①」については爆弾を使うテロ事件が多発したこと.「②」についてはスラム街に拠点を置く武装犯罪集団(自動小銃や手りゅう弾で武装)が,強盗殺人や短時間誘拐などにおいて外国人を標的にし始めたことを掲げている.

  もう1つは,上段のテロの背景とも推測されているが,国際情勢に由来するテロ発生リスクである.ケニアの隣国ソマリアでは,イスラム過激派組織「アル・シャバーブ(AS)」が武装活動を行っている.その活動範囲は国境を越え,ケニアを含めた近隣諸国に及んでいる。その中でケニア政府は,AS掃討の姿勢を明らかにし,軍隊をソマリアに侵攻させた.それに対してASは,2013年9月の高級ショッピングモール「ウェストゲート」襲撃事件(67人死亡)など,ケニア軍侵攻に対する警告手段としてテロを選ぶようになった.その後,ケニア側がテロに報復することにより,双方の武力行使と暴力の連鎖が起きている.最近では,先月(2019年1月),ナイロビ中心部の高級ホテル「ディシットD2」がASにより襲撃(20人以上死亡)された.このリスクは,国際情勢がもたらす構造的なものであり,対立構造が解消されない限り根本的解決には至らないだろう.

  このうち,ナイロビの「レベル2」エリアについては,その周辺地域も含めて,興味本位で立ち入らないことがリスク対策となる.実際,JKUATの本学関係者も「(レベル2エリアは)我々も通常立ち入る地域ではない.ここ(JKUATのあるジュジャの街)に居れば安全だよ」と状況を見ている.私もそれぞれを訪れて,同じように感じた.

  判断を難しくするのは,国際政治情勢を踏まえたテロの脅威の方である.これに対しては,日本政府だけでなく,在ケニア米国大使館なども,ケニア全土,特にナイロビ中心街や主要観光地におけるテロの脅威を伝えている.日本政府は,テロの標的となりやすい場所として「観光地周辺の道路,スポーツの競技場,コンサートや記念日・祝祭日等のイベント,公共交通機関,観光施設,レストラン,ホテル,ショッピングモール,スーパーマーケット,ナイトクラブ,映画館等人が多く集まる施設,教会・モスク等宗教関係施設,政府関連施設等」を掲げている.最後に「等」まで付いては,外出するなと言っているに近い.とは言え,派遣した学生の行動範囲をJKUATのキャンパスとその周辺に限定するのでは,「学生大使」派遣プログラムの特徴を生かせない.難しい判断となる.

  ケニアで同宿のドレスデン工科大学(ドイツ)のS博士に,「現状のJKUATにドイツ人学生を派遣することついてどう思うか」と質問したところ,次のように応えた.「自分は,学生1人を既に2ヶ月間派遣している.学生の世話をきちんとしてくれるJKUAT教員(ドイツ留学から帰国したケニア人教員)がいるからだ.それから,派遣する学生の資質を十分に検討すべきだ.必要な資質として,外国滞在経験があること,旅行が好きで活動的なこと,それに,アフリカが好きなことが必要だと思う」.

  山大生のJKUAT派遣再開に向けた検討経過などは,別の機会に譲りたい.

ナイロビ東部イスリー地区(車内から)の画像
ナイロビ東部イスリー地区(車内から)

赤道直下の日差しに緑が生えるJKUATキャンパスの画像
赤道直下の日差しに緑が生えるJKUATキャンパス