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ラトビア大学駐在記7(2)

  ラトビア大学は,ここ数年来,キャンパスの大部分を現在の首都リガ中心部から市街を貫流するダウガヴァ川対岸(左岸)に移転する計画を進めている.新キャンパスは,まだ森に囲まれた土地に真新しい巨大建築物が2棟建つだけだが,近くにはラトビア国立図書館もあり,近い将来,この国を代表する文教地区に発展することは確実だ.

  既に理系学部を収容する新キャンパスの2棟,「House of Nature」(2015年竣工)と「House of Science」(2019年竣工)が完成しており,講義も始まっている.意匠を凝らした内部はとても近代的で,入口の自動回転扉を通ると,真新しい空港ターミナルに入ったような印象を受ける.講義の情報などを学生に知らせる液晶画面も,空港で運航情報を提供する設備に似ている.また,近くに飲食店がないためか,キャンパス内のカフェテリアも充実しており,学生などで賑わっている.郊外に広大なスペースを確保し,教育と研究の効率性を考えてデザインされた新キャンパスの建設は,日本でもよく見られる展開である.

  この移転の効果についてラトビア大学は,既に研究面に現れていると言い,例として,教員によるトップ学術ジャーナルへの掲載論文数の増加を誇っている.

また,若く繊細な感性をもつ学生にとっては,情緒面への影響もあるように思う.首都リガの中心部に点在する現校舎は,周辺の建物も含めて,ヨーロッパの伝統的建築様式やユーゲント・シュティール様式の特徴ある建築物である.特にユーゲント・シュティール様式の建物については,それを見に多くの西欧人が観光で訪れている事実から,彼らにとっても独特の感慨を生む建築群の中に現キャンパスは存在すると言えよう.そこでは,出入口の木製ドアが巨大で重く,学生は体当たりするように出入りしている.階段の手摺りや建具を含めて,旧キャンパスの建造物は,日本の木造校舎を懐かしく思い出すような,木の温もりを伝えてくる.また,窓の大きさは限られているため,建物内には独特の陰影がある.それが新キャンパスに移転したとたん,出入りは自動回転扉,一部外壁は足元までガラス貼りとなるのだから,新旧キャンパスでの施設環境の変化は著しい.この点,ラトビア大学は,最も伝統のある本部棟はそのまま残すのだという.旧きよき重厚な空間にも,関係者は継続して触れることができるわけだ.

  「学生大使」として山大生が活躍するラトビア大学人文学部の移転はしばらく先で,これから建設が始まる「House of Letters」という建物に同学部がまるごと移るのは,2022年9月からの予定となっている.この新しい建物には,文系の大概の学部が同居することになるという.そして,この2022年9月をもって,ラトビア大学の新キャンパスへの移転が全て完了する.

ところで,ラトビアにおける山大日本語クラスの受講生には社会人が多い.そのため,将来,それぞれの職場から新キャンパスまでの距離が遠くなる受講生には,使用教室の移転で出席し難くなるなどの影響が出るだろう.少なくとも同クラスの魅力を維持し,さらに高めていかなければならない.それは何より,ラトビアにおける山大生の活躍にかかっている.

既に使用されている新キャンパスの2棟の画像
既に使用されている新キャンパスの2棟

新キャンパス"House of Nature"内の1階ホールの画像
新キャンパス"House of Nature"内の1階ホール